しかたなく、女の子は店先で、海の音を聴きながらぼんやりと待っていました。 寄せては返す、絶え間ない旋律。いつも変わらない、波の音。 日々と同じように、時に満ちて、時に引いて。 さらさらと、そんな波に洗われて音を奏でる、小さな砂の粒。 疲れているせいもあってか、いつしか瞳も閉じてまどろみに落ちかけた、その時。 「こんばんは。」 変わらない海の調べに重なって、不意に流れた、高く柔らかい呼びかけの声。 「あっ……いらっしゃいませっ。」 女の子は慌てて目を覚まして、声の方に起き上がりました。 その、まだぼんやりした視界の先に。 菫色から群青色へと染まってゆく夕空を背景にして、店先に一人の娘が立っていました。 さらりと細い、肩まで伸びた栗色の髪。珍しい形のえり元の、真白い薄手の生地のコート。 「織物を取りにいらしたんですよね?遅いから、心配してたんですよ。」 「あ、そうじゃなくて……ちょっとお願いがあって……。」 慌てて胸の前で、硝子細工のように細い手を横に振って、娘は続けました。 ふわりと、夕暮れの綿の雲のように微笑みを浮かべて。 「もしよければ、この建物の、「機械」を見せてくれませんか?」 |