「あ……、その……、ちょうどよかったから……。」 女の子は、少し恥ずかしそうに俯いて呟きました。 昔はともかく、今は「月帽子織物店」で「機械」は眠りながらふたつの役目を果たし ていました。 ひとつは、女の子が働くこの作業場を、明るく照らす役目。 ぽん、ぽん、と球体や金属の腕に燈火をぶらさげた姿は、まるで大きな燭台のように 見えました。 そして、燈火だけでなく、もうひとつの明かり。 一緒にぶら下げられた籠の中からも、微かな淡い光が溢れていました。 籠には、女の子が海岸で少しずつ拾い集めた、大事な「星砂」が収められているので した。 そしてもうひとつは、女の子の織り機のために、蒼い糸を抱えて待機する役目。 細い金属の腕や、丸硝子のふちを糸巻きにして、くるくると巻き取られた夜天の流れ。 その幾筋かは、宙を渡って、傍らの木製の織り機と繋がっていました。 女の子の、ちいさな夜空に織り込まれるのを待ちながら。 「まるで、兄弟みたいね。」 ふわりと優しく微笑んで、「機械技師」は言いました。 「え……?」 「この子、何だか幸せそう。ひとりじゃないから、寂しくないもの。」 幾年もの時を経た大きな古い金属の「機械」と、手製の木でできた小さな織り機。 永い時間を超えて、蒼の糸で繋がって、今はふたりで女の子のために働いて。 「ここにきて、よかった。」 娘は、嬉しそうに少し首を傾げて、そんな「機械」をずっと見上げるのでした。 「あの、月祭りには行かなくていいのですか……?」 そんな娘を見て、ふと女の子は尋ねました。 「だって、今日が、月祭りの日、でしょう?」 「機械」を見つめていたそのまなざしを、くるりと振り返って向けて。 言葉を区切りながら、少し悪戯っぽく微笑んで娘は応えるのでした。 「……お茶でも、いれましょうか?」 そんな『機械技師』の不思議な微笑みを見つめてると、何だかほっとした気分になって。 女の子も、はじめて微笑みをかえしながら、そう応えました。 |