「機械」が織る夜空の時間は、ゆるやかに、だけど、ずっと早く流れていきました。 天を滑るように駆け上る月、同じ速度で東から西へと移る、無数の天の鉱石達。 女の子と娘は何も言わないまま、じっと流れる時間を見つめていました。 音もなく、やがて、西の低い空に、欠けた月が傾くまで。 削り落ちたドームの隙間からわずかにのぞく外の宇宙の星だけが、時に取り残されて、 動かないままずっと二人を見下ろしていました。 その時、不意に、何かを語るように。 『機械技師』の手元の水色のボタンが、ぽん、ぽんと明滅したのでした。 「どうしたの……?」 娘は、「機械」の声に耳を傾けるように、そっと、ボタンを押しました。 その瞬間、歯車の音だけが流れていた半円球の中に、大きな音楽が響き渡りました。 天球から光の滴がこぼれ落ちるように、数多の流れ星をその空に描きながら。 お月さまの沈みかけた暁の空を背景にして。 「機械」は残ったその動力で必死に音楽を奏ではじめました。 遠い昔の言葉で紡がれた、男の人の歌声。力強く響きながら、何処か寂しい調べ。 無数の流星群を、祈るようにその空に降らせながら。 「……判った。」 『機械技師』は、立ち上がってその調べを聴き取りながら、無意識に呟きました。 「この子の時代、星空、見えなかったんだ……。」 不意に、何故かくるりと「機械」と女の子に背を向けて。 娘も、音楽にあわせて、そっと歌を歌うのでした。 紡がれた言葉をたどるように、瞳を閉じ、その裏に見えない宇宙を描いて。 空を見上げた 瞳からこぼれる 君の名前を知りたい 声にならずに 消えてゆく言葉が 帰りの道を遠くする 流れる星を呼び止めて ぼくらは歌を歌えるから 明日旅する 夜明けの天使に 君の名前 きっと伝えるよ 「昔の言葉、判るの……?」 驚く女の子の問いにも応えず、ただ娘は歌いつづけました。 やがてお月さまが西の空に沈んで、朝の訪れとともに、「機械」が眠りに就くその時まで。 『月帽子織物店』にもとの時間が戻っても、しばらく娘はそのまま立ち尽くしていました。 その姿は何処かちいさくて、寂しそうに見えて。 「ねえ、おもて見にいってみません?」 もう残った織物のことも忘れてしまって、女の子はそっと明るい優しい声で呼びかけました。 |