Tin Waltz
「あなたがもうあってくれないなら、誰がわたしのうたを聴いてくれるの?」
学校の裏の、ゆるやかな坂道。
小さな木造の建物を包むように、護るようにそびえる、桜の大樹のたもとで。
枝に座って、泣きじゃくったあとの顔でつぶやく、わたし。
「だいじょうぶ。先生だってきみの歌が大好きだったもの。」
和服を纏った、少し長い髪の小さな男の子。
わたしよりもっと泣き出しそうな表情で、ほほえんで。
そっと、西の空にかかる赤い月を指差して。
「それに、お月さまはいつも聴いていてくれるから。」
大切なおもちゃのように、心の押し入れの片隅にしまわれていて、思い出せない音楽。
高く、そして何故か悲しく響く、金属の笛の音色。
それは茜色の空を貫いて、小さな三拍子の旋律を暮れてゆく空気に残してゆく。
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