Tin Waltz 






 「私、何やってるんだろ。」  今日の終わりの光を見つめたままで、なんだか、情けなくて、話したくなって。  「……フルートの演奏会の練習、さぼってここまできちゃった。」  「フルートとは、なんじゃ?楽器か?」  「知らないの?金属製の、横笛みたいなものよ。高くて、滑らかな音色がするの。」  「笛か……、ところで、おまえさん、歌うのは好きか?」  不意に、僅かながら真剣な目になって、私を振り向いて尋ねる青年。  「え、歌……?歌は私、へたっぴいだから……。」  少しびっくりしながら、応える私。  不思議と、なんだか、懐かしいやりとり。  「……フルートも、へたっぴいになっちゃったのかなぁ。」  ここのところ、ずっとゆううつだった。  演奏会が近いのに、どうしても、思い通りに吹けなくて。  考えれば考えるほど、糸がほつれるように、吹き方がわからなくなって。  「もし好きなら、心のままに、吹けばいい、歌えばいい。」  狐のような瞳をますます細めて、にこりと笑って。  「よかったら、これでも吹いてみるか?」




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