一日が夜天に包まれて眠るように、曲はそっと終わりを告げた。
街のあかりのように、幾つもの小さな響きを、ぽん、ぽん、と、余韻に残して。
「ねえ、ひとつ聞いてもいい?」
私は、まだ笛を両手に握ったままで、青年に尋ねた。
「この笛の持ち主は、今、何処にいるの?」
「……奴は、昔ここにあった学校の、家守じゃった。」
「……いえもり、って?」
「知らなければ、知らないでいいさね。」
枝の向こうの、まだ薄い夜空を見上げて呟く青年の横顔が、何処か寂しそうで。
「ねえ、持ち主に逢ったら、これを渡して、伝えておいて。」
私は、今は鈍い色を残した、小さなブリキの笛を青年に差し出した。
「私、あなたのおかげで、今でも、歌もフルートも、大好きだって。」
にっこりと、青年に微笑んだつもりだったけれど。
もしかしたら、青年の目には、何だか泣き出しそうな微笑みになってたかもしれない。
まるで、あの幼い日に、私に微笑んでくれた、家守の少年みたいに。
「伝えとくよ。いずれな。」
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