「きみは、歌うのは好きじゃないの?」 「だって、またみんなに、へたっぴいって言われるもん。」 「でも、僕はきみの歌を聴くのが好きだったよ。いつも、楽しそうだったから。」 桜の枝にぽつりと座るわたしを見上げて、ふんわりと言う、和服の男の子。 「……でもわたし、あなたに会うのはじめてよ。」 はじめて見る男の子に、不思議そうにつぶやく私。 この辺に、知らない子はいないはずなのに。 「好きだったら、歌えばいいよ。」 あの日、桜の樹の枝で、泣きべそかいたまま歌った歌は、どんな歌だったか。 「ほら、僕が伴奏を吹いてあげるから。」 男の子の吹く、小さな金属のたて笛は、夕焼けの色をしていた。 憶えてるのは、ただ、高く、高く澄んだ、ワルツのリズムだけ。 |