「ねえ、またここであってくれる?」 「……ごめん。多分、もう逢えないと思う。」 「どうして?」 「もう、時が来ちゃったから。だけど、一度だけでもきみに逢えて嬉しかった。」 「……あなたがあってくれないなら、わたし、もう歌わないから。」 わたしのわがままに、不意に、くしゃっと泣き出しそうな表情になって。 「そんなこと、いわないで。ずっと、うたってよ。」 はらはら、はらはら、幾重にも降り積もる、薄桃色の記憶のかけら。 ぼんやりと、桜の色が春の空気に煙って、見えるのは切ない別離の痛みだけ。
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