A Winter Book






 それから幾つかの雪の夜が過ぎた、ある夜更けのこと。

 少年が一人の夜を過ごして、もう寝ようと眠りの床につこうとしたその時でした。


 ぽろん、ぽとん。


 また少年の耳に届いた、あの調べ。
 それも、いつもよりも少し早い間隔で。

 慌てて寝床から窓の外を見ると、ほのかな月明かりが差し込んでいました。


 (ユキノにも、聴こえているのかな。)

 
 ぽろん、ぽとん。
 静かな月の夜に、一音、また一音。


 意を決して、少年は寝床から起きあがりました。

 「あの調べの正体を教えてあげなくっちゃ!」



 中天近くに浮かぶ、縁が欠け取られた中途半端な形の月。

 そんな月の真下を、少年は駆けていました。
 あの晩よりも白銀に強く輝く道標に導かれて、今度はたった一人で。

 もう一度、雪原に足跡を残して。



 やがて、凍った流れが途切れる、丘のふもとまでたどり着きました。

 丘と夜空の境界を見上げると、次第にまた空は曇りはじめていましたが、あの調べは、今も頂きから
はっきりと届いてきていました。


 少年は、急いで丘を駆けてゆきました。

 その度に、僅かながら確実に大きくなる、月の滴のような調べ。










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