「DESIRE 〜背徳の螺旋〜」は、1994年7月にC's wareからNEC PC-98シリーズ、富士通FM TOWNS向けのゲームとして発売されたものである。「マルチサイト」という斬新なゲームシステムと、物語の最後に至ってプレイヤーに大きな感動を呼ぶストーリーによって絶大な人気を呼び、C's wareを代表するゲームの一つとなった。
マルチサイトシステムを生みだしたDESIREと、このシステムをさらに発展させたものとしてその後発表された「EVE burst error」は、緻密なプロットと、結末で大きな驚きと切ない感動を味あわせてくれるストーリーとが相まってか、熱烈なファンを多数生みだし、ついにはコンシューマ向けゲーム機であるSEGA SATURNに移植されるまでになっている。
これらの作品はいずれも、深い悲しみを背負った真の主人公を中心に巻き起こる数々の事件を、男女二人からなる仮の主人公の視点から見たストーリーとして描くスタイルをとっている。しかし、その内容はもちろん大きく異なっており、次々と起こる殺人事件の犯人追跡が物語の根幹をなすEVEに対し、DESIREの物語の場合は殺人や誘拐事件は本筋ではなく、アルとマコトの愛情のすれ違いと、DESIREの施設そのものの謎解きであることが特徴的である。
特に、EVEの謎がその物語内で完結しているのに対し、DESIREをプレイした後には、並列時空や同時存在に関する疑問が残ったプレイヤーも多数いるのではないだろうか。
この文章では、DESIREのシナリオを詳細・精緻に分析し、その結果として予測される物語世界の拡大を可能性として提示するものである。決して、具体的なアナザーストーリーを描くものではないので注意されたい。とはいえ、この文章がDESIREのアナザーストーリー創作の一助になることがあれば幸いである。
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