制限酵素の投与法 ―ティーナとマルチナの場合―

「DESIRE 〜背徳の螺旋〜」を解きほぐす


II. 3つのシナリオにおける時空に関するイベントの詳細

前章では、DESIREのストーリー概略を全体に渡って示したが、DESIREをプレイした多くの人がプレイを終えた後になにかしら心に引っかかるものを持ったのではないだろうか。

それは、ティーナとの写真を胸に探し続けるアルが、目的を達成するときが来るのだろうかという漠然とした不安であったり、マコトが2年の後にDESIREを再度訪れた時に、一体装置をどう引き継ぎ、何をするつもりなのかという期待に満ちた希望であったりするのかもしれない。もしかすると、ティーナがマルチナとして苦難の道をどう生きてきたのかという部分が気になる人もいるだろう。

私の場合、それはもっぱら装置の動作の仕方とその結果起こったアル、ティーナ、マルチナの時空移動の内容であり、2年後に行われるであろうDESIREの稼働再開によりティーナやマルチナは救われるのであろうかということ、さらにはその時にアルはティーナに再開できるのであろうかという様な部分であった。

それらの部分を明らかにするため、各シナリオから装置の動作とそれに伴う人の移動に関する部分を抜き出して列挙したものを以下にあげる。いうなれば、各シナリオを骨だけにしたようなものである。また、装置の動作に直接関係していなくても互いの世界の関連を示唆する事象については示しておく。ただし、装置の動作そのものに関する事象は強調して表示する。

アル編

  1. アル、ティーナと浜辺で出会う
    この間3日間経過。次のシーンから最終日の装置内
  2. 研究所のロビーでティーナの声を聞くアル
  3. マルチナを責めるアル
  4. ゲーツとマルチナ、銃を持って対峙
  5. マルチナ、装置に落ちていく
  6. ゲーツに銃口を向けられる
  7. 制御パネルに銃弾が当たる
  8. ティーナと手を握り、装置に落ちる
  9. アル、ドーム内で目覚め、ティーナがいないことに気付く
  10. 装置は稼働を停止している
  11. 飛行場に飛行機が存在している
  12. 浜辺で倒れていたティーナと再会
    この間約6年間経過(アルの主観による)
  13. アルとティーナ、浜辺で写真を撮る
  14. ティーナ、マルチナの部屋でマルチナからの手紙を読む?
  15. 轟音と稲妻、歪んで見える研究所に集まる稲妻
  16. 稼働している研究所
  17. ゲーツ現われる
  18. 装置内に駆けこもうとするアルとティーナ
  19. アルは装置の中へ、ティーナは外へ残る
  20. 銃声、そして開くドア…
  21. マコトと再会するアル
  22. 装置収束、稼働停止へ
    この間時間経過あり
  23. 一緒に撮った写真を胸にティーナを探し続けるアル

マコト編

マコトは銃声を聞いてドーム内へ駆けこんでくるが、この時点ですでにマルチナはいなくなっている。

  1. アルとティーナ、ゲーツに銃口を向けられている
  2. ゲーツの銃弾が制御パネルに当たる
  3. アルとティーナが装置に落ち、光の中に飲み込まれる
    この間、数分間経過か?
  4. ゲーツ、カイルの手で装置に落とされる
  5. マコト、マルチナから託されたお守り(ICカード)を使用
  6. 装置内にオブジェクト確認
  7. アル、戻ってくる
  8. 装置収束、稼働停止へ
  9. マコトのICカードの内容への疑問
    この間約2年間経過
  10. 閉鎖されていたDESIREに赴くマコト、マルチナの「超次元理論」への言及

マルチナ編

このシナリオは、主にマルチナのモノローグという形で記述されているため、多少シーンを把握しづらいが、現物にあたるなりして補完していただきたい。

  1. 装置が完成した暁にはこの世の人でなくなる
  2. ICカードは彼を別世界から呼び戻すための、そして全てを彼女に託すためのもの
  3. デザイアが放棄されて本国へ戻るときは最悪のケース、二度と目的が成就することはない
  4. 装置内でティーナと一緒にいるマルチナ
  5. 装置が本来の役目を果たしたとき、マルチナはそしてティーナは生まれ変わる
  6. ドームの中で「アルー」と叫ぶ(そしてエコーが帰るのを楽しむ)ティーナ
  7. アルと対侍し、計画の失敗を悟るマルチナ
  8. グスタフと銃を向けあうマルチナ
  9. マルチナからティーナへの手紙の朗読
    装置の異常出力のため、空間位相が大きくずれるという指摘
    マルチナがティーナその人であるという事実
  10. 装置に落ちていくマルチナ
  11. 浜辺で目覚め、アルと出会うティーナ

事象の整列

これで、三つのシナリオにおける装置の動作と人の移動に関する事象は網羅された。次にこれらの関係を明らかにする必要がある。その前段階として各シナリオ間で共通する部分を元にして、物語における時間の流れを示したものを表1にあげる。

表1: 各シナリオを通じてのタイムテーブル
時刻 t1t2t3t4t5t6t7t8t9t10t11
アル編 A1A2A3A4A5A6A7A8A17A21A22
マコト編 M1M2M3M4M7M8
マルチナ編 T11T6T7T8T10

ここで、アル、マコト、マルチナの各シナリオを示す記号として、それぞれA, M, Tを用いた。時刻はtで示してある。また、t9における事象M4とA17は全く同時に起こっている訳ではなく、マコトのいる世界でM4の事象が起こった結果として、アルとティーナのいる世界でA17の事象が起こっているのだが、便宜上同一時間のものとして取り扱った。

各人物の通った道のり

次に、この表を元にアル、ティーナ、マルチナ、ゲーツ(グスタフ)の各々の世界線を記述する。世界線とは、各人物がどの世界をどのように辿ってきたかを図に示したものであり、人物や出来事の間の関係を整理するのに非常に有用である。

DESIREを舞台とする世界線を記すときに最も問題となるのは、アルとティーナが跳ばされ、また、約6年後にゲーツが現われた世界がどこの世界だったのかという問題である。この世界には、DESIREの建物は言うに及ばず、宿舎にはアルの荷物があり、飛行場には飛行機まで止まっていながら、アルとティーナ以外誰も存在していないという世界である。さらにアルとティーナは、アルの主観的な記録とはいえ約6年もの期間をここですごしている。マルチナがDESIREを建設する島を発見して研究所や他の建物を建造するまでの期間、DESIREが放棄されてからマコトが再び訪れるまでの期間を考えるに、とてもこちらの世界における別な時間に存在しているとは思えない。

ところが都合のよいことに、あちらの世界のアルとティーナはこちらの世界に戻ってきていることが描写、あるいは示唆されており、ゲーツはおそらく生きてはいないであろうことが示唆されている。したがって、あちらの世界がどこであったかという具体的な議論はとりあえず棚上げして世界線を記述しても、こちらの世界との他の事象との関連がないために問題の起こる余地がない。

世界線1
図1: 人物が世界間を移動する様子
これらの材料を元に、こちらの世界[W]とあちらの世界[V]の間を行き来するアル[A]、ティーナ[T]、マルチナ[M]、ゲーツ(グスタフ)[G]の様子を描いたものが図1である。この図を描く上で、DESIREの物語中で直接描写されておらず、したがって表1に記載されていない時間の扱いが問題となる。それはA19の事象の結果として示唆され、T9の手紙の内容として描かれているティーナの行方である。

A8における移動ではアルとティーナは手をつないでいたが、A19においてティーナはアルを装置内に閉じ込め、自らは装置の外に残ってしまう。そして、ここからA21までの間のどこかで世界Vから世界Wへのアルとティーナの移動が起こっているが、装置の異常出力のためのみならず、おそらく装置の中と外に別れたことも手伝って空間位相が大きくずれ、世界Wへの移動地点が言葉も通じない異国の地になってしまったのである。

その際、移動時刻も大きくずれてしまったのは、装置の異常出力が空間位相のずれだけでなく時間の位相にも影響を及ぼしたものと考えられる。そして、その時点はティーナがマルチナとして生きていくであろう世界であり、マルチナの娘ティーナの年齢などから考えて、DESIREの物語が語られている時点から10数年以上前にさかのぼった点なのであろう。ここでは、この点を新たにt0として図に表わすことにする。

ここまでの考察で、装置の動作に伴う4人の移動状況が明らかになった。また、この図からすぐにわかることであるが、ゲーツ(グスタフ)の時間線とアルの時間線は、各々t9からt9'、t8からt8', t10'を経由してt10に戻る線として単純に完結しており、この両名については特にこれ以上考察することもない。

しかし、ティーナとマルチナの移動については、互いの存在への干渉、並びに存在間の移行に関する疑問が多数存在しており、さらに詳細な考察が必要となる。


前頁 I. “DESIRE”の物語構成/次頁 III. ティーナとマルチナの軌跡


刈山純也 (なっきー)