前章では、DESIREのストーリー概略を全体に渡って示したが、DESIREをプレイした多くの人がプレイを終えた後になにかしら心に引っかかるものを持ったのではないだろうか。
それは、ティーナとの写真を胸に探し続けるアルが、目的を達成するときが来るのだろうかという漠然とした不安であったり、マコトが2年の後にDESIREを再度訪れた時に、一体装置をどう引き継ぎ、何をするつもりなのかという期待に満ちた希望であったりするのかもしれない。もしかすると、ティーナがマルチナとして苦難の道をどう生きてきたのかという部分が気になる人もいるだろう。
私の場合、それはもっぱら装置の動作の仕方とその結果起こったアル、ティーナ、マルチナの時空移動の内容であり、2年後に行われるであろうDESIREの稼働再開によりティーナやマルチナは救われるのであろうかということ、さらにはその時にアルはティーナに再開できるのであろうかという様な部分であった。
それらの部分を明らかにするため、各シナリオから装置の動作とそれに伴う人の移動に関する部分を抜き出して列挙したものを以下にあげる。いうなれば、各シナリオを骨だけにしたようなものである。また、装置の動作に直接関係していなくても互いの世界の関連を示唆する事象については示しておく。ただし、装置の動作そのものに関する事象は強調して表示する。
マコトは銃声を聞いてドーム内へ駆けこんでくるが、この時点ですでにマルチナはいなくなっている。
このシナリオは、主にマルチナのモノローグという形で記述されているため、多少シーンを把握しづらいが、現物にあたるなりして補完していただきたい。
これで、三つのシナリオにおける装置の動作と人の移動に関する事象は網羅された。次にこれらの関係を明らかにする必要がある。その前段階として各シナリオ間で共通する部分を元にして、物語における時間の流れを示したものを表1にあげる。
時刻 | t1 | … | t2 | t3 | t4 | t5 | t6 | t7 | t8 | t9 | t10 | t11 |
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アル編 | A1 | … | A2 | A3 | A4 | A5 | A6 | A7 | A8 | A17 | A21 | A22 |
マコト編 | M1 | M2 | M3 | M4 | M7 | M8 |
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マルチナ編 | T11 | T6 | T7 | T8 | T10 |
ここで、アル、マコト、マルチナの各シナリオを示す記号として、それぞれA, M, Tを用いた。時刻はtで示してある。また、t9における事象M4とA17は全く同時に起こっている訳ではなく、マコトのいる世界でM4の事象が起こった結果として、アルとティーナのいる世界でA17の事象が起こっているのだが、便宜上同一時間のものとして取り扱った。
次に、この表を元にアル、ティーナ、マルチナ、ゲーツ(グスタフ)の各々の世界線を記述する。世界線とは、各人物がどの世界をどのように辿ってきたかを図に示したものであり、人物や出来事の間の関係を整理するのに非常に有用である。
DESIREを舞台とする世界線を記すときに最も問題となるのは、アルとティーナが跳ばされ、また、約6年後にゲーツが現われた世界がどこの世界だったのかという問題である。この世界には、DESIREの建物は言うに及ばず、宿舎にはアルの荷物があり、飛行場には飛行機まで止まっていながら、アルとティーナ以外誰も存在していないという世界である。さらにアルとティーナは、アルの主観的な記録とはいえ約6年もの期間をここですごしている。マルチナがDESIREを建設する島を発見して研究所や他の建物を建造するまでの期間、DESIREが放棄されてからマコトが再び訪れるまでの期間を考えるに、とてもこちらの世界における別な時間に存在しているとは思えない。
ところが都合のよいことに、あちらの世界のアルとティーナはこちらの世界に戻ってきていることが描写、あるいは示唆されており、ゲーツはおそらく生きてはいないであろうことが示唆されている。したがって、あちらの世界がどこであったかという具体的な議論はとりあえず棚上げして世界線を記述しても、こちらの世界との他の事象との関連がないために問題の起こる余地がない。
図1: 人物が世界間を移動する様子
これらの材料を元に、こちらの世界[W]とあちらの世界[V]の間を行き来するアル[A]、ティーナ[T]、マルチナ[M]、ゲーツ(グスタフ)[G]の様子を描いたものが図1である。この図を描く上で、DESIREの物語中で直接描写されておらず、したがって表1に記載されていない時間の扱いが問題となる。それはA19の事象の結果として示唆され、T9の手紙の内容として描かれているティーナの行方である。
A8における移動ではアルとティーナは手をつないでいたが、A19においてティーナはアルを装置内に閉じ込め、自らは装置の外に残ってしまう。そして、ここからA21までの間のどこかで世界Vから世界Wへのアルとティーナの移動が起こっているが、装置の異常出力のためのみならず、おそらく装置の中と外に別れたことも手伝って空間位相が大きくずれ、世界Wへの移動地点が言葉も通じない異国の地になってしまったのである。
その際、移動時刻も大きくずれてしまったのは、装置の異常出力が空間位相のずれだけでなく時間の位相にも影響を及ぼしたものと考えられる。そして、その時点はティーナがマルチナとして生きていくであろう世界であり、マルチナの娘ティーナの年齢などから考えて、DESIREの物語が語られている時点から10数年以上前にさかのぼった点なのであろう。ここでは、この点を新たにt0として図に表わすことにする。
ここまでの考察で、装置の動作に伴う4人の移動状況が明らかになった。また、この図からすぐにわかることであるが、ゲーツ(グスタフ)の時間線とアルの時間線は、各々t9からt9'、t8からt8', t10'を経由してt10に戻る線として単純に完結しており、この両名については特にこれ以上考察することもない。
しかし、ティーナとマルチナの移動については、互いの存在への干渉、並びに存在間の移行に関する疑問が多数存在しており、さらに詳細な考察が必要となる。
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