制限酵素の投与法 ―ティーナとマルチナの場合―

「DESIRE 〜背徳の螺旋〜」を解きほぐす


V. 『螺旋』の途切れる時

これまで、DESIREの物語中から見い出される様々な事象から、ティーナとマルチナの生きている世界について考察し、マルチナの行おうとしたことに関する一つの可能性について、いろいろな方面から裏付けとなる理論を展開した。しかし、これらはあくまでも思考実験であり、DESIREの物語の中ではマルチナの望みはついに果たされず、再びティーナとなってアルと再会する。

それでは、DESIREの物語にはティーナとマルチナを悠久の螺旋から救い出す直接的な要素はなにもないのだろうか。

マコト編の最後のシーンで、マコトはICカードについての素朴な疑問を持つ。そしてそれから2年間、マコトはアルのこともカイルのこともふっきって、研究に没頭し、ついには総監督としてDESIREに赴くことになる。その途上、マコトはマルチナが数年前に発表しながらも誰からも顧みられることのなかった「超次元理論」に着目していることが示されている。このことは、マコトが装置は生体的な影響だけでなく、時空にも影響を及ぼすことを知っていることを示唆しており、残されたICカードにはアルとティーナが跳ばされていた世界の記述が含まれているかもしれないことを加味すると、マコトがティーナを助けてくれるかもしれない期待は高まるのである。

その時、二つの異なるティーナとマルチナの存在は、同時に救われるのだろうか。私は、アルの愛情がマコトの所へ再び彼を呼び寄せ、その効果によってきっと全てが救われるに違いないと期待するのである。


前頁 IV. マルチナの望みとは


刈山純也 (なっきー)