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UPDATE.1998.1/25
2000.1/28改訂
第2回 ウイスキー
琥珀色の思いで
う:「だるまを下さい」
N:「お?珍しいですね うつむく青年さん」 う:「僕、好きなんですよ。なんかだるまって、懐かしいって気がするじゃないですか?」 N:「ああ、確かにね。私もウイスキー全般にそういうイメージがありますよ。特にこのだるまには 思いでもあるんです。関西ではたぬきって言ってたんですけどね」 う:「そうなんですか?」 N:「そう聞いてます。サントリーは大阪の堂島に本社があるでしょう?だから販売エリア的に強いとかって 言うのもあったのかなぁ?バーというスタイルを日本で広め貢献したものにトリスバー・サントリーバーが あったと言われますけど、洋酒の飲酒スタイルへの憧憬をあおったのは確かでしょうね。私の思いでって いうのはもっと後の時代ですけどね」 う:「どのような?」 N:「ウイスキーのイメージって人それぞれ色々あると思いますが、私には大人のお酒というイメージがありました。その大人というのはまた色々で、私の場合木更津の港祭りの夜、このサントリー・オールドの ミニチュアボトルを手に持って、子供だった私に陽気に話し掛けてきた肉体労働の男性の存在が大きい。 見た感じは子どもながらに恐いなと思う人だったんですが、自分みたいなガキんちょつかまえて対等に 話してくれたことから、ちょっぴり大人の扱いをしてくれたんだと勝手に思って嬉しかったんですよ。 いわゆるただの酔っ払いで、きまぐれでしかなかったのでしょうが。口からもれるウイスキーの匂いをと ても良い匂いと感じました。もちろん紳士の飲むお酒というかっこいいイメージも別に持ってましたけど。」 う:「へえ。僕は学生の頃 これを良く飲んだんですよ。飲む以前から『懐かしい』っていうイメージを 持ってたのは不思議ですけどね」 N:「確かにイメージっていうのはアテにならない事を意味してますね。でも、そのイメージっていうのは お酒を飲む上で大切にしたいですよね。人生においても大切な気がする。うつむく青年さんは 今でこそ スピリッツが日常のお酒になってる気がしますけど、ウイスキーは他に何を?」 う:「バランタインのファイネスト。あれは学生の頃彼女と良く飲みました(^^;)」 N:「あ、時代や人と結びつくお酒を持っているっていのはいいですね。リーズナブルなお酒とは言えスコ ッチ、それもバランですか。私も、例のオールドから時が過ぎて自分が好んで嗜むようになると、この ウイスキーっていうのが 日本では誇れる文化なんだなと思うようになったんです。たとえば今の時代、 流行りに左右されるのは商業ベースでも同じです。加えて豊かな時代になって高級なもの、高価なものが スタンダードへとなってきました。昔の国産ウイスキーというとトリス・レッド・ホワイト・G&G 黒の50などでした。スナックや酒場でも少しずつ高いお酒が飲まれるようになり、キープするボトル さえリザーブやスーパーニッカ以上になってきました。売り手の演出などもあったとは思いますが、皆 の飲むお酒がよりいいものになってきたわけです。それは喜ばしいことですが、それ以上に嬉しいのはそ れでも過去飲み手を支えてきたダルマとかスタンダードウイスキーを求めるファンが存在し、それにメー カー各社も答えてきたということだと思うんです。恐らくメーカー側からすれば利幅の少ない価格の安い お酒っていうのは効率が悪い筈ですよね。ファンに応えてそれを作り続けていることに評価したいですね。
時と人とウイスキー
N:「Suzuki先生はどうですか?ウイスキーと言ったらやっぱり一番好きなお酒でしょう?」
S:「いやいや、僕はスコッチだけだから良く解らないですけど、学生の頃アルバイトしていて、その時 仕事先の社長さんとかに連れて行ってもらって飲んだジョニ黒は旨かったですねぇ。その頃は洋酒なんて 高くて自分のお金じゃ飲めなかったですから。」 N:「やっぱり思いでの酒って人それぞれありますよね」 S:「でも、マスターに言われてカティーサーク飲ませて頂いた時にはビックリしましたね。こんなに美味 しかったんだ!って」 N:「ま、確かに先生は良いスコッチばかり飲んでましたからね(笑)。お酒を色々飲んでいって味が解って 来ると、確かに高いお酒に行くものです。また、そうでなければ贅沢なお酒がこの世に存在する事の 意味合いが薄っぺらくなってしまいますからね。でも、もっとお酒の味が解ってくると、スタンダードな お酒にも良い個性があることが解ります。それは高い酒には無くなってしまった持ち味です。 高い酒はうまい。これは正しい。だからといって安い酒がまずいかというと必ずしもそうではあり ません。たとえば熟成期間ひとつとっても永い時をかけた酒は値段が高くなります。短ければ安い値段で 提供できます。その上で熟成期間の永い酒は(酒齢が高いといいます)原料(穀物等)の持つ荒々しさが とれてまろやかになります。しかし逆に力強さとか若々しさは失なわれます。酒齢の低いウイスキーは 逆でまろやかさはあまりありませんが、若さ・力強さを持っています。値段は後からついてくるものなの です。私がいつも言うことですが、酒は同じ人でもその時の体調や気分で求めるものが違います。今その 時、本当に満足できる酒というのは色々あって然るべきなんです。流行もいいでしょう。値段で飲むのも いいでしょう(高いから飲む・安いから飲む)。ですが凝り固まってしまっては新しい酒との出会いも、 自分の酒に対する可能性も得ることはなくなりますから。例えば 過去に飲んでけっして合わなかったお 酒がありますよね?でもその時からいくつかの時を重ねて、いくつかの経験をしてきて、もしかしたら そのお酒を受け止める器を、もう持ってるかもしれないと言うことですよ。私と出会った時の先生はまさに ソレでね、高いお酒に魅了されていた。たんに高い酒は飲みやすいから美味しく飲めるっていうだけじゃ なくて、細かな味わいにまで言及して話したもんでしょ?そこまで解るんだったらこのクラスのお酒も 解るはず・・・ってことで奨めたんですよ。 S:「いや、まいりました。ほんとにその通りでねぇ。マスターは凄い!」 N:「何もでませんよ(笑)。でもまあ、ウイスキーも人も時間と共に成長していくんですよね。酒齢に4を かけると人の年齢になるなんて考え方が面白いですけどね」 S:「ああ、8年の熟成期間なら8×4で32歳、12年なら48歳っていうアレですね?」 N:「そうそう、Suzuki先生は酒齢何年?(^^)」 S:「え?(笑)」
良いよね。日本のウイスキー
S:「実際 日本のウイスキーはどうなんですか?」
N:「私は素晴らしいと思いますよ。諸外国に比べて圧倒的に歴史が浅いのに、世界中から高い評価を 得ています。それはウイスキー造りに関わる全ての人々の努力の賜物でしょう。当然卓越した技術が なければ僅かな時間でここまで出来なかった筈です。ただでさえウイスキーは時間の産物ですからね」 S:「そうですか。確かに山崎とかうまいの沢山ありますよね。どうしてもスコッチを飲んじゃうけど」 N:「確かに、例えばリッチを売り物にして誕生したサントリーのローヤルでもモルトの数は20種類程度。 その点スコッチだとちょっとしたものでも30以上用いてます。蒸留所が沢山あって職人も拘りを求める事 があまりにも有名な諸外国のウイスキーが素晴らしいのは疑いの余地も無いんだけど、日本のウイスキー が成熟していくその課程で比較すると物足りない商品があったのは業者のせいじゃあありません。飲み手の 方がまだまだ未熟だったんです。だって、たかだか嗜好飲料のお酒にそんなにお金はかけられないでしょう ?だからまず販売価格という壁に当たります。その値段に見合った、それ以上の価値を我々が認められた 後、つまり商業的に成功して初めて持てる技術を動員したウイスキー造りが出来るわけですからね。 今や日本のメーカーの技術は絶対素晴らしい筈です。」 S:「良いウイスキーは値段が張るのは当然と思いますけど、日本のウイスキーは価格でちょっと手が出ない 部分もありますよね。スコッチが結構良いのがすっごく安いじゃないですか 今は。」 N:「確かにね。円高やらの問題もあるし。しかし技術もさることながらメーカーのウイスキー造りに 対する評価ももっと高くていいと思うんですよね。外国より国内の方が低いんですよ。それはウイスキー を日常のお酒にしている人の比率が圧倒的にすくないからでしょうね」 S:「そうですか?」 N:「だってビールや日本酒は大概の人が口にするでしょう?それに比べると・・・」 S:「確かにそうですね」 N:「で、『酒文化を広めたい』というテーマを持ってる私としては 話しがそこに及んだときに良く語ら せてもらってるんです。ウイスキーメーカーの努力の話しをね。しかしウイスキーを飲む機会が少ない から一般の人がそこに目を向けることも稀ですよね。それはまあ良いとしても、結構バーマンとかお酒を 生業にしてる人でも評価が厳しかったりするんですよねぇ。これではウイスキーに対して良くも悪くも 無垢な方達に真っ直ぐ伝わらないですよ」 M:「マスターが言うんだから・・・なんかあったんですね。良かったら聞かせてくださいよ」 N:「お?!みっちゃんの飽くなき探求心が(^^)。良いですよ、それ(笑)」 S:「バーテンの人の話?」 N:「ええ。世間には色々なバーマンがいます。それぞれ個性を持ち、どんなに高名なバーテンダーにも 代え難い存在、それぞれそういうポストにいる筈だと思います。そういう人は間違いなくお酒のナニカに魅了されてこの道についたバズだから勉強もしてるんですよ。お酒と一口に言っても色々だし、その対象の 捉え方も色々。だから分かり切った様な事柄でも業界人同士話しをするのは面白いんです。ある日 他のお客さんを交えてウイスキーの話しになったとき、確かスコッチだったな。スコッチを讃える会話に なったのね。その後で『日本のウイスキーはその点ダメですよね』って言うわけ」 M:「マスター何ていったんですか?」 N:「いや、例によって正直に。そんなことは無いんだと。忌むべきは我々飲み手が育ちきってないから、 とか さっき言ったようなことをね」 S:「納得なさったんですかね?」 N:「う〜ん そうでも無かったみたい。場の雰囲気を下げるわけにもいかないから細かいところまで 話しが出来なかったし、諸外国のウイスキーのすばらしさは確かに知ってるわけだから、それに魅了 されていると・・・ね? 受け止められなかったんだろうなぁ。 でも もし許されるならもっと話しがしたかったね。私の意見を最後まで聞いて貰って、その後ご意見を お伺いしたかったなぁ。さっきの話しの具体例なんだけどね、利幅の少ないであろう低価格のお酒。 実はトリスなんだけど、酒税法が一部変わった時が有ったでしょう?トリスは課税額が高くなって、 扱うお店もなくなって・・・」 S:「ああ、マスター トリスが無い無い、生産中止か?なんて騒いでた時がありましたね」 N:「そうそう、あげくに酒屋さんでデッドストックの2級って書いてあるトリスを慌てて残り3本 買った時の事(^^;)。あの時Suzuki先生が教えてくれたんですよね。まだ売ってましたよって。 あの時は、やたら税金でもっていかれる安いトリスは利幅が少ないから生産中止 かなぁなんて言ったんだよね。だって\600台だったのに\1000近くになっちゃったんだから、普通 買わない と思うよね?でもサントリーは造り続けてくれてるわけですよ。で また買い手も買ってくれてるんだよね。今でもあるんだから。つまりファンは単に安いから買ってたんじゃないんだよね。出逢いや切っ掛けはと もかくさ。このことからウイスキーファンは拘りを持ってるわけですし、誇りにしていい事だと思うね。 同時に、その気持ちに応え続けている日本のウイスキーメーカーも素晴らしい!と。もっと言うとさ、 こういうメーカーの取り組みが日本のウイスキーファンの質を上げていってくれてるんだよね」 M:「そこまで持ち上げますか。日本酒メーカーにもそんな思いを綴ってましたね」 N:「ちょっとそこのお嬢さんね。あのコラムは誉めてくれたよね(^^)。」 M:「あれは好きでしたね」 N:「きっと高価なウイスキーの銘柄や知識はあんまり知らないけど、ここでいうトリスを愛飲してる 人って言うのは素晴らしいウイスキー党だよね?それなら生業にしてる我々は負けないくらいお酒に 対して、あるいはお酒に関わる人たちに対して厳かでなくちゃってことなんだよね」 S:「いろんなウイスキーがありますよね。ウイスキー党としては色々楽しめていいんですけどね。 自分の好みとか、何を飲んでいいのか解らない時にマスターのアドバイスって助かりますよ」 N:「アテにならない時も有りますけど(^^;)つき合いが長いからお好みを知ってるっていうのはあります もんね。穀物から作ったお酒を蒸留して、そのままだと荒々しいので樽などにいれて熟成させる。 簡単にいうとそれだけのお酒なのに、色々な目的と規定、それぞれ産地の文化が絡み合ってホント 沢山のウイスキーがありますよね。」 S:「モルトとグレーンから始まって世界5大ウイスキーとか、色々教えてもらいましたよね。 僕はスコッチばっかりだけど(^^)」 N:「それでいいんですよ、お酒とのつき合いというのは。美味しいと思うもの、その時飲みたいものを飲 むのが一番なんです。世間は色々言うし、ウイスキーも沢山ありますけど、目の前のグラスにこそ真実が あるんですからね」 |