ときめきメモリアルショートストーリー

魅惑の香水


番外編『噂の真相』の巻


「まあ、お父様、お帰りなさいませ。」
「おお、ゆかり、た、ただいま、ゼイゼイ」
 その日、仕事を終えて帰宅した古式不動産社長・古式不動(こしき・ふどう)
42歳は他の物には目もくれず、息を切らせて一目散に娘のゆかりの部屋へや
ってきた。
「まあ、どうされたのですか? そんなに息を切らせて……。」
「いや、ゆかり、お前のことが心配でな。」
「心配・・ですか? 心配して頂けるのはとても嬉しいのですけど、何がそん
なに心配なのですか?」
「実はちょっと小耳に挟んだんだが……。」
 そういうと不動はひどく真剣な顔つきになってゆかりに言った。
「お前の通っている学校に屋上で不純異性交遊をして女生徒を妊娠させた男が
いるそうだな。」
「えっ?」
「うちの社員がそういう噂を聞いてきたんだ。」
 実は社員が聞いてきたと言っても偶然小耳に挟んだという訳ではない。目の
中に入れても痛くないほど、娘のゆかりを可愛がっている不動は常に娘の様子
をチェックしていないと心配で心配でたまらないのだ。それで複数の部下に愛
娘のゆかりの様子を秘かに監視させていたのであった。その中の一人がきらめ
き高校での彼についての悪い噂を聞き込んできたのである。
「しかもその男は確かお前とも付き合っていたあの男だというじゃないか。」
「屋上でどうとかという噂は聞いてはおりますけど・・、でも早乙女さんが妊
娠されていたとは初耳です。」
 ゆかりは驚いた表情で父の言葉を聞いていた。
「ゆかり、わしの知る限りではあの男はなかなか真面目そうだし、ゆかりが付
き合う相手としてはまあ仕方ないかと思っていたんだが、もう二度とあんな男
と口を聞いてはならんぞ。」
「まあ、どうしてですか?」
「あの男は屋上に女の子を連れ込んで襲いかかったらしいじゃないか。しかも
妊娠していたとなると今までにも何度もそういうことをやっていたに違いない。
そんなふしだらな男がお前のそばにいると思うとわしは心配で心配で仕事も手
につかんのだ。」
「・・・。」
「いいか、ゆかり。」
 不動はゆかりの肩に手をおいて言った。
「男というものは食虫植物みたいなもんなんだ。甘い言葉で女の子を引き寄せ
て油断したところをパクリと食べてしまおうと狙っとるのだ。」
「まあ、私はあの人に噛みつかれたことはありませんけれど……。」
「いや、実際に噛みつかれるとかそういうことじゃなくて、食虫植物云々とい
うのはものの例えだ。とにかく男というのは危険なもんなんだ。」
「それじゃ、お父様も食虫植物なのですか?」
「え・・・、い、いや、わ、わしはそんなことはないぞ、そんなことはないが
……。」
 思わぬことを言われてしどろもどろになる不動さんであった。
「と、とにかく!! もうあの男と口を聞いてはならんぞ。学校で顔を合わせ
ても無視するんだ。判ったな。
「はい、お父様がそうおっしゃるなら……。」

 ・・・なんだかどこかで話に行き違いがあるような……。不動は一体どんな
噂を聞いてきたのであろうか……。事の顛末はこうである。

                   *

片桐彩子 「ねえ、美樹原さん、藤崎さんの様子がなんだかおかしかったみた
      いだけどどうかしたの……。」
美樹原愛 「うん、はっきりとは判らないんだけど……、あの人と早乙女優美
      ちゃんが屋上で……。」
片桐彩子 「屋上で?」
美樹原愛 「なんだか押し倒したとかなんだとか……、はっきりとは判らない
      んだけど……。」
片桐彩子 「ええっ? 押し倒した? もしかして“ふじゅんいせいこーゆー”
      って奴??」
美樹原愛 「そ、そういうことになるのかしら……。」

                   *

古式ゆかり「まあ、片桐さん、どうかされたのですか? なんだか顔色が悪い
      ですよ。」
片桐彩子 「Oh!! 古式さん、私、ショックだわ。実はこれこれこういう
      訳で……。」
古式ゆかり「屋上であの人と優美さんが・・・、ですか?」
片桐彩子 「なんせ藤崎さんが見たってんだから……。藤崎さんは嘘をつくよ
      うな人じゃないし、かなりショックを受けてたって話だから本当
      らしいわよ。」
古式ゆかり「まあ・・・。」
                   *

朝日奈夕子「ねえ、ゆかりぃ、どうしたのよ、しけた顔してさ。なんか面白い
      ことない?」
古式ゆかり「あ、夕子さん。」
朝日奈夕子「なんだか知らないけど、元気出しなよ!!」
古式ゆかり「それが……。」
朝日奈夕子「えっ? まさか? あの人が優美ちゃんと屋上で?? そ、それ
      で???」
古式ゆかり「それでと言われますと??」
朝日奈夕子「どこまでやっちゃったのかってことよ。」
古式ゆかり「それは……、でも藤崎さんはかなり取り乱していたらしいですよ。」
朝日奈夕子「ふーん、あのいつも冷静な藤崎さんが取り乱してたって? それ
      じゃ、当然、キスくらいじゃ終わらなかったってことになるんじ
      ゃない?」
古式ゆかり「そ、そうでしょうか……。」

                   *

如月未緒 「えっ? 朝日奈さん、それ本当ですか?」
朝日奈夕子「うん、藤崎さんが見たって……。」
如月未緒 「あの人が……、信じられないわ。」
秋穂みのり「あ、なんの話ですか?」
朝日奈夕子「それが、これこれこういう訳で……。」
秋穂みのり「ええっ? 校内で不純異性交遊ですか?」
朝日奈夕子「そうらしいのよ。」
秋穂みのり「そういえば最近優美少し太ったんじゃないかしら。優美は夏休み
      にアイスを食べ過ぎたせいだって言ってましたけど……。」
朝日奈夕子「えっ? そ、それってまさか……。」
如月未緒 「そ、そんな……、あ、めまいが……。」

                   *

秋穂みのり「虹野先輩!! あの人と別れて下さい!!」
虹野沙希 「何よ、みのりちゃん、藪から棒に・・・。」
秋穂みのり「あの人は先輩を騙していたんですよ!!」
虹野沙希 「だからどういうことなの?」
秋穂みのり「あの人は優美ちゃんを妊娠させてしまってたんです。」
虹野沙希 「えっ! ま、まさか……。」
秋穂みのり「もう学校中で噂になってます。知らないんですか?」
虹野沙希 「し、知らないわ。」
秋穂みのり「もう、先輩ってば鈍いんだから……。それにしてもなんて無責任
      な男なの! 避妊くらいちゃんとするのが男の責任ってもんです
      よね。」
虹野沙希 「そ、そういう問題じゃないと思うけど……。」
秋穂みのり「とにかくあんな女性の敵ともう付き合わないで下さいね!」
虹野沙希 「(こんなことになるならあの時もう少し気絶してるフリをしとけ
      ばよかった……。)」
秋穂みのり「えっ? 何か言いました?」
虹野沙希 「な、何も……。」

                   *

【今日の教訓】噂というのは恐ろしいものである。(^^;



                             <つづく>

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