ICHI-YA
2001年に入って既に3作品目の「Una Noche」を終えた吉野圭吾さんに、「渋谷のトニー」についてインタビューしました。 |
−「渋谷のトニー」になっていく上で、どんなことを意識されましたか?
圭吾:最初の頃、「まだ(パウロの)神々しさが残ってるね」とか言われ続け(笑)。 そこを消すのが苦労したところ。あとは楽しみながらやってた。 舞台でパンツ一丁になれたことも、楽しかったし(笑)。
やってみて初めて「ああ」って思うことがいっぱいあったね。 トニーとマリアの出逢いのところなんて、稽古場でやっててどうなっちゃうのかと思ったもん。 なのにかなり受けてて、「あ、なんか、ちょっとわかってきた」と思った。 ただ一つの雰囲気でガーってやっていくだけじゃないところ。演出のバランスがいいのかなって思った。
−あの大真面目さがよかったですね。
圭吾:二人でがんばったよ…笑わないように(笑)。
一回、鼻水が止まらなかった時があって、ハナたれながらやってたよ。 「こんな夜更けにグラサンか」って言いながらハナたれてるの(笑)。 で、コカイン吸うところで吸いこんでた(笑)。
−歌詞や台詞がかなり古風だと思ったのですが、そこを楽しんでしまえる作りになっていたなと。
圭吾:そうだね。「ショバ代だよう」は好きだったよ(笑)。 初めにやってるころは、「ショバ代だよオラー!」みたいな怒鳴り口調でやってたんだけど、 「違うな」って…なんかもう、声がひっくりかえっちゃうくらいに「ショバ代だよゥ…」と行こうかなと。
−伝言ダイヤルの声もよかったですね
圭吾:あれがいちばん芝居がうまいんじゃないかっていう話がある(笑)。 生でやってるところより、 あの録音の「由美かおるさん」が一番うまいんじゃないかって。 ちょっと舌ったらずに「えんこーしてくだたる、おばたまをぼとべます」(笑)。
−特に表現に迷った言葉はありますか?
圭吾:「違うって。これだもんなトーシローは」っていうところ。 初めは恥かしかったんだけど、本番近くになって「あ、わかってきた。これはツッコミだ!」 って思って、早いツッコミ入れるようにして。
ホントはノリツッコミしようとも思ってたんだけどね。 「コーラ?」って聞かれたら「そうゴクゴク飲んで、シュワッとするぜ!…ってオイ!」 …みたいなことも千秋楽に考えたんだけど、 「いや!俺、それをやったらきっと、自爆するな」と思って(笑)。 そういうこと多いんだ。余計なことやると自爆するから。
−面白いキャラクターでしたね…。
圭吾:おかしいよね。今井さんもおかしかったし。 今井さんファンとしては、「手島」より(リストラサラリーマンの)「山本」のほうが人気らしいよ。
−千秋楽に、シャツの後ろにシャネルのマークがついていましたが…
圭吾:メイクさんが描いたの。…ちなみに(神戸公演の)「ラクダのシャツは?脱がないの?」「これがラクだ」っていうのは、僕が言えって言ったんだよ(笑)。
「今井さん、『これがらくだ』ですよ!」と。 山本、自信なさそうに言うもんだから、なつめさんに「言うならはっきり言いなさい!」って言われちゃって(笑)。
−刺青はシールですか?
圭吾:シール。3日はもつから、3日ごとに変えてた。 背中は龍で、胸は鯉。鯉が綺麗なんだ…よくできてたんだこれが。
−一幕は特に小道具が多かったと思うのですが…
圭吾:トニーのポケットはすごいよ。ドラえもんのポケットみたいだから(笑)。何でも出てくるからね。 なつめさんが探ったりもするから、どこに何が入ってるかは決めてて。 コカインとケータイは同じポッケで、シャブセットが胸。 忘れ物ないよう、まず大事なものから入れてって。最悪、シャブセットがないのが一番怖いからね。
−メイクがだんだん不健康そうになっていきましたね
圭吾:出るたびに濃くしてる。最後なんて凄いよね…パンダじゃないんだから(笑)。−覚醒剤の演技がリアルだと評判でしたが。
圭吾:うん。小池(修一郎)さんがいろいろ調べてくれて、ああいう感じになったんだ。 「呼吸」に来るみたいだよ。
−ハードな踊りばかりでしたが、大丈夫でしたか?
圭吾:踊りではそんなには疲れなかったよ。一幕のベッドの踊りも、「キーチョ」っていう2幕頭のも、そんなに疲れないんだ。 何が疲れるかってシャブの歌が一番疲れるね(笑)。 サウンドチェックの時も「シャブの歌」歌うしかないから、朝イチであれをやるとすごく苦しくて。
−「パウロ」同様、また生傷を作ったのでは?
圭吾:舞台を裸足で這い回ってたからすごく足が擦れるんだよ。普段でも俺が踊るときって結構脚を擦りながら使うんだ。だから、(摩擦で)熱いんだよね。 やってる間は、もう「入っちゃってる」から全然、おかまいなしだけど、 終わってみると血が出てたりする。
−一幕後半は凄かったですね。
圭吾:物がいろいろ散乱してるし…シャブセットとか毛布とか上着とか靴下とか、いろいろ落っこちてるじゃない。もう、邪魔でさあ(笑)…1幕の終わり、おかしいよね。舞台上にいろいろ落ちてて。−ハプニングはありましたか?
圭吾:一番困ったのは、ピストルが壊れちゃった時。 今井さんと取り合ってからポーンと投げて、落ちたのをマリアが取るじゃない。 その場面で、ボーンて投げたところで、ピストルが真っ二つに割れて!
ホントに真っ二つに、バラバラになっちゃって。 「わー、ヤバイ!」と思って、どうしようかなあ…と、こう今井さんにナイフ突きつけたりしながらいろいろ考えて。 「そうか、じゃあ…このナイフをうまくマリアの前にチャリンって落として、マリアがそれを拾ったところへ、 『貸せ!』って言いつつ襲いかかって、逆に俺が刺されちゃおう」と思ったんだ。 今井さんをグサってやりながらそこまで考えて、バン!ってナイフ抜いた瞬間に、よろけてナイフ飛ばしたら…計算通りマリアの前に、まさにシュワーッて飛んでって!ストンと落ちていったの。で、「よーし計算通りだ!」と思ってナイフのところへじわじわ這いずって行きながら、「取れ!取れ!」と思ったんだけど…マリアは取らないんだよ。
「なつめさん…?ええっ?退いてくのか?」 と思ったら、その時なつめさんはバラバラになった拳銃を、両手でかき集めて持ってたの(笑)。 で、「あっ…持ってるのね…?」と思いながら、自分でナイフを拾って、 バーンて撃たれに行ったんだけど。
後で「なつめさん、俺ナイフをうまく投げて、ナイフで刺されようと思ったんですよ。」って聞いてみたんだ。そしたら、 「あたしもそう思ったんだけど、もうピストルを両手で持っちゃってたの。 」って。 ナイフも取ろうと思ったんだけど、片手でも離すとピストルもバラバラになる(笑)…だからどうしても両手をピストルからはずせなかったって言われて「そっかー…」って(笑)。
あの時はホントにみごとに、凄い緊迫した空気が流れたんだよ。ナイフ・俺・なつめさん、さぁどうするどうするどうする…? 一瞬の間があって、「あっ…持ってる…!!」(笑)
なんか「ああ、芝居してる…!生だ…!」っていう感じで面白かったです(笑)。 次の日には拳銃、グルグル巻きにされて、また復活してた。
−2幕冒頭のダンスも面白かったですね。
圭吾:うん。みなさんに言われ続けていた「似てる」というところで、やっとネタが披露できたという感じですね(笑)。「逆バージョンでもいいんじゃないですか?」とか言ってたよ。俺がなつめさんになる。
−あの赤い下着を着ると。
圭吾:そうそう(笑)。それもアリでしょう。特注で。
今回の振付、カウントが全然ないんだよ。 「キーチョ」もベッドの踊りもカウントは決まってなくて、 だいたいの踊りを決めて、次の踊りを出す。 「じゃあ次、あれやってそれやって、はい、じゃ曲かけて合わせてみましょう」(笑)… そうやって作った。曲がちょっと余るから、って調整したり。 だから練習中、たまにすごく音が余るときがあってさ。 「あれー余っちゃいますねえ。なんにも、飛ばしてないですよねえ」とか言って。
−やるたびに違ったりする
圭吾:うん、違う。だから「あ、速いな」って思うときは、どっかで溜めて合わせたり、 「遅いなあ」と思ったら、逆にびゃーって飛ばしちゃったりとか。 お互いに感じあいながらやって。ベッドも「キーチョ」も、そういう踊りが踊れてすごく楽しかった。
ホントに、ああいう踊りを踊れる、合う人、っていうのは少ないんだろうね。 なつめさんとだから、あそこまでやれたんだと思う。 なつめさんも言ってたんだけど、感性が似てるんだよって。同じ人種だって言ってた。
−今までにないキャラクターでしたね。
圭吾:寂しいよなぁ、トニーは…。そうそう、俺、この間、車に轢かれそうになったのね。 タクシーがバーって迫って来て、よけたの。で、タクシーが止まって…そしたら出た言葉が
「ぅオイ!!」。
うわ、これトニーだよ(笑)。おかしかったよ…タクシーに轢かれそうになって、 キーって止まったところをクワッと睨んでさ、「ぅオイィ!!」 …って言った自分がちょっと、楽しかった。 一瞬、タクシー蹴ろうと思ったけどやめた(笑)。 もうちょっと迫ってたら、(ボンネットに)乗ってたかも知れないね。
二転三転、驚くわ驚くわ…作り手の思惑通りに転がされた感じの「Una Noche」、
これはこれで「観おわった後に何かが変わった」感じのする作品でございました(笑)。
道化、ホールデン、パウロ、トニー…と、たった半年間で巡り巡ってきた圭吾さんのオールラウンドなお仕事ぶりはまだ止まらず、まもなく東宝「屋根の上のヴァイオリン弾き」が始まります。「こんどはどんな?」という贅沢なワクワク感をいだきつつ楽しみに待ちましょう(^^)。