Current News 4 Oct,2005
2005 Summer vol.1 -Mozart!- 6月に大阪で幕を開け、7月・8月の東京公演まで3ヶ月間の「Mozart!」。そして9月の参加型ライブ「Toy Box 4」まで、濃く熱い夏を駆け抜けた吉野圭吾さんに、この夏の公演について伺いました。 ひさびさに前後編でお送りします。まずは「Mozart!」について。 |
-大阪・東京と、3ヶ月間の長丁場でしたね。vol.2 「Toy Box 4」編に続きます。
圭吾:そうですね。やっぱり、長いって、体調維持が大変ですね。
-東京千秋楽の酒場のシーンで、名乗る前に全員から「エマニュエル・シカネーダー!」と呼ばれた事件がありましたが、今回、予想はされていましたか?
圭吾:いいえ(笑)…大阪の千秋楽の時は特に何もなかったので、博多のオーラスにならなきゃ来ないと思ってました。帝劇で来るとは思いませんでしたね。やられました(笑)。知らなかったのは俺と、新人の石田(佳名子)さんと…指揮者も知らなかったらしいよ(笑)。怖い怖い。
-初演で同じいたずらを仕掛けられた時には、最初から周りの雰囲気が違っていた、ということでしたが。
圭吾:今回はうまく化かされたというか、みんな芸達者だね。みーんな、普通でした(笑)。前の時は、うちの女優たちが、出る前に「何があっても助けますから」って言ってたりしたんだけど、今回はなんにも言いやしない。もうみんな余裕でしたね。
-舞台上で数秒、静止していましたが…。
圭吾:前に「3年前、そんなことがあったね」っていう話をしたときに、「もっと驚くかと思ったのに」って言われたから、今回はちょっと驚いた芝居をしてみました(笑)。ちょっとたじたじしてみました。「もっとこう、テンパった姿が見たい!」って昔、言われたからね。じゃあ今度はそういう芝居をしますよ、と…ちょっと沈黙してみました(笑)。
-実際はもうスイッチが入っていたんですね。
圭吾:そうそう、もう(頭の中)グルグルグルグル(笑)。
-その後は完全に場を支配されていましたが。
圭吾:「へえ…やらせてくれるんだ」と(笑)。ただ、「どこへ行っちゃうの?」みたいな、元の芝居に戻れなくなっちゃう場合があるから、それには気をつけたけど。…本当はみんなをもっとヒヤヒヤさせたいんだけどね。「えぇーどうやって続けばいいんだよ!」みたいな(笑)。…そしたら、最悪あの、登場前のシーンからやろう(笑)。「じゃ、もう一回やろうか!居酒屋のシーン、君たちの歌から!」
-客席からも「エマニュエル・シカネーダー!」の声が出ていましたね。
圭吾:ホント。…ねえ、唯一そういうような役回りというか、楽しんでもらえるシーンと思って、がんばってます。
-「ちょっぴり」は作品中でも雰囲気の違う、エンターテイメント的なナンバーですよね。
圭吾:怖いよ。ある意味、素だからね!シカネーダーを通して、自分の役者の技量がすごく問われるから、怖い。
-登場シーンでは「知らない」といわれたときの反応など、いろいろなことがありましたね。
圭吾:いつもこう…考えるんだよね。考えるっていうか、その場の雰囲気を掴むというか。どうやったら、みんながやりやすいかな、とか。みんながやりやすいってことはこっちがやりやすいっていうことだから。それがきっと、5ヶ月間ずっとやり続けてく上の課題なんだろうな。
そして、何がいちばん大事なことなのか、何をいちばん伝えたいシーンなのか。そういうとこも大切だよね。それが、何がどう転ぶにしても、忘れちゃいけないことだから。 いちばん大切なのは「モーツァルト君を乗らせる」ということで。「モーツァルト君との出会い」のシーンだからね。そこはいちばん大事。モーツァルトを置きっぱなしにして楽しむシーンではないので。そこを忘れないように、しっかり追求して行きたいと思います。
やっぱり、アマデウスの話だから、その人生の中で、彼が曲を作って生きていく中での、ひとつのスパイスでなきゃいけないと思うんだよね。引っかかってやらなきゃ、そうしなければ彼の人生、積みあがらない。この3時間ぐらいのお話の中で、彼の一生を描くのにさ。それぞれのシーンで、引っかかって引っかかって引っかかって、彼の人生、積み上げてかなきゃいけないから。そういうようなシカネーダーでありたいな。
-「ちょっぴり」のシーンでは中川ヴォルフがよく、ステッキに魅せられたようについて来ていましたね。
圭吾:ああ、あれは魔法のステッキだからね(笑)。やっぱりあの、酒場のシーンではあのステッキが大事だから。あれでみんなこう酔わせるというか。ほら、ねずみとかをさ、笛で連れてっちゃうお話あるじゃない。ああいう感じ。
-シカネーダーはいつもステッキや笛を持っていますね。
圭吾:そうだね。ものを持ってないと落ち着かない(笑)。小道具とか好きなんだよ…ものに頼ってる、いかんね(笑)。役者って舞台でドキドキするとさ、人に触りたくなるわけ(笑)。ついつい人に、触れたくなるの。
-安心感があるのでしょうか。
圭吾:俺に関してはそうだね。やたらと触る!「そうだよな!」って言いながらいちいち人の肩に手かけたり…「そんなに触らなくても…しっかり一人で立て!」って思うんだけど。俺だけに限らず、役者ってそういうところがある(笑)。
-そのよりどころをステッキに。
圭吾:そうそう。ステッキがないともう「どうしたらいいの?」って(笑)。
-プラター公園で手を挙げるところですが、やはりシカネーダーも胴斬りをやりたいんでしょうか。
圭吾:やりたいの。…むしろ自分が箱に入りたい(笑)。
-大阪で一時期、ヴォルフに何か手渡していませんでしたか?
圭吾:チケットをあげてた!胴斬りチケット。「これ渡したら斬らしてもらえるから」って、チケット渡してたの。プラター公園の胴斬りチケット。シカネーダー、なんでも知ってるから(笑)。
-フランス革命チェイサーのシーンですが、「魔笛」の台本を持って歩いていたのはなぜでしょうか。
圭吾:あれは、俺の設定では、「魔笛」の台本ができて、「ヴォルフに見せに行こう!」…っていう、夜道でございますよ(笑)。そんな夜道に「おーい!パリで市民が蜂起したぞ!」と。「おっ?おおお!…やっぱり、来ちゃったんじゃないの?!」…っていう、シーンですね。衣装とカバンが合ってないって言われたけど(笑)…かわいいカバンだよね(笑)。
-「友だち甲斐」のシーンでヴォルフのお金を投げ合うのは脚本にあったのでしょうか?
圭吾:いや?「もっと面白くならないかな」と思って、考えました(笑)。中川モーツァルトが怒った顔するけど、懲りずにやってます(笑)。作曲のジャマしたりするところも、(北林)優香さんのアンナと二人で「怖いね。怒ってるよね。…でも、やっちゃお!」(笑)
-悪い友達がジャマをしても、曲はできるわけですね。
圭吾:そうそう(笑)。曲ができて、ご機嫌になるっていうシーンだからね。 その後の「ダンスはやめられない」の、伏線みたいなもんだし。 俺らが騒げば騒ぐほど「ダンスはやめられない」がひき立つわけじゃないですか。 そういう風にできてるんだよ。ほんとに大騒ぎして、部屋ん中ちらかして、行ったほうがいいわけじゃない。そこを考えた上でのバカ騒ぎなわけです(笑)。 たいへんですよ毎回あそこは。その前がナンネールの「プリンスは出て行った」だし、テンションを上げないと。
-二人のヴォルフガングの、3年ぶりの印象はいかがでしたか。
圭吾:自分もそうだけどやっぱり、三年前とは違うよね。成長してるんだろうと思う。投げれば返してくるし、向こうが投げれば俺も返すし。そういうキャッチボールが、三年前よりもできるようになったんじゃないかな。
-それぞれのヴォルフの個性に応じて、お芝居が変わってくるところはありますか?
圭吾:あんまり考えてはいないね。やってみて、どう来るかっていうところが面白いかな、と。「今日はどっちだからこうしよう」とかは、ない。それよりやっぱり、一緒に舞台立ってみて、相手の感情をその場で汲み取れるのがいいんじゃないかな。その時の相手次第だから、あんまり前もって考えることはしない。段取りが違うところはあるけど、それはわかってて、その上でどう来るか、みたいなことかな。
-「魔笛」作曲シーンで、「ちょっぴり」を歌うシーンが、ヴォルフとのデュエットになったのは今年からですね。
圭吾:なんか、ちょっとは二人の意思の疎通みたいなのが出せないかなあ、ってさ。二人で歌ってみたりしたいんですけど…って申し出て、やらせてもらいました。
-井上ヴォルフが時々頭をぶつけてきていましたが…。
圭吾:井上くんからやり出したの(笑)。けっこう痛いんだよねー。「激しいのはやめてくれ、カツラが取れるから」って言ってる(笑)。一回、本当にずれそうになったことがあった…恥かしくて後ろ向いちゃったよ。「あっ!嫌!」って、すっごい弱くなった自分がいた。そんなことにも動じない大きな心が欲しいわ(笑)。
-一幕最後の「影から逃れて」や「Mozart!Mozart!」での、ヴォルフに対する感情はどのようなものなのでしょうか。
圭吾:一幕終わりは、シカネーダーのカッコしてるけど、そうじゃない、きっとたぶんモーツァルトの影の部分の声かな、とか思いながらやってます。 …こっちが役を作ってやるんじゃなくって、モーツァルト自身が俺たちを想像しているというか。モーツァルト自身が描いてる夢というか。周りとしては、自分の意思がどうこうじゃないね…俺はそう思うんだけど。
「Mozart!Mozart!」の方は、生っぽいよね。あれはもう「責めたてる」っていうか「もっとやれるからもっと書け、お前、できるんだから。もっとやれ!…おぉー?!やっぱりいいねぇ!」っていう。「いいねいいね、もっともっと!!」っていうシーンだからさ。こっちが、わー、きー!ってなるシーンだから。それはまた別。
一幕の「影を逃れて」って、モーツァルトが見る「夢」だよね。あの、仮面舞踏会に近い感じだと思う。モーツァルト自身が、見ているもの、感じているもの、勝手に想像しているもの。聴こえてくる声…の部分。と思う。
で、二幕のいちばん最後の「影を逃れて」は、それぞれ自分に問う、歌う感じ。
-シカネーダーはシカネーダー自身に。
圭吾:うん。そうだし、吉野圭吾自身に問う歌でもあるし。それはみんな一人一人の、個人の歌だと思う。そういう雰囲気だと思うし。
-「Mozart!Mozart!」は「魔笛」のすぐ後ですが、気持ちを切り替える感じでしょうか?
圭吾:いや、「魔笛」で成功して「よっしゃ!」っていう、その勢いだからね。表面の勢いじゃなくて、それを腹に落としたところでの、「熱狂・Mozart!Mozart!」だから、そんな大きな気持ちの変わりはないんだ。とにかく「もっと書け」っていうところだよね。みんながもっともっとこう、やらないと。「何に押しつぶされるんだ?」っていう、そこがしっかり成立しないと、ヴォルフガングが死ねないでしょ。…台から落ちてもいいくらいの勢いで行ってます。落ちたくはないけど(笑)。
-退場していくときにシカネーダーが両手を上げるのは、その勢いをまだ保っている感じでしょうか。
圭吾:うん。その「思い」が、退いていくわけじゃないからね!退場しなきゃいけないから、その方向が、舞台の中心から外に向くだけで。でも「退いて」行っちゃいけないんだよ。
もっと求めなきゃいけないから。「モーツァルト!!」って曲が終わって、で、また、曲が流れだすところでは、もっと、その上を求めなきゃいけないからね。それは決して「わーっ!」っていう勢いじゃなく、もっと心の中のマグマを、グツグツさせるような、そういう求め方にしてかなきゃな、って思う。
-単に客席からその光景が遠ざかっていくだけであって、まだ「熱狂」というシーンは続いていくわけですね。
圭吾:そうそう。まだまだ、もっともっとあの先があるっていう。その中でヴォルフガングは死んでいかないと。