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2010年7月〜9月にわたって上演されたTSミュージカル「タン・ビエットの唄」についてのインタビューです。
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◆目次
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-今年の「タン・ビエットの唄」で、特に追求したところはどんなところでしょうか?
圭吾:全体的に追求した(笑)。五人の関係性もあらためて追求しました。ハインもそうだし、他の役もそうだけど、置かれてる立場が、背景が、瞬時に見えなきゃいけないじゃない。そういうところにこだわったかな。
-以前は5人の中でハインが最年少のようでしたが、今回はそういう雰囲気は前面に出てはいなかったですね。
圭吾:うん、そうだね。まあ最年少なんだけど、「子供っぽくしよう」っていうのは(今回は)とっぱらった。
-冒頭のホーチミンの場面では今回も「シクロ」の人と、その後で街を横切っていく老人の二役がありましたね。
圭吾:うん。忙しいんだよあのへん…すぐまた(トアンの歌の間に)後ろで荷物運ぶ人にならなきゃいけないし。そのあとまた、腕まくりして出なきゃいけないし。
-後方は八百屋舞台になっていましたが、動きが難しくはなかったですか?
圭吾:バランス感覚だね。ああいうところでやるときは、下を見ないでやる。自分の目線の範囲で、回ったりしないと…側転は別にどうってことないんだけど、回りモノが難しいんだよ。靴が滑らないから、脚がついてこない。
-「もしも自由を手にしたなら」の棒の踊りは、今回も激しくて難しそうな動きでした。
圭吾:やる前はね、やりたくないんですよ(笑)。「弱気はいけない、攻めなきゃ!攻めなきゃ!」と思いながら、あのシーンに突入していってました。
-その後のティエンの「タン・ビエットの唄」に5人がハミングをかぶせていくところは、優しい場面でしたね。
圭吾:何気に俺、ミヤ(宮川浩)さんと肩組んでる、二人のポーズが好きだった。自然にああなったんだけど。
-ゴクの場面で出てくる剣舞の人は、お囃子隊ということでしたね。
圭吾:そうだよ。普段は農業やってる人が、踊りに駆り出されたの。だって稲刈りだもん、あれの動きは。
-普通に歩くときは後ろに手を組んでいる雰囲気が不思議でしたが…。
圭吾:武闘家みたいな(笑)そういうイメージ。凛とした人をやりたかった。だから後ろで手、組んじゃったの。田んぼの剣士のイメージです。
-ダナンで現在のハインが登場してくる場面では、ぐっと落としたトーンの声に変わっていましたね。
圭吾:音響さんに「これぐらいの声でもいい?」って確認しながらやってました。今回は「あんまり(フェイたちと)会話のリズムを合わせないようにした」ところがある。「売り言葉に買い言葉にならないほうがいいな、その余白の部分が大事かな」と。そこで何かを想像してもらえるのかな、と思って。
-ハインの台詞の流れがあって、そこにフェイやトアンの言葉が絡んでいくわけですね。
圭吾:そうだね。あの場面では彼らの時間ではなくて、ハインの時間が流れないとな、と。あんまり(会話のリズムが)噛み合わないほうがいいや、ってわざと外してる部分もあった。
-回想シーンで子供を連れて脱出するときの、仲間たちとの別れの場面が細やかでしたね。
圭吾:「みんなに赤ん坊見せに行っていいですか?」って、稽古場でやってみたんだけど時間がないって言われて。「いや!必要です!時間内で収めます!」(笑) だってみんなも一人一人、赤ん坊と「さよなら」言いたいかなって。
-トアンとの掛け合いは前回、最初から決めずに「心と心がぶつかり合う」基本のところを作っていった…とのことでしたが、今回もそのように?
圭吾:そうだね。稽古中はそうやって、今の形になるまで、なんにも決めなかった。かなり経ってから「…そろそろ決めんとな!」「そうですね」って(笑)。何をするかっていうか、動線ぐらいは、最終的には決めときました。
-転んだり殴り飛ばされたり、非常に激しい動きでしたが。
圭吾:無理をしなければ、転んでしまったほうが楽なんですよ。
…音響さんが言ってたんだけど、殴られたときに「吉野さん、空気人形みたい!よく飛ぶよね」(笑)。本当は俺はあの(舞台袖の)セットに、パン!と当たりたかったんだけど。なかなかそこまでいかない。…でもケガは絶えませんでしたよ(笑)。
-体全体を使っていましたからね。
圭吾:こんなに汗かいたの初めてですよ。顔もびっちゃびちゃだもん。霧吹きで吹いたみたいだった。
-最終的に、ハイン自身はフェイの言葉に納得していないまま終わっているのかなと感じました。
圭吾:うん、ぜんぜん納得してないね。納得しなくてもいいのかな、って思ったの。別に、あの場でハインが心変わりするとか、そういうことって必要じゃないよなと。それは次のシーンで、子供が出てくることで、暗示されていればいいんじゃないかと。それでも、観た人に「あの中で、一番救われたのはハインだよね、子供が生きてて」って言われた。
-ラストシーンでは、スローモーションも綺麗でしたね。
圭吾:片足で終わるのにこだわってました。いつも「だいたいこんな感じかな」って合わせて、合わないときは両足になっちゃうんだけど、千秋楽はなにがなんでも片足で終わりたかった(笑)。「未来への一歩を踏み出すところで終わる!」…こだわってました(笑)。
-精神的にも肉体的にも、ひとつの人生を辿るような、ハードな作品でしたね。
圭吾:甘えが許されない。「甘えはいらないー」って感じなんだよ(笑)。誰も、誰一人、脱落してはいけない。 ホントに命かけないと、みんなに負けそうな気がするし、申し訳ない。サッカーなんかと同じで、みんなが全力で走らなきゃいけない。その中で失敗はあるけど、そんなことは関係ない。とにかく、全力で走らなきゃいけない、っていうことがルールなの。暗黙の了解なんだよ、TSミュージカルは。
-まず走る。
圭吾:まず走る!…「なんにしても走れ」っていうことです(笑)。だから、自分だけが負けるってことは許されないことなんですよ。
-そんな公演を連日、時には二回公演もあったわけですが…。
圭吾:でも、気持ちは楽なんだよ。二回公演の時は、もっとこう「つながる」のが早くなるから。気持ちはどんどん動いていくし、芝居的にはやりやすい。けど、声が出ないし、体も疲れちゃうから難しいね。
-命を燃やした夏でしたね。
圭吾:燃やしたよ…!正直、燃やした。 それが礼儀です。作品に対する、役に対する礼儀。
でも、どの作品もいっしょだけどね!どの作品に対しても、それが仕事だからね。「モーツァルト!」だって!燃やしますよ。
…いい夏でした。