競馬学校教官の指導に寄せて

騎手と戦法


 すべての騎手は、勝つことに最前を尽くすべきだが、と同時にルールを守り、ほかの馬に危険を及ぼさないように騎乗しなければならない。それでも当然のことだが、ライヴァルを倒すために作戦を絞る騎手は多く、成功するための競争は非常に激しいので、レースの前にほかの騎手の作戦をできるだけ知っておく必要がある。
 まえもって乗り方をよく考える騎手は、レースはどんなペースで進められるか、一番人気の馬はどの位置につけるか、トラックの状態はどうか、どこが最も走りやすいか、自分の馬はほかの馬と比較してどれくらいのスピードがあるか、などについて思い巡らす。その週のあいだにトレーニング・センタ−で騎乗していれば、熱心な騎手ならば、同じレースに出るはずの馬について、いろいろと知る機会もあるだろう。騎手は、レースでの騎乗を決まり切った同じ仕事とは考えずに、個々の馬にあった乗り方をすべきで、それによって最もよい結果が出れば、それだけ騎手の評判を高めることになる。
 能力が低く、勝つチャンスのほとんど無い馬に騎乗するときには、その馬が最高の能力を発揮できるように騎乗すべきである。馬主や調教師は、そういう馬をどれほどよく走らせるかによって、若い騎手の能力を判断することが多く、上手く騎乗できれば、もっと良い馬がまわってくるかもしれない。
 また、ほかの騎手が乗って期待外れに終わったような馬に騎乗したときには、これまでの戦法を捨てて冒険と思われるような乗り方をするのもいい。いつも先行をするようなレースをしていたなら、調教師に頼んで馬群から離して追走してみたり、また鞭をとても多く使っていたなら、使わないようにすると馬はその心優しさに反応するかも知れない。騎手であるなら、騎乗する馬がそれまで好走していない場合は、戦法を変えることを恐れてはならず、そしてレース中には素早く考え、最も良い行動をとるように判断すべきである。
 騎手のなかには、レースに騎乗することは、だれが最も激しく馬を叩くことができるかの競争だ、と考えているような者もいる。だが、鞭を使ったために負けてしまったケースも多く、じっさいゴールの近くにきて鞭を振るう騎手は、すでに全力を出している馬をどんなにか暗い気持ちにさせていることだろう。騎手はときどき、自分が騎乗した馬のなかで、鞭を見たときに闘争心を失った馬がどれほどいるか、自らに問うてみるべきである。正直に考えてみると、きっと驚くことだろう。

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