トレーニング・センター
学校とトレーニング・センターに違いがあるのは当然で、その比較をしておく必要があるだろう。
学校での生活は厳格だし、規則を厳守しなければならないので、トレーニング・センターにいくと生徒は、もっとリラックスした生活を送ろうとするが、それはそれで少年達にとっては自然なことである。しかしトレーニング・センターにおいても、学校での規則は守られるべきで、学校のほうも教官を定期的に派遣して様子をよく見ておいたほうがいい。
トレーニング・センターでの騎乗練習は、生徒にとっては学校とは大違いだろう。無線で繰り返しアドヴァイスする教官はいないので、自分自身で考え、正しくスピードを保たなければならないし、たとえ騎乗姿勢に気がまわらなかったとしても、すぐに気づいてくれる者もいなければ、手綱が緩んでいたり、そのほか学校ではしなかったことをしたところで、注意してくれる者もいない。
学校では通過タイムをいつも教えられていたので、ペース判断ができるようになっているが、それはトレーニング・センターという大きな全く異なる環境のもとでも、正しいスピードを保つためにはとても役に立つ。だが競馬場では、正しいペース判断はそれほど重要では無くなる。日本では騎手は、スタートしてから最初のカーヴまで、ペースやタイムをほとんど、あるいは全く気にかけることなく、できるだけ早く走らせようとするからで、こういう状況では通過タイムによって培われたペース判断が使われる余地はない。馬にとって、これがどれほど良くないかを証明するチャンスは無いかも知れないが、このような乗り方が多くの馬にとって好ましくないのは間違いない。騎手のなかには、ペースが速すぎるときには馬群から離れ、先行争いをしていた馬たちを尻目に勝ってしまうものもいるので、若い騎乗者が、無理せずペースについていくこつを身につけることができたならば、この問題も解決するだろう。
手綱を緩めたまま騎乗することは、トレーニング・センターではきわめて一般的に行われていて、そのほうが楽に乗れるし、調教師も馬がリラックスしているほうが喜ぶともいわれている。しかし、すでに見てきたように、馬はしっかりと頭を制御しながら乗るべきで、それによって正しいフォームとなり、後肢の踏み込みも深く、前肢の動きも軽くなる。表面が堅かったり、ダートの不良馬場ではこれは重要なことで、濡れた砂のトラックだと走り易く、路盤に激しく肢をたたきつけるのは簡単だが、そのために肢を傷めたり、ときには骨折さえしかねない。それに怪我の危険だけでなく、馬はいやになって走る気を無くしてしまうので、手綱を緩めて乗っていいことはない。馬に乗るときに非常に重要なのは、つねにコミニュケーションをとって走る気にさせ、気持ちを集中させることで、これがきちんとできるかどうかは、馬と騎手の両方にとって重要である。レース中に騎手が、拳に重心を預け、手綱を緩めて乗っているのをたびたび見かけるが、そういう乗り方をしていると、突然追い出されたとしても、馬は素早く反応してスピードをあげることはできない。馬にとっては、自分が身を守れるようなペースが続いたほうがいいにしても、追い出される前には手綱はつねに引かれていて、走る準備を整わせておくべきで、弓から放たれる前の矢のようでなければならない。
トレーニング・センターでしばらくすごしたあとで学校に戻ると、生徒たちが進歩の跡を見せると期待されるものである。少し年をとり、経験も積んで、力強くなっているからで、にもかかわらす悪い乗り方が癖になっていたり、一人か二人は、学校の馬を制御できない者がいる。原因は、トラックでの練習不足か、学校では日課となっているウエイト・トレーニングをしなかったために以前よりも筋力が落ちてしまったからで、このことは学校を卒業した厩務員についてもいえるだろう。トレーニング・センターに移ってしまえば、間違いなくそこでの働きぶりとライフ・スタイルに影響されて、学校で受けたトレーニングの成果の何割かを無にしてしまうのだが、かなり少数の者ではあってもこれは自然の結果であり、もとに戻すには時間がかかる。
素質のある騎手は、しかるべきタイミングで馬に全力を出させるために、両手で鞭を使うことを覚えておかなければならない。それには学校で馬を使って練習することはもちろん大切だが、馬の練習機を利用するのも効果がある。問題があるとすれば、騎乗したときに上下動するという悪い癖がついてしまうことだが、頭を動かさず、上下よりも前後の動きに気をつけるなら、肩を使った力強い追い出しフォームを身につけることができるだろう。現代の騎手の多くは、練習機を持っていて日常的に使用しているが、それはレースで騎乗したときに使う筋肉と同じ筋肉を鍛えることができるからである。
最近では生徒は、障害馬を室内でキャンターさせながら手綱を持ちかえる練習をするようにいわれる。トラックで競走馬に騎乗したときには、手綱を持ちかえることはきわめて重要だと私は思っているが、練習する機会は限られており、その意味ではこの方法はいいアイデアであり、きっと成果があがるだろう。
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