競馬学校教官の指導に寄せて

初期の訓練


 初めの頃に行われるトラックの練習では、大半はゆったりしたペースで行われるが、このペースでの馬の抑え方も覚えなければならないので重要である。同じように重要なのが、夕方の体育館での運動で、毎日トレーニングすることでグリップや腕、脚などが強化され、筋力がついてくる。力強くなると自信も湧いてくるのだが、これは若い騎手のためには非常に大切で、自信を持つことで乗り方にも大いなる進歩がもたらされるだろう。じっさい体育館でのトレーニングを始めて1週間ぐらい経つと、以前には筋力不足でコントロールできなくなった馬を抑えられるようになる。
 トラックの練習では、時計を測りながら無線でアドヴァイスされることで、彼らは優れたペース判断を身につけるのだが、それはトレーニング・センターにいって騎乗を依頼されたときに非常に役に立つ。トレーニング・センターでは、馬がそれぞれ異なるスピードを持っており、しかも無線で指示されるわけではなく、生徒たちは自分自身で考えなければならないからである。
 騎乗者についてはしばしば、乗り方が上手い、というような言い方をするが、教官がもし生徒の乗り方に満足できないならば、気になる理由を探すべきである。よく見ている教官なら、そのなかにたんに乗り方が上手くないというのではなく、いつも神経質になってしまっている生徒がいることに気がつくだろう。そういう生徒は、すべてをきちんとやってはいても人の目を嫌がっており、これに対してリラックスして乗っている生徒は、見られることをいつも喜んでいる。若い騎乗者は、張りつめた状態でもリラックスして乗ることが重要で、そうでなければ馬が興奮するだけでなく、緊張によってみずからの筋肉の動きも鈍くなり、パワーも失われかねない。これは若き生徒たちばかりではなく騎手にも当てはまることで、レ−スで緊張してしまって思うような競走成績をあげられない者もいるが、そういう騎手は調教では完璧な騎乗者なのに、レースでは実際にできないことをあまりにもやろうとするために自分の騎乗姿勢を崩してしまうのである。それゆえまだ若い、レースでの騎乗姿勢を身につけたばかりの生徒には、あまりにも早く、あまりにも多くのことを要求しないようにすることが大切である。むしろ自分のやり方をゆっくりと見つけさせ、無理のない騎乗姿勢を確立させた方がいいし、やがて最初の年が終わりに近づくにつれ、彼らの騎乗姿勢の長所を伸ばすことも苦もなくできるようになる。こうすると生徒は、すでに覚えていることをするだけではあっても、騎乗姿勢を崩すことなくテクニックを磨けるのである。

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