銀次郎物語 第三章 −明け2歳−
キャンターをはじめた銀次郎の運動メニューは徐々にハードになっていきます。銀次郎のキャンターはちょっと力強さに欠けるところがありましたが、実に軽いフットワークで走る馬でした。
あまりにも従順になってしまったといいましょうか。前に出そうとすればすぐに出るのですが、押さえるとすぐに速度を落とすので、乗っていて私には物足りなく感じてきてしまいました。少しぐらい押さえても、馬がどんどん引っ張っていくような感じが欲しかったのです。もちろんそれはそれで手に負えなくなり、よくいう「引っかかった」とか「持って行かれた」という状態になってしまうのですが・・・。また、あまりバリバリ走ってくるようになると、その馬本来の気性が出てくるというか、多分銀次郎の場合は手に負えなくなるでしょう。美浦トレセンに行った後の銀次郎は多分危険でしょう・・・。
そんな訳もあり、またトモの力強さも足りないため、私は銀次郎をゆっくり育てていこうと思いました。調教師のS師もそんなに3歳戦で使うほうではなく、どちらかというと美浦に上げるのが遅いほうですし。ということは、銀次郎の調教は当面は精神的なことを鍛えようと思いました。
基本的には前を走る馬にできるだけ近づく。速度は遅いながらも実戦さながらの距離感覚(?)で銀次郎の精神を鍛え上げていきました。しかし、前を走る馬が危険な馬ではできません。蹴ってきたら大変です。さらに前の騎手も安心できる騎手でなくてはこの調教はできません。しかし、銀次郎の調教時間帯にはいい具合にパートナーに恵まれたため、この調教ができました。雨が降って馬場が悪いときなんかは最高です。私も馬も1レース競馬をやってきたかのように泥だらけになっていました。
その他、私は必要以上に鞭を左右に持ち替えながら乗っていました。ちょっとした鞭の持ち替えで斜めに逃げてしまわないようにするためです。また、馬場が悪いわけでもないのにゴーグルを2重に付け、それを1枚ずつ外して、騎手がゴーグルを外しても動じないようにしようと試みました。
これらは全て銀次郎が今まで従順に育ってきたためにできることです。もし、ただ乗っているだけでも大変だったら、私は騎乗するだけで精一杯で、これらのことはできなかったでしょう。また、鞭の持ち替えなどは私にとってもいい練習になりました。馬を調教し、騎手も育っていく。馬術の基本です。
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この物語はフィクションであり、実際の馬、人物、団体等とはたぶん関係ありません。
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