銀次郎物語 第六章 −初勝利を目指して−


 6月6日。3歳馬の最高峰といえる日本ダービーが東京の府中競馬場でおこなわれました。当日、銀次郎は出走しました。とはいってもダービーではなく、第1レースの3歳未勝利戦。ダートの1400mです。それでもダービーデーとあり、朝早くから多くのファンが競馬場に集まっていました。そんな中で走れるのだから、それはそれで光栄なことともいえるでしょう。
 今回のレースは銀次郎にとって先週に続き、2週連続での出走になりました。しかし、私は今回、今までで1番期待できると思いました。メンバーからしてもそれほど好成績を残している馬もたいしていなく、距離延長もプラスになると思ったからです。
 AM9:30。パドックに銀次郎が姿を現しました。2人引きで曳かれる銀次郎は頸を下げ、内に気合いを秘めているようで、前走とは違く実に大人っぽく、また好走を期待せざるを得ないように写りました。騎手を乗せた銀次郎は地下馬道へ消えて行きました。私はスタンドを抜けてコースに現れる銀次郎に先回りをしました。第1レースとは思えないほどの人、人、人。真夏のような陽射しと未勝利戦とは思えぬ大観衆の中で3歳未勝利戦がおこなわれました。
 ゲートイン時にゲート内である馬が暴れ、発走除外になり、出走時間が多少遅れました。仕切り直しにもう一度ファンファーレが鳴り、ゲートイン完了。7枠11番の銀次郎よ、どうか出遅れだけはしないでくれ。
 ゲートが開いて各馬一斉にスタートしました。私の祈りが通じたわけではないだろうが、銀次郎は出遅れていません。銀次郎は馬群中程で道中を進みました。今までにない好レースです。そして前から6、7頭目くらいに位置したまま、大歓声のなか第4コーナーを廻っていきます。
 私はかつて、これ程までの未勝利戦を体験したことはありませんでした。まるでメインレースにも劣らない、それも重賞競走と同等とも思えるほどの大歓声の中、銀次郎は私の目の前を走り抜けました。先頭には届かないであろう距離ではありましたが、抜かせる馬は1頭でも多く抜かすかのように、直実に伸びてきました。そして3着でゴールしました。
 わたしは鳥肌が立ちました。決して優勝したわけではなく、勝ち馬から1秒はちぎられていたでしょう。銀次郎は競走馬である以上、何としても勝たなければならないのです。しかし私は銀次郎の走りに感激してしまいました。その日おこなわれる予定だった日本ダービーを見る前に満足してしまいました。
 

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この物語はフィクションであり、実際の馬、人物、団体等とはたぶん関係ありません。
写真と本文はたぶん関係ありません。