書籍紹介・『幼時鍛練』 新聞紹介記事

 

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 著者 川村史記 監修 上里龍生

  発行所 中央教育研究所株式会社

昨今は、子育てに戸惑う父母や教師が際限なく増加しています。しかし、これはとても不可解なことです。というのも、かつては誰もが子どもだったからです。恐らく人間の自分自身に関する記憶というものは、とてもいいかげんなもので、自分がなぜ今日あるような人間になったのかを明確には覚えていないのです。あるいは、覚えていても都合の悪いことは棚に上げて知らぬ顔を決め込んでいるのかもしれません。

そうして、大人達がこうした頬被(ほっかむ)りをしている間に、教育の実態は崩壊の一途をたどり、家庭内暴力だの、登校拒否だの、苛めだの、学級崩壊だのが蔓延する事態に至ってしまいました。しかも、こうした現状がメディアのニュースというマナイタに乗ると、児童心理学者とか、教育評論家とか、教育学部教授といった人々が登場して、アカデミズムの陳腐な論理や、傷口だけをケアする対処療法、あるいは社会的には無責任としかいいようのない『子供達の言い分を聞いてやる』アドバイスでお茶を濁してしまいます。

今回、中央教育研究所株式会社から出版された書籍『幼児鍛練』(著者 川村史記 監修 上里龍生)は、こうした『評論の書』とは全く異なり、教育の現状を素直に検証し、教育の本質に立ち返ろうと教育の現場から呼びかけている誠実でエネルギッシュな実践の書です。その骨子は愛知県豊橋市の仔羊幼稚園で、親子二代にわたり、幼児教育にたずさわってきた上里龍生氏の教育理論であり、本人へのインタビューや講演記録、および仔羊幼稚園における日常的な教育活動の観察等々をベースに、著者独自の客観的な視点から、上里式教育理論の実像を描き出しています。子供の『落ちこぼれ』は、教師も含めた大人達の『落ちこぼし』であるという上里龍生氏の言葉は、自由に生きることのできない子供達の現状を鋭く抉(えぐ)り出す一方、子供から大人へと変態する『人間という存在』の自由に生きる意味を明快に指摘しつつ、幼児期からの鍛練の楽しさと大切さをさまざまな事例とともに紹介しています。しかも本書を読んでいくうちに、上里式教育理論の真髄は、なにも幼児教育のみに当てはまるものではなく、青少年から社会人にま で該当する普遍性を宿していることがわかりますから、子育てや若者達の社会人教育に関わる指導者の皆さんには、ぜひともご一読をお奨めしたい内容といえるでしょう。


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平成11年10月31日−日曜日−付けの東海日日新聞に掲載された書籍紹介記事


◆出版記念パーティー会場風景