ERIC CLAPTON
"Just For You" Japan Tour 2003







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 2001年末、元ビートルズのジョージ・ハリスンが亡くなった時、エリック・クラプトンは此処、日本で恒例のツアーを行っていた
 そのツアー前には

「今回のツアーが最後になる」

 という事実上の”引退宣言”とも取れる発言があった為 ファンは色めき立ち、最後を惜しむかのようにこぞって会場に詰めかけたのだった。


 結果的にこの引退宣言は誤報だった訳だが(後に「今までのような世界的なツアーは最後になる」と訂正された)何かと特別な意味のあった日本公演から早、2年。
 ファンが望んだようにクラプトンは再び、日本の地を踏んだ。



 しかも今回のツアータイトルは「Just For You」となんともロマンティックなもの。
 また今回は新譜発表もなくの来日だった為、いつもと違う選曲、サプライズな趣向があるのではと期待された。
 特に自らが音楽監督として積極的に押し進めた1年前のジョージ追悼ライヴ「Concert For George」のDVD、CD発売を控え名曲「While My Gently Weeps」の演奏もファンの間では期待されていたのだった。


 名古屋公演は久々の笠寺レインボーホール。
 此処は私にとって2001年の"KISS The Farewell Tour"以来であったが、クラプトンを見るのはなんと10年ぶりである。
 あの時は「アンプラグド」アルバムが出た後のライヴであった為、世界的ヒットも有り、当然の如くSOLD OUT。
 私もステージから遙か離れたスタンド席で指先大のクラプトン御大を双眼鏡で追っかけたものだった。
 だが、今回は違う。前回の来日公演に続いてなんと2列目なのだ
 (決してコネをフルに利用してという訳でなく、普通に先行予約でゲット)
 位置的には前回と同じようにステージ向かって左側、多少残念な事は(ステージの大きさにも関係するだろうが)中央マイクから若干、距離がひらいてしまった事。
 果たして御大はステージの左端あたりまで来てくれるだろうか ?
そんな贅沢な願いを胸に納め、ふと上空を見上げれば吊り上げられた巨大なスピーカーがどうしても目がいってしまう。
 これはパンフレットの広告にもあったがクラプトンがわざわざこのツアーの為に本国イギリスから持ち込んだJBLの最新型スピーカーシステム「VERTEC」というものらしい。
 私もこのレインボーホールなどアリーナー級の会場には何度も足を運んだ事があるが このように天井から吊り下げられたスピーカーというのは初めて見た。
 これなら うず高くステージに積み上げる従来のスピーカーよりも会場全体への音の広がりは大いに期待出来そうである。


 ライヴは開演時間をやや過ぎて静かにスタート。
 スポットライトを浴びながらクラプトンのみが中央マイクスタンドに立つ。

 「コンバンワ」

 大阪公演と同じ白の解禁シャツ系とルーズフィットストレートなジーンズのラフなスタイルはここ最近の定番。
 10年ほど前までのヴェルサーチ、アルマーニでお洒落に決めていた頃がまるで嘘のようである。
 手にしているギターは黒のマーチンのアコギ。今まで一度も見掛けた事のない機種である。(ある本によるとこれはクラプトンの友人である藤原ヒロシ氏とのコラボレートで生まれたマーチンの通称Black Beauty(ooo28ECをベース)である事が判明。世界に8台しか存在しないらしい。余談だがこのギターは他にクラプトンが愛好しているという絡みで吉田カバンの社長の手元にもあるらしいとの事(社長はかなりのマーチンギターマニア)またクラプトンはこのギターケースをルイヴィトンにオーダーし、昨年のクリスマス、藤原ヒロシ氏にプレゼントしたそうな。なんちょう豪華なギターケースだ(苦笑))
 1曲目は「WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND」
孤高のブルーズマン、ロバート・ジョンソンの曲。私は微かに聞いた事がある程度でほとんどどんな曲だったか覚えていないくらい。ましてこれをクラプトンが唄っているのは聞いたことがない。
 そこにまるで黒子のように静かに他のメンバー(bass:Nathan East、drum:Steve Gadd、side guitar: Andy Fairweather Low、key: Chris Stainton)もステージに入ってきて、スティーヴ・ガットのドラムを合図に音の洪水が一斉に押し寄せてくる。クラプトンもいつの間にかマーチンからもうすっかりお馴染みの通称グラフティのストラトに持ち替え、この曲が聞き慣れた曲のメロディラインに繋がっていくと客席の反応も大きくなった。
 CREAMの名演で有名なこの「CROSSROADS」もロバート・ジョンソンの代表曲である。CREAM時代から数限りなくステージで演奏されてきた曲であるが今回はメドレー形式に組み込まれていた事もあっていつもと趣が違う。
 (はっきり言うとリズム的に乗りずらく違和感を感じてしまったのだ。)
 3曲目はレゲエを全世界に紹介したと言ってもいいボブ・マリー「I SHOT THE SHERIFF」
 私はこの曲で早くもヤラれてしまった。ソロ弾きまくりで、途中でのけぞってクラプトンも叫んだりするなど「えっ こんな曲だったっけ?」という感じなくらい。私にとって既にハイライトだった。
 次の「BELL BOTTOM BLUES」は後のレポートによるとソロで大きくミスったとあったが私は全く気にならなかった。熱狂的なファンが聞くと、やはりすぐ判るんでしょうか。それとも私が鈍いだけなのかも(苦笑)。まあ ソロの冒頭がちょっと変かな?というのはあったけれど。
 しかし、前回、前々回とこの曲はアコギ・ヴァージョンで披露されていただけに、エレキでの復活は単純に嬉しかった。
「RECONSIDER BABY」は1999年の「PILGRIM」ツアー以来、4年ぶりに聞く曲だ。
 やや長めのイントロからクラプトン節炸裂。ブルーズはクラプトンの基本という事で演奏自体もリラックスムード。無難にまとめたという感じだった。
 ブルーズの次は矢継ぎ早にアンディと共にGibsonのエレガット(チェット・アトキンスモデル)に持ち替え、「CAN'T FIND MY WAY HOME」。ネイザンのファルセットヴォイスが全編に冴えて心地よい。クラプトンのギターもソロ以外はアルペジオ中心で原曲に忠実。また後半にはネイザンのさり気ないベースソロもあって、今やこの曲はクラプトンというよりネイザンの為の曲になっていた。
 クラプトンがマイクでそのネイザンを賞賛して、一呼吸置くといきなり「ジャーン♪」と始まるCLASSIC ROCKの金字塔「WHITE ROOM」
 もう何度となく生でも聞いてきたお馴染みの曲だがワウペダルを踏みながらフレーズを組み立てていくソロは今聞いてもスリリングである。
残念ながら私の席からは僅かしか見えないが小刻みにペダルを踏み込んでいる姿はここ最近の「ヴォーカリスト」クラプトンというよりは、やはり「ギタリスト」クラプトンであることを強く再認識した一瞬でもあった。
 「WHITE ROOM」は超有名曲だけに大いに盛り上がり、次の「I WANTA LITTLE GIRL」に続いた。
クリスのピアノで始まるこの曲はクラプトンのヴォーカルを前面に押しだしギターはやや押さえ気味だ。それでもクリスのピアノ(と言ってもシンセのピアノ音源だが)ソロとジャージーなクラプトンのソロも飛び出してこの曲に華を添えた。
 しっとりと聞かせた後は陽気な「GOT MY MOJO WORKING」でステージの雰囲気も一瞬にして変わった。
 この曲はクラプトンの師匠格、マディ・ウォーターズで有名な曲であるが原曲よりは明らかにリズミカルで非常にノリが良い。クラプトンのギターもノリ一発のややRock'n Roll的なギターを披露、ここでもクリスのホンキートンク的ピアノがガッチリとサポートしていたのが印象的だった。
 次の「HOOCHIE COOCHIE MAN」もマディ・ウォーターズ。クラプトンもアルバム「FROM THE CRADLE」に収録して以来、必ずと言っていいほどステージで演奏している曲でもある。マディの曲というよりも今やクラプトンの曲と言っても良いくらい浸透しているかもしれない。また、クリスのピアノソロ〜クラプトンのギターソロと流れ的には先程の「GOT MY MOJO WORKING」と同じなのはマディに敬意を表してなのか? いずれにせよ、久々にマディ・ウォーターズのオリジナルも聞いてみたくなったそんな熱演であった。
 マディメドレーの後は小休止という訳でもないが、再びここで黒のマーチンに持ち替えつま弾き始めればそのワンフレーズ弾いただけでこの曲、 「CHANGE THE WORLD 」と判り大きな歓声が沸き上がる。そして、お馴染みのあのイントロで手拍子が自然と始まったのだった。
 この曲もヒットしてから既に数年経つが、一度はMTVでBaby Faceと共演した時のようにエレキヴァージョンでも聞いてみたいものだ。
「CHANGE THE WORLD 」の後はエレキ(GIBSONのL5CESだったかも)に持ち替え最近の定番「FIVE LONG YEARS」。ゆったりと始まったこのスローブルーズはクラプトンの手癖フレーズがソロで爆発。まさに

 「こんなクラプトンのギターが聞きたかったんだ」

 という会場に詰めかけたファンの思いが通じたような演奏。
 アンディのソロ、クリスのソロも交互に披露されて今回の公演で最高の瞬間だったと思う。
 「BADGE」はどうしても、共作者のジョージの事が頭に浮んで泣けて泣けて....
 91年にジョージ・ハリスンをこの目で見る事が出来たのは一生の思い出となるだろう。
 感傷的になった後の「RIVER OF TEARS」はクラプトンの心情を深く掘り下げた内省的な歌詞が印象的だが曲自体も今までのクラプトンとはひと味違ったものである。しかし、ソロになればいつものクラプトン節が炸裂するのは流石。歌詞だけでなくそのギターフレーズの一音、一音に感情を込めているかのようであった。
 ヘヴィな曲の後の軽快な「LAY DOWN SALLY」はこうして生で聞くのは、実に10数年ぶり。非常に懐かしくこの小気味よいリズムは一緒に踊りたくなるような衝動にも駆られる。曲調はカントリーなのだがこの曲の誕生は一時、クラプトンバンドにも参加していたカントリー系の名手、アルバート・リーやジョージの影響もあったのだろうか?
 そんな事も気になった一曲であった。
 徐々に音が小さくなっていくエンディングで「LAY DOWN SALLY」が終わりを迎えれば一瞬、間を置いて始まるアルペジオ。
 「WONDERFUL TONIGHT」はいつもながらのロマンチックな雰囲気。有名なイントロのフレーズが奏でられればこの曲の雰囲気に不釣り合いな程の大きな歓声に会場が包まれた。
 ただ この曲については今回も残念な事が一つ。それは(前回も書いたが)ケイト姉さんらコーラス隊が今回も無かった事。
 恒例のロイヤル・アルバート・ホール公演でのライヴを収録した「24NIGHT」ではコーラスがキモというぐらい重要視され、曲の雰囲気をよりいっそう盛り上げていた。あれが今回も聞けないというのは........やはり、.ちょっと悲しい。
 それでもヒット曲だけあって曲に合わせ”静かに”盛り上がりをみせたのだった。
次の「COCAINE」ではようやく客(前の方のアリーナ見ただけど)もスタンディング。
 私としてはずっと前から立ち上がりたい衝動に駆られていたが、悲しいかな、此処は2列目。ヘタすれば「見えない」とか後ろから文句が出るかもというぐらいで(現に立ち上がった事で文句を言われる事があるそうな。なんかイヤな時代ですな)どこで立つべきかと思案のしどころでもあったのだ。
 立ち上がる事が出来れば後はもうフリースタイル(笑)
 私も「COCAINE〜♪」の歌詞に合わせて、今夜、初のSHOUTさせて頂いた(苦笑)「KNOCKIN' ON HEAVEN'S DOOR」はネットの情報で演奏するとは聞いていたけど、期待を裏切らずやってくれた。
 それも前述の「I SHOT THE SHERIFF」以上のレゲエヴァージョンでである。
 ギターもストローク中心で歌の節回しもアレンジして実に気持ちいい出来。
 昔はもっと泥臭いイメージの曲だったけど、今のクラプトンにはこれぐらいの軽快なイメージがぴったりとくるのかもしれない。なにせ今が、彼にとって人生において最もHappyな時だそうなのだから。
 そして私をクラプトン好きにさせたあの曲の流麗なイントロがクラプトンのギターから弾き出されればいつもながらに大興奮!またまた私も”エアーギター”を奏でてしまう(苦笑)
 しかし、この「LAYLA」の白眉はなんと言ってもピアノソロ以降のエンディングまでの部分。
 クリスのピアノにクラプトンの正に流れるようなフレージングが絡み合い感動のレベルもより高みを極めた。
 オリジナルでは今は亡き、デュアン・オールマンのスライド・ギターがまるでバトルを挑むかのようにそれこそねちっこく絡んできて素晴らしい曲である。結局、ステージでクラプトンがデュアンと共演というのは実現しなかったらしいのだが、もし、今、デュアンが生きていたらとつい考えてしまう。
 それにこの曲のモチーフともなってしまったジョージ・ハリスン前夫人パティ・ボイドとの許されぬ恋の顛末を思い浮かべてしまうのは仕方のない事かもしれない。
 色々な事が頭をよぎった「LAYLA」だったが、ライヴもこの曲をもって第一部が終了。クラプトン以下バンドのメンバーはステージ袖の暗闇に消えていった。


 主人公達が居なくなったステージでは薄暗い中、ギターテク(有名なリー・ジャクソン?)がアンディのギターをチューニング。当然、その間もアンコールを求める拍手が続いている。
 そんな拍手に押されてか、わずか2、3分で舞台袖からロック・スタンダード「SUNSHINE OF YOUR LOVE」のリフを弾きながらクラプトン登場。マイクに立つ頃になると他のメンバーも闇にまぎれて所定の位置に着きスタンバイOK。
 それぞれが曲に加わり始める。ボーカルはここではアンディ、ネイザン、クラプトンと分け合った。
 この曲も何度、生で聞いたか判らないがクラプトンには絶対、欠かせない曲だ。
 曲が終わればステージには大急ぎでイスが用意され再び、ギターはL5CESへ。
 そこでおもむろにクラプトンがメンバー紹介を始めた。
 「クリス・ステイントン」「アンディ・フェアウエザー・ロウ」「スティーヴ・ガッド」「ネイザン・イースト」と順に名前を呼び、それぞれに大きな歓声が挙がるが、やはり一番大きな歓声はネイザンによる「エリック クラプトン!」
 やがて「SomeWhere over 〜♪」とクラプトンが唄いだせば前回の来日以来、定番となった「SOMEWHERE OVER THE RAINBOW」。前回は驚きの選曲に会場全体がどよめいたものだがあれから(今回の公演のスポンサーでもある)三菱自動車のCMに起用され、それが色々なアーティスト(山崎まさよしなど)によってもカヴァーされるなど、もうお馴染みの曲となった。
 かなりゆったりしたコード弾き主体の曲なのでソロらしいものはないが、曲半ばのクリスのメインメロディを辿るキーボードは慎ましく、この曲の持つイメージに合っていた。
 そして前回もこれで終演を迎えたように今回もこれでラスト。大きな拍手に包まれる中

 「ドウモ アリガトウ Thank You....」

 と言うとクラプトンはアンディ、ネイザン、ガット、クリスが仲良く肩を組んで3回ほど深々とお辞儀をしステージを去っていった。





 今回のライヴについて

 『エリック・クラプトンがエリック・クラプトンであり続ける事を確認する』

 と評したのはかの伊藤政則氏であったが正しく的を得た意見だと思う。
 前回の来日公演以降、新譜の発表や目立ったヒット曲もなくツアー以外、イベント程度の露出しかない何も無い状態での今回のツアー。ファンとして不安もあったが蓋を開ければほとんどの公演がソールド・アウト(ただ、連続公演が続いた武道館などではオークションでチケット代が暴落したらしい)、選曲も前回と似かよりながらも懐かしい曲の復活と昔からのファンも喜ばせたに違いない。
 演奏もクラプトンぐらいのレベルになるとたとえどんな状態でもある程度はコナす事も可能であろう。昔の(ドラッグやアルコールなどで)好不調のはっきりしていた頃がホント、嘘のように思える。
 で、自分なりの今回の総評としては、いわゆる「爆発」というぐらいのスリリングな場面が無かったのは少々残念であった。
 何度もそういう兆しもあったが、観客の盛り上がりがもうひとつ薄かった事が「爆発」の発火を止めてしまったような気がしてならない。
 決して手抜きの演奏では全く無かったが、昔の”好調”時の片鱗が垣間見れるような演奏もあれば.....と思ってしまうのは贅沢過ぎるだろうか。


 3月には 待望のそれもロバート・ジョンソンのカバーアルバムの新譜が発表されるが、次の来日公演までにはそれがステージで熟成され、素晴らしいものになっている事を期待したい。



 次の来日まで あと2年.....か?









SET LIST
1WHEN YOU GOT A GOOD FRIEND
2CROSSROADS
3I SHOT THE SHERIFF
4BELL BOTTOM BLUES
5RECONSIDER BABY
6CAN'T FIND MY WAY HOME
7WHITE ROOM
8 I WANT A LITTLE GIRL
9GOT MY MOJO WORKING
10HOOCHIE COOCHIE MAN
11CHANGE THE WORLD
12FIVE LONG YEARS
13BADGE
14RIVER OF TEARS
15LAY DOWN SALLY
16WONDERFUL TONIGHT
17COCAINE
18KNOCKI'N ON HEAVEN'S DOOR                    
19LAYLA
・・・Encore ・・・
20SUNSHINE OF YOUR LOVE
21SOMEWHERE OVER THE RAINBOW











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