エンターティメントサーカス 2022







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 田川ヒロアキさんのライヴが東海地方で久々に行われることとなった。

 今回は大阪〜名古屋〜豊橋という短いツアーであったが、コロナ禍で3年延期された待望のツアーでもあった。

 ここ名古屋では 聴覚しょうがい者と健常者の音楽の祭典「エンターティメントサーカス」のいち出演者としての参加である。
 「エンターティメントサーカス」は2006年から行われているイベントで今回で15回目。
 全て観客が購入するチケット代で運営され、その一部は障害者団体へと寄付されるものでもあった。
 今回のイベント、出演は全部で10アーティストで多様性の時代を反映してか、多種多彩なアーティストが参加した。
 このイベントは13:00開始、21:00終了の長時間に渡る為、私は途中参加とすることに決め、その時間に合わせ自宅を出発した。


 会場となったのは今池の「ボトムライン」。自分にとって2014年の「チーム・負けん気」のツアー以来、8年ぶりの来訪となった。
 地下鉄で今池駅に向かい、3番出口直結で「ボトムライン」に入ると、受付で田川さん名義で予約したことを伝えチケットを購入。
 会場である2階へと駆け上った。
 客席へと繋がる重いドアを開けると、7番目の演者である「ナカガワナオヒロ & ドラカズバンド」が軽快なロックンロールを演奏している最中だった。
 お目当ての田川さんの出番はこの次である。
 パイプ椅子で敷き詰められた客席は6〜7割程度は埋まっていただろうか。私は比較的後方列の席に 腰を落ち着かせた。
 「ナカガワナオヒロ & ドラカズバンド」の演奏が終わり、MCの方(堀口修司さん)がステージに立った。
 どうやら名古屋のコミュニティFM「MID-FM」では知られた人らしい。
 また途中から、このイベントの主催者であり、出演者でもある「B.S.R.」のリーダー 石川徹さんがMCに加わり、次の出演者である田川さんとの出会いやエピソードを紹介した。
 その中で話されたのは 自分も参加した2018年の「GUITAR STATION COUNT DOWN TO 10 YEARS FROM FLY AWAY」ツアーライヴでのアクシデントの事。
 ライヴ冒頭から アンプが故障し音が出ないという緊急事態に陥り、来場していた「B.S.R.」のメンバーが急遽ヘルプに入って問題を解決したのだが、その当時の事を石川さんが懐かしく話された。
 それに加え「B.S.R.」が東京でライヴを行った時、ツアー先から戻ったばかりの田川さんが会場に駆けつけてくれたという秘話も披露してくれた。
 そしてもちろん、昨年の東京パラリンピック開会式で デコトラに乗って布袋寅泰さんの横でギターを弾いているのをTVで見て とても驚いたという話はもはや鉄板だろう。
 田川さんの事をよく知らない観客にとって、十分な事前情報=紹介となったMCタイムを終え、いよいよ田川ヒロアキさんの登場となった。


 拍手と共に、センターマイクに歩み寄った田川さんが まず奏で始めたのは「Sescape」である。
 荘厳なSEをバックに、流麗なフレーズが場内に響き渡る。
 そして 途切れる事なく続いた2曲目は 先程の曲から一転しアップテンポの曲へと移った。曲タイトルは「ゼロハンカー」
 おそらく初めて聞く曲だと思うが、軽快でありながらも田川さんのテクニック(スウィープピッキング、アーミング等)が これでもかと発揮された曲で、曲が終わると同時に大きな賛辞の拍手と、歓声が会場を包み込んだ。
 田川さんのスゴさを知らしめるには十分な1曲となったに違いない。
 歓声を背にして、田川さんは 今夜はじめてのMCに立った。
 「みなさん こんばんわ 田川ヒロアキです」という挨拶を皮切りに、石川さんとの出会いやライヴでのヘルプ、パラリンピック開会式のエピソードを話された。
 そのエピソードで印象的だったのは 布袋さんが開会式の出番前(デコトラに乗る前)に「今から、俺たちは世界一のロックバンドになるぞ!」と田川さんたちメンバーに発破をかけたという話であった。
 この言葉で、本当にオリンピックの世界配信に出演するんだな。と自覚したと述べられたのだった。

 パラリンピック開会式出演で話題となった田川さんがその後、日テレの番組「世界進出オーディション!めざせ!グローバルスター★オファーで海外デビューへ!」に出演し、アメリカ、イギリス、中国、フランス、タイの審査員全員からオファーを受け、そのプロジェクトは今も動いていると話されたが、その番組で披露したのが次の曲ですと紹介。
 それが3曲目の披露となった「金メタル」である。

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 メダルではなく、メタル

 イントロからブチかましますよ!というぐらいの正にスピードメタルなのだが、途中から聞き慣れたパッヘルベルの「カノン」のメロディがなぞられると、客席は(自分の想像だが)安堵したような感じがした。
 「おお 聞いたことがあるメロディーだ」という感じなのではないかと。
 アーミングで派手なエンディングを迎えて 再び大きな拍手を受けた田川さんは再び、MCに立った。

 「次の曲は 3年前にアメリカ、ロスアンジェルスに行きましてレコーディングした曲で オリンピック・パラリンピックに向けて応援ソングを作りたいなとクラウドファンディングを立ち上げさせて頂いて ご支援頂きレコーディングしました。」

 「私は今は全然、両目とも見えていませんが3歳の頃は、薄い色が見えていた記憶があります。そのなんとなくの記憶にあるのが青空の印象があります。その時のことを思いながら作った曲です。人生にはハードルの方がいっぱいあると思うのですが、その時 空をふと眺めたときの気持ちを歌にしてみました。」

 と言って始まったのが「Sky」であった。

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 この曲の登場は今夜、初めて田川さんの歌声が会場に響き渡る瞬間(とき)でもあった。
 自分もこのクラウドファンディングに参加したが、生で聞くのはもちろん初めてである。
 哀愁あるボーカル/メロディラインにテクニカルなギターソロが添えられて グッと心に迫ってくる。
 直後の観客の反応も 心を震わされたことを表すような拍手で感動を伝えたのだった。
 その感動が途切れる事なくそのまま5曲目に続いた。
 曲は「またどこかで」である。
 パフォーマンス後に田川さん自ら曲紹介もしたが、この曲はこの3月までNHK Eテレで放送されていた「ハートネットTV B面談義」の最終回に田川さんが出演した際、エンディング曲として披露した曲であった。
 叙情的な歌詞に、メロウな田川さんの声が映える曲である。フックの効いたギターフレーズも印象的である。
 直後のMCでは 直近のスケジュール(翌日の豊橋でのライヴ、来年の日本武道館公演を目指すバンド「NO! RED」の立ち上げ、6月5日のバースデイライヴなど)を紹介した他に「こういうイベントでは、いつも話すのですが....」と静かに話し始めた。

 「目が見えないにも関わらずとか、全盲とは思えないギターを弾くとはよく言われてきたんですが、そう言われるのはうれしくもあり ちょっとどことなく若干、違和感もあったりもするんです。
 というのはなんでなんだろう?と考えてみると、見えないというのはこうだという先入観が一般的にあるからだと思ったりもするんですね。
 でも私本人は、音楽が好きでギターをただ弾いているだけで それを皆さんに届けて 音楽を共有しようと思って音楽をやっているですけど、全盲とは思えないというのは 全盲はこうだというのがあるからそういう感想になるのは当然のことだと思います。
 もしかしたら視覚障害に限らず、聴覚障害であったり、車椅子の方も こういう思いをしていることもあるのかなと思ったりもして 今日のような福祉系のイベントで 聴覚障害の方にお会いする中で 話してみれば仲良くなってしまえば同じなんですよね。
 なので、障害があるのに明るいというのも、こういう風に思わなくても済むような一人ひとり個人をみることが出来るような そんな世の中になって欲しいなと思っております」


 と熱く語る田川さん。

 違和感という話は、以前も何かのインタビューで話されていたと思うが、生で田川さんの声で聞くと言葉に重みが加わる。
 それを受けて、我々観客も拍手で答えた。

 個人的な話だが、田川さんに目が見えないにも関わらずとか、全盲とは思えないギターを弾くとは思ったことはない。
 それは私が、田川さんの演奏を初めて聞いたのが視覚を伴わない音だけの媒体−ラジオだったからだと思う。
 あれは忘れもしない 今はなき HM/HRラジオ番組「ヘビーメタルシンジケート」で、田川さんが創作した”宛先ミュージック”が初めて紹介された時だった。

 もう20年以上も 前の話である。

 一般的なラジオリスナーが作詞・作曲・編曲・演奏し、番組企画に応募したとは思えない高レベルな楽曲にとても驚かされ、高度なテクニカルなギター・プレイはもちろん(歌の)ハーモニーの完成度の高さに”ヤラれてしまった”のだ。
 この”宛先ミュージック”や後の”メルアドミュージック”は番組終了まで10数年間も流されたが、田川さんの演奏を初めて聞いた当時は その特徴的な演奏スタイルも実際には見たことがなった。
 当時は今のようにYouTubeが活発な時代でもなかったし、そもそも田川さんの映像が まだネット上に存在していなかったのだ。
 懐かしのロックギター番組「パープルエクスプレス」の師範代だった古川博之さんの掲示板を通じ、田川さんの存在は語られる事はあり 私自身も名前だけは知ってはいたものの、”宛先ミュージック”の演奏と彼が全盲であることは全く合致していなかった。
 結局、それから時を置いて 自宅で演奏する田川さんの映像で、初めて”逆手奏法”を見たが「あんな弾き方、絶対、自分には出来ない。しかもスウィープ(ピッキング)もめっちゃ、奇麗」と尊敬の念を抱いたのだった。
 その気持は今も変わらずである。

 「最後は軽快に『Racing Star』という曲でお別れしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。」

 ”自分がもし、クルマを運転できたらこんな風にかっ飛ばしてみたいな”という思いを曲にした『Racing Star』は、はっきりとしたメロディラインがあるカッコいい曲。
 イメージとしてはJoe Satrianiの「Summer Song」あたりを彷彿とさせると言ったらいいかもしれない。(「Summer Song」よりももっと構成が複雑で起承転結があると思うが。)

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 曲終了後、割れんばかりの拍手がステージを降りる田川さんを見送った。


 堀口修司さんのMCをはさみ、次の出演者である聖はじめさんが登場した。
 聖はじめさん−その第一印象は 性別不詳、いわゆるドラッグクイーンというイメージだった。(後半にはお色直しとばかり”男装の麗人”へと変身した。)

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 また田川さんの演奏を近くで聞きたいと前方の席に移動していた自分は、この頃では再び 後方の席に移動していたのだが、其処から見ても聖さんの背の高さが際立っていた。
 後のMCで聖さんが語った処によると 高いヒールを履いてその身長は2メートルに及んだとか。そりゃ デカい筈だ。
 そして一番、驚いたのはその年齡である。なんと63歳とのこと。
 間違いなく、本日の出演者の中で一番の年上であっただろう。
 そんな聖さんが歌ったのは「異邦人」「桃色吐息」という名曲のカバーから、意表を突く「宇宙戦艦ヤマト」のオープニングテーマ、ラストは「この指とまれ」という本日の出演者でもある加藤タクヤさんがPink.フラミンゴ(「なごり雪」特別公演で拝見したことあり)時代に製作した楽曲であった。
 このバラバラな選曲に面食らったというのが正直な気持ちであったが、名古屋芸大の声楽科出身の歌唱力は流石であった。
 歌唱力に加え、特徴的だったのはパフォーマンスを支えるメンバーであった。
 「自分の息子より若い」という大学生?のサックスプレイヤーと、色っぽいというか色気の塊と言っていいベリダンサーのお姉さんが要所要所でパフォーマンスを繰り広げ、曲に彩りを加えた。
 ラストの曲「この指とまれ」では 歌詞の意味を込めて、観客を巻き込んだ手話によるコール&レスポンス。
 こういう福祉系のイベントならではであったと思う。


 長丁場に渡ったイベントのトリは、主催者である石川徹さんがリーダーを務めるバンド「B.S.R.」である。
 直前のMCで「名古屋で一番、熱いロックバンド」と紹介されただけあって、このバンド目当ての観客が多かったように見えた。
 物販で売られていたグッズのタオルを持ったファンがステージ最前列に大挙集結、人だかりが出来るまでになった。
 「B.S.R.」の曲をSE代わりにしてメンバーが登場。

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 ド派手に始まった「メリーゴーランド」(回れ回れ〜の歌詞で、前述のグッズ・タオルがファンによって振り回されるのはお約束)、声が出せないのが勿体ないサビのコール&レスポンスが印象的な「Dynamaite Honey!!」、オイパンク(?)な「JOKER」と怒涛の3曲連続披露となった。
 「3年ぶりの延期、再延期、待たせました。ありがとう」とエンターティメントサーカス開催の感謝を伝えるリーダー、石川さんである。
 4曲目は、ここ今池を題材にしたブルーズロックな「今池の女」
 石川さんの熱唱とGibson レスポールによるギターソロが映えた。
 直後のMCで 2006年に始まったエンターティメントサーカスが当初は上手くいかず、売上から寄付も出来ないぐらいの状態から這い上がってきたが、10回目を迎えた頃には非常に感慨深くなったと訥々と心情を語り、1回ごとに命を削るような苦労もしているとありながら あらためて今回、15回目と続けてこれた事に感謝を伝えるのだった。
 そして 今後、エンターティメントサーカス20回目を目指す事も宣言するのだった(その時、石川さんは還暦になっているんだけど〜とおどけて見せた)。
 B.S.R.最後の曲は「翼〜TSUBASA〜」
ゆったりとしたリズムで進むミディアム・テンポのロッカバラードは このエンターティメントサーカスというイベントの最後を飾る(セッションを除けば)に相応しい選曲であった。

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 余韻がさざなみのように場内に拡がっていく中、ステージを降りていくバンドメンバー達。
 スピーカーからはジョン・レノンの「Power to the People」がSE代わりに大音量で鳴り響いていた。


 その後、ステージではあらかじめ予告された通り『出演者全員でセッション・フィナーレ』に向けて、全ての演者が徐々に現れた。(こんなに出演者がいたのか驚くぐらいである)
 同時進行で楽器のチューニングやら、音合わせなど打ち合わせが続き慌ただしい雰囲気である(その中には、ギターを抱えた田川さんの姿も確認出来た)。
 最終的にステージは満員電車さながら、立錐の余地もないもないほどの混み具合となった。

 ステージ中心に立つ、主催者である石川徹さんの掛け声と共に演奏が始まった。
 轟音の中、本日の出演者の名前が石川さんによって次々と連呼される。
 我々、観客も急遽 手渡されたクラッカーや風船を携え、石川さんの合図によって炸裂させた。
 それが大号令となって いよいよ最後の曲の披露となった。
 対バンライヴのセッションといえば、定番中の定番曲。「Johnny B. Goode」である。
 だが、普通な「Johnny B. Goode」ではない。
 歌詞は日本語にアレンジされ、このイベントへの想いが言語化されていた。

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 ステージ上に何人のギタリストがいたのか判らないが、それぞれがリフを奏でるので当然ながら、音が非常に分厚い。
 そんなギタリスト達が本領を発揮するのは曲中盤のギターソロのコーナーである。
 ギタリストが次々とソロを回していく。
 色々なタイプのギタリストがそれぞれのフレーズでパフォーマンスする中、田川さんだけがフラッシーでテクニカルなプレイで他を圧倒する。(曲のエンディング、アウトロも色々なギタリストが弾きまくり、それはもう収集がつかないぐらいなのだが其処でも田川さんのプレイはやはり一番、目立っていた。)
 音の洪水と言っていいほどの大音量が鳴り響く中、「Johnny B. Goode」も遂に終了。
 「どうも ありがとうございました」と出演者全員で一斉に礼と頭を垂れ、観客に感謝を伝えるのだった。


 こうして8時間に渡った15回目の「エンターティメントサーカス」も無事に幕を閉じたのである。






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SET LIST
MC 挨拶
1RIN'&OBSTINATE
2加藤タクヤ with 応援☆少女
3Flamenco Compania de WAKA                    
4the BACK DROP's
寄付贈呈式
5BRIGHT EYES super-duper
6今賀旬一朗 with REBORN
7ナカガワナオヒロ & ドラカズバンド
8田川ヒロアキ
@ Sescape
A ゼロハンカー
MC
B 金メタル
MC
C Sky
D またどこかで
MC
E Racing Star
9聖はじめ
@ 異邦人(久保田早紀)
MC
A 桃色吐息(高橋真梨子)
MC
B ベリーダンサー・ソロダンス
C 宇宙戦艦ヤマト
MC
D この指とまれ(加藤タクヤ)
10B.S.R.
@ メリーゴーランド
A Dynamaite Honey!!
B JOKER
MC
C 今池の女
MC
D 翼〜TSUBASA〜
11全員でセッション・フィナーレ
@ Johnny B. Goode(Chuck Berry)










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