茅原実里
Minori Chihara Live Tour 2009
〜 Parade 〜








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 「もう一曲、唄ってもいいですか」

 の言葉と共に始まった「純白サンクチュアリィ」
 その瞬間、場内はものの見事に白いサイリュウムに包まれ、鮮やかな光の海が拡がった。
 それは得も言われぬ美しさで − この輝きにまた心を奪われてしまった茅原さんは、冒頭から声が震え、巧く歌えなくなってしまった。
 遂には「瞳に〜」の後の歌詞「sweet my sweet my dream」は声が出ず、変わりに我々観客が大合唱で補完するなど、感動的なハプニング。
 これにはびっくりすると共に大いに感動したのだった。
 彼女の普段の、よく通る声とは程遠い状態での歌唱であったが、なんとか最後まで歌い通した彼女に拍手はとても温かかった。




 最後のMC。



 「何やってんだかなあ」

 と(再び、歌えなかったことの)自分の不甲斐なさに溜息をつき「落ち着いた」と暗示を掛けるように自己を奮い立たせる茅原さん。
 最後には「ちゃんと立ち直そうよ。私」とか「今日はいっぱい怒られたい」とまで言い放ち、それが換えってしんみりとした場内の雰囲気を打ち破ることに繋がった(しかし不用意にも「怒られたい」と言うものだから、彼女が声をあてている名物キャラクター「みなみけ」の南千秋に倣い『バカ野郎』という声が客席から数多く発せられた)。
 すなわち観客と、他のバンドメンバーにもようやく笑顔が戻ってきたのである。
 茅原さんは自分の気持ちを落ち着かせるが如く、アニメ「喰霊-零-」で昔からの自分の夢であった、出演するアニメの 主題歌(「Paradise Lost」)を歌えることが出来た喜びを伝えたり、奥井雅美さんとステージでコラボした事の緊張と感激、年末の台湾公演で経験した感動など昨年(2008年)の主な活動を総括し、 それら言葉の端端からも昨年は実りある年であった事が窺い知れたのだった。


 「今年もあらためて宜しくお願いします」と深々と挨拶をし、ライヴもいよいよオーラスを迎えた。
 「私の気持ちを受け取って下さい」と始まった曲 −「花束」。
 始まりこそ比較的、落ち着いた歌声であったが、徐々に彼女の声はどこか不安定なものになっていった。
 そうさせたのは、後の情報で最前列近くで(生花か造花か判らないが)”花”を何人かが手に持って振っていたから−であったらしいのだが、流石にここまでするファンが居るとは私も予想だにしなかった。
 結局、このファンの行った”サプライズ”に彼女は感激し、最後は涙で歌もままならなくなってしまったがそんな彼女を責めるものは勿論、誰もいなかった。
 曲が終わり、茅原さんは楽器を下ろしたバンドメンバーと手を組み、恒例の万歳三唱。
 バンドメンバーが拍手の中、ステージを捌けていくと、茅原さんだけがそこに残った。
 「どうも、ありがとうございました」とステージの中央、上手、下手と掛け回って客席に何度も挨拶をし、それはやがて、涙声となり、最後には絶叫のようにもなった。彼女の涙腺は完全に崩壊したのだった。
 「みのりん」「みのりん」という雪崩のような大歓声の中、恒例の「みんな、大好き」という声だけを残しステージを去った彼女。
 会場内では(ファンによる)三三七拍子だけが大きく、激しく鳴り響いていた。









 あれから1ヶ月弱の月日が立ち、あらためてライヴをWEB上の記録など共に振り返っても、素晴らしいライヴであった事に変わりはない。アンコール前までのセットリストの妙と茅原さん、バンドメンバーのパフォーマンスの巧みさ。
 ツアー二日目とは思えぬ完成度を誇っていた。
 しかし、アンコールでのツアーラスト公演のような号泣ぶりと、それに伴うボロボロ加減。
 茅原さんのその日のブログでも『感極まってちゃんと歌にならなかったりしてごめんなさい。歌う者として申し訳なかったと反省しました。』
 と書いて謝っていたが、私はこれこそ”ライヴ”だとあらためて思ったぐらいだった。
 過去の記録を見ると判るように、私は外タレのライヴに行く事が多いが、彼らがこの極東の地で感極まったり、それが原因で演奏をトチるなんてことはまずはない。
 涙を見せるなんて尚更だ。
 酷な言い方をすれば、それは日本にはあくまでビジネスとして来ているからである。
 だから、茅原さんのように今の自らの気持ちを素直に曲に投影し、吐露する事は逆に 新鮮でもあったのだ。
 私はステージ上でアーティストが涙するのを目にするのはコレで2回目だが(前回は森高千里の顎関節症からの復帰コンサート)その時も、心震わせられた思い出がある。
 アーティストが涙を見せたから、感動した。とは短絡的に言いたくはないが、それによってステージと客席の得も言われぬ一体感や高揚感が生まれたのは紛れもない事実である。
 今、現在(2009年3月初旬)、ツアーはなお続行中であるが、これほどの茅原さんの素の感情が入り交じったライヴは未だ、報告されていない。
 そういう意味でも貴重な経験をさせて貰ったと思っている。



 しかし、昨年の「Contact」ツアー名古屋追加公演時での『大阪のみんな、今晩は』発言と今回の涙のアンコール。名古屋はハプニングの宝庫かもしれない。
 来年のリリースされる(?)であろう「Message 03」でこの名古屋公演がどう映っているか今から楽しみである。







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