PAUL GILBERT
“PG-30”
DEBUT 30th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT










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PAUL GILBERT - lead guitar, lead vocals
KEVIN CHOWN - bass
THOMAS LANG - drums


FREDDIE NELSON - guitar, lead vocals
TONY SPINNER - guitar



Li-sa-X - human guitar capo



















 ポール・ギルバート 現在(2016/10)49歳。


 この11月6日には 遂に50代の扉を開く。


 そんな彼が、ロスアンジェルスのGIT(Guitar Institute of Technologyに入学し、成績優秀で卒業。
 その後、講師になり、自分の生徒などと「Racer X」を結成したのが20歳の頃。
 あれから 30年が経った。
 このデビュー30周年を記念し、オールタイムベストなアルバムの発売と記念ライブがポール自身、MR.BIG結成以後 縁深い此処、日本でのみ行われる事となった。
 久々、名古屋でもライヴ開催を期待されたが、予想外の東京1日のみ。
 ウドーなどの説明によると「奇跡的にメンバーが集うのは この一日しかなかった」とあったが正直云うと、戸惑いしかなかった。
 (後々になって、ライブ翌々日には、サンフランシスコでMR.BIGのライヴがあるとか、バンドメンバーのドラム=トーマス・ラングが売れっ子である事が判ったのだが。)
 だが、この唯一の東京公演を、地方でも中継−ライヴビューイングするという驚きの企画も同時に発表された。
 それもライヴビューイングでお馴染みの映画館ではなく、全国のライヴハウス Zeppを使うというのである。
 「ロックらしい」.....と云えばそうなのだが、チケ代が割高(\4000)だったゆえ、躊躇せずにはいられなかった。
 そう思った者が、多く居たのは否めなかった事を当日、思い知らされる事となった。


 名古屋の会場は、名古屋駅から幾分か離れた、ささしまライヴ地区のZepp名古屋である。
 最近、この地区には大学が移転したり、中京テレビの新社屋が完成したり、ホテルがオープンしたりと急激に大きな人の流れが生まれている。
 この日も、それを大いに実感する事となる程、ささじまの交差点からのZepp名古屋への道のりで余りの人の多さに辟易した。
 人の波を掻き分け、Zepp名古屋には開場20分ぐらい前に到着しただろうか。
 だが、いつも、列が形成されているZepp名古屋の側面壁には、全く人の影が見られなかった。
 正面に回ると、ようやく入場口から順に列が出来ているのを確認できたが、それでもせいぜい20人程度。
 不安が現実になったことを知った。
 開場時間直前となると、なんとか40人弱が列を為したが、いかんせん寂しさが目立った。


 開場−ロビーを抜け、会場に入っていくと、例によってパイプ椅子が引き詰められていた。
 前方のスクリーンには、既に演奏会場であるZepp東京の様子が固定カメラによって映し出されていた。
 それは あたかも、ここZepp名古屋でもステージが再現されているような趣であった。
 「なるほど、だからZeppで上映するのか!」とひとりごちたのだった。


 開演時間が近づいてきた。
 前方の席にはまだまだ 空きが目立つが、自分の席より後ろは徐々に人で埋まってきた。
 これなら、なんとか体裁が整いそうで、なんとか一安心である。
 しかし、スクリーンに映るライブ会場と、こちらの冷静な空気感の違いには唖然とさせられるばかりであった。




 開演時間(19:00)から5分程経過 ステージが暗転した。

 SEであるマウンテンの「Mississippi Queen」が大きく鳴り響く中、バンドメンバーが3人、ステージに姿を現した。ひときわ大きな拍手が上がる。
 今夜の主役、ポール・ギルバートが登場したのだった。

 ポールのギターが、爆音を伴って唸りをあげた。
 それを合図に演奏が始まった。
 いきなりの速弾き披露だ。
 だが、カメラは開演前と同じく 固定カメラのままである。全く、アップ画像が映らない。
 「一体、どうなっているんだ?」
 おそらく この会場に居る者達全てが思った疑問だったに違いない。
 かろうじて、Zepp東京のスクリーンには、映像が時にはアップされているのが判る。
 しかし、こちらからは薄靄が掛かっているような映像で、ほとんど意味を為さないのが痛い。
 そんなライブビューイングの観客の戸惑いをよそに40分間に渡る、超絶メドレーがスタート。
 1曲目はポールのデビューアルバム「Street Lethal Racer X with Paul Gilbert」のタイトルソングである。
 聞き慣れたイントロのリフが耳を劈く(つんざく)。思わず足でリズムを取る。
 だが、歌メロ部分に入っても、ポールの、ましてやジェフ・マーティンのボーカルが無い事に唖然とする。
 すぐに2曲目「Into the Night」のリフへと移った。
 もちろん これもインストであった。
 そうなのだ。このメドレーは全て、インストで行うと事前に予告されていたのである。
 普段、歌入りで聞いているものをポールのギターだけで−となるとやはりちょっと違和感が残った。
 メドレーはデビューの第1期Racer Xの楽曲から、時系列に披露され、その第1期Racer Xのパート最後が自分のギター練習曲でもあった(冒頭のリフだけ 笑)「Scarified」の全曲披露であった。
 既にこの時点で、息つく暇なく繰り出される壮絶なギターショーに私には ため息しか出なかった。
 メドレーはいよいよMR.BIGパートになだれ込んだ。
 曲はMR.BIGのデビューアルバムから「Take a Walk」
 あのリフがもはや、懐かしく感じてしまうのは何故だろうか。
 2曲目も同アルバムから「Anything For You」
 この曲では、目玉のギターソロ部分を披露。特にポール・ギルバートの十八番である「ストリング・スキッピング」が組み込まれた後半は、いつ聞いても素晴らしい。
 そして、次の曲のリフが鳴り響くと、大きな歓声が上がった。「Daddy, Brother, Lover, Little Boy」
 思わず立ち上がってしまいたいくなる衝動に駆られる。
 有名なリフからすぐさま、ギターソロに入る。ポールは首尾よくマキタの電動ドリルを手に取り、ドリルソロを奏でた。
 すると、より一層、大きな歓声が上がった。
 しかし それにも増して大きな声が湧き上がったのは、特徴的なTappingのフレーズが次の曲の始まりを告げた時だった。
 やはり「Green Tinted Sixties Mind」の人気は凄い。それに今回、ポールは歌メロをなぞって演奏しているのだ。
 これはかなりレアだ。この曲を歌なしというのも気付いたら初めてであった。
 その後、「Nothing But Love」「A Little Too Loose」と続き、MR.BIGパートは終了。
 いよいよ、ポール・ギルバート・ソロパートへと移ると、早速、懐かしい「Champagne」が披露された。
 これには中継元の観客も同様だったようで、反応が大きいのが見て取れた。
 一旦、MR.BIGの「Seven Impossible Days」のサワリを演奏したかと思えば、次にこれまた忘れられない曲のリフが響き渡った。
 「Down to Mexico」は先程の「Green Tinted Sixties Mind」よりも大きな歓声が、中継元だけでなく此処、Zepp名古屋でもあがった。
 ポール・ギルバートのライブ定番曲であり、初期からの(ギター教則本の課題曲でもあった)ファンにお馴染みのこの楽曲の人気は凄まじいものがあった。
 「Gilberto Concerto」のインストを一瞬、挟み、「Individually Twisted」は個人的に久々に聞きたかった曲だっただけに心躍った。(イントロの速弾きに痺れた。)
 「Girls Watching」、第二期Racer Xの「Snakebite」「Fire of Rock」ときて「Bliss」が始まった時も、懐かしさと共に思わず「Yeah!」と叫びたくなるほどの感激を覚えたのだった。(この曲もほぼフルで披露してくれた。)
 次の「I Like Rock」でも その思いは変わる事はなかった。
 「Superheroes」「Viking Kong」という第二期Racer Xも、ポールのソロと非常に似通っているが、あの頃のバンド的な勢いが感じられるだけに 人気の高さが伺えた。
 そんなメタル曲の直後には、なんとも緩い曲が選ばれた。もちろん それは「Boku No Atama」である。
 まさか この曲が! と思った者も多かったのだろう。「うわっ!」という声も漏れ聞こえた。
 勢い良く「Spaceship One」が始まる頃になると、横でもう一台、白いPGM(ポール・ギルバート・シグネイチャー・ギター)が固定スタンドにセットされて出てきた。
 またそのスタンドと一緒に、何やら台(いわゆる”雪州”)が置かれていた。
 メドレーは、ポールの歴史において最終期に入ってきた。つまり最近のインストを弾くポールである。
 曲は「Get Out of My Yard」。スタートと同時に、舞台袖から一人の少女が現われた。
 その少女こそ、誰であろう、天才小学生ギタリストとして知られるLi-sa-Xであったのだ。
 彼女が”雪州”の上に立ち、白いPGMの指板に人差し指を添える。
 ポールがそのギターで曲を奏でると同時にLi-sa-Xは指を器用に移動させていく。
 つまり、彼女の指は”移動式ギターカポ”あるいは”人間カポ”の役割を果たすのだ。
 私はこの光景に、激しく、懐かしさを覚えた。
 ポールはかって 2000年の「Alligator Farm Tour」来日公演で演奏された「Green-Tinted Sixties Mind」にて、同じように女性に”人間カポ”をさせたのだ。
 ポールはその再現を、この記念ライヴで行なった事にちょっと感激してしまった。
 しかも、より高度で複雑な曲で巷で話題の天才小学生ギタリストを配しての披露。
 ポールは日本のファンの為に、特別な趣向を考えてくれた事が単純に嬉しかった。
 演奏が終わると、Li-sa-Xはやりきった気持ちが強かったのか、高々と右手を挙げステージを捌けていった。
 だが、ポールからLi-sa-Xを紹介する事が無かったのは、少々、残念ではあった。
 あれでは事情が知らない人にとってはポカーンではないかと...。
 マア、メドレーというブレイクが入れずらい場面では仕方ない事ではあったのだが。

 「Hurry Up」「The Curse of Castle Dragon」、ハイドンの交響曲(Symphony No. 88 in G major)をカバーした「Haydn Symphony No. 88 Finale」「Silence Followed By a Deafening Roar」と壮絶で、美しいメロディーがポールの指先から弾き出された。
 フレディ・ネルソンと組んだアルバムで披露したボーカル曲「The Last Rock and Roll Star」のリフを一瞬弾くと、ストリング・スキッピングを屈指した「Fuzz Universe」が会場に溢れ出した。
 「もうちょっと聞きたい!」と思った処で、すぐ次の「Olympic」へ移る処が、心憎い。というか焦らし感(笑)。
 「Enemies (In Jail)」「Vibrato」と短く、移り変わっていく。
 遂にメドレー最後の曲「Eudaimonia Overture」となった。
 イントロのタッピングはカットしたものの、勢いはメドレー最後を飾るに相応しく最高潮に達した。
 最後の一音を弾き終えたポールの表情には、やりきった気持ちと安堵の気持ちが入り混じった笑顔が輝いていた。
 大きな拍手が場内に拡がっていく。



 水分補給をしたポールが一呼吸して、こう叫んだ。

 「コンバンワ トウキョー!!」

 あらためて、バンドメンバーを紹介し、フレディ・ネルソンとトニー・スピナーをステージに呼び込んだ。
 熱烈歓迎な拍手の中、スポットライトを浴びる二人である。
 ここから、ポール、フレディ、トニーのギター3人体制の5人バンドとなったのだった。
 5人バンドとなってまず、披露されたのは3人のギタリスト紹介を兼ねたジャムセッション。
 ギタリストでは定番なブルーズセッションでありながら、それぞれ特色に溢れるフレーズを響かせる。
 特に、オールド?のフェンダー・アンプを使うトニー・スピナーの音は、マーシャルを使う他の2人に比べ、全く音が違うのが非常に印象的。
 個人的には、このようなブルーズセッションでは効果的と感じた。
 セッションを一旦、ブレイクするとポールが次曲を紹介。
 始まったのが、ニューアルバム「I Can Destroy」から「Everybody Use Your Goddamn Turn Signal」
 今夜、初めてポールのボーカルが曲に乗った瞬間でもあった。
 また、ギターソロでは、ポールからフレディ、トニーへとソロ回しがあり、最後は3人でユニゾンで分厚い音を聞かせて観客を圧倒したのだった。
 次に披露されたのは 同じくニューアルバムからそのタイトルソング「I Can Destroy」であった。
 ノリの良いこの曲は、フレディ・ネルソンのサポートボーカル、ギターを伴って最高のCD再現率を誇っていた。

 「ドウモ アリガトー」

 久しぶりのボーカル曲の連続にノドが疲れたのか、やや声がれもしながらポールは観客に感謝を伝えると、すくにペットボトルの水に手を伸ばした。
 ひと時のブレイクの後、始まったのもニューアルバムから「Knocking On a Locked Door」
 これまた勢いのある小気味良い曲で、しかもフレディ・ネルソンのボーカルが要所要所で効いてくる。
 引き続き「One Woman Too Many」は、ブルーズロックである。
 だが、単なるブルースロックに終わらないのがポール流。
 その最たるものが、セカンドギターソロで、再び、マキタの電動ドリルを使って演奏し、エンディングのアウトロでドリルの起動音をエフェクト代わりに高らかに響かせた事であった。
 次もヘビー・ブルースロックという感じなミディアムテンポの「Woman Stop」
 この曲では、トニーがボトルネックを使いCD通りの再現をしてみせたのが非常に印象的であった。
 (もしかして ポールもボトルネックを使ったかも?記憶が曖昧である 苦笑)
 「Woman Stop」がトニーがある意味、主役なら次曲「Gonna Make You Love Me」は、もう一人の雄、フレディ・ネルソンである。
 ニューアルバムの中でも、特に気に入っているロックンロールナンバー。
 フレディがポールとボーカルを分け合いながらも、もっぱら主役はフレディの印象が強い。私がニューアルバムの中で最も聞きたかった1曲であった。

 ロックンロールから、ブルーズへ。
 ポールが、ブルーズ色の強いフレーズを弾き始めると、それはやがて「Blues Just Saving My Life」へと繋がっていった。
 ここではポール、フレディ、トニー三者三様の解釈で各々のフレーズを展開していく。
 その対比が面白い。
 ちょっとしたMCを挟み、メドレー以後、初めてニューアルバム以外の曲が披露された。
 ドラムのカウントが曲のスタートを知らせた。
 それはアルバム「United States」に収録された「Paris Hilton Look-Alike」であった。
 なんとも、人を食ったタイトルであるが、このアルバム発表から既に7年余り経っている事に驚いてしまう。
 フレディ・ネルソンを伴った2009年の来日公演でも2曲目に披露された曲であった。
 やはり この曲も、キーポイントはメインボーカルを取るフレディの声。
 壮大なロッカ・バラードという趣ながらコーラスに回るポールや他のメンバーの声も所々で映える。
 フレディ・ネルソンを今回、帯同させた意味の大きさを理解した。
 なぜか、メドレーでも披露された「Enemies (In Jail) 」がここにきて、2回目の登場。
 メドレーはイントロのリフ程度だったが、こちらはもちろん、ボーカル入りフルヴァージョンで披露となった。
 (よっぽど ポールが気に入っている曲なのだろうか?)
 「Enemies (In Jail) 」終了後 ポール、フレディ、トニーが携える楽器はエレキ・ギターからアコースティック・ギターへチェンジされた。
 懐かしきアルバム「Gilbert Hotel」から 2曲「Older Guy」「Black rain cloud」が披露された。

 「そういえば ポールもアンプラグド・アルバムをリリースしていたな」

 ― とほぼ 忘却の彼方な楽曲群ではあったが、2003年に今は無きHMV生活倉庫店(名古屋駅前)やタワレコ・近鉄パッセ店のインストア・ライブでアコースティック・ギターをマーシャルに繋ぎ弾きまくっていたポールの姿を思い出した。
 勿論、今回はそんな無茶な事をするわけもなく、落ち着いたメロディアスな佳曲を弾いたのであるが。
 しかし ずっと歪んだ音で弾きまくってきたライヴにあって、一服の清涼剤となった時間でもあった。


 そして ― 気付けば ライヴも既に後半戦である。

 此処から 一気に6曲披露となった。
 まずは最近作のアルバム「Vibrato」から「Atmosphere on the moon」を、情感たっぷりなポールのボーカルとギターでゆったりと表現したかと思えば、懐かしき「Alligator Farm」アルバムから「Better Chords」でパンキッシュに勢い良く弾けた。
 でも、それは次なるドラマー、トーマス・ラングのソロコーナーの序章に過ぎなかった。
 終演後まで知らなかったが、ラングは、マイク・ポートノイ脱退後のドリーム・シアターのドラマー・オーディションで最後の何人かに残ったこの業界では有名な巧手であったのだ。
 だから、このドラムソロは、それを裏付けるような派手で、手数の多いパフォーマンスであった。
 途中から、ポールのギターのバッキングも絡み、それが最高潮に達した時、聞き慣れたリフに転化した時には驚きと苦笑に溢れてしまった。
 なにせ、始まったのが、あの伊藤政則氏のテーマソング(週末土曜日深夜には「POWER ROCK TODAY」(bayfm)で毎週、流れる)である「MASA ITO」であったのだ。このデビュー30周年を記念するイベントでも、まさかの「MA MA MASA ITO ♪」である。
 もう笑うしかなかったが、それでもポールの日本のファンに対するサービスには感謝と尊敬の念しかなかった。
 (当の本人である伊藤政則氏の、アイアン・メイデンのキャラクターエディばりの登場を期待したのだが、残念ながら現れる事はなかった。)
 そんなポールに我々は、盛大な拍手で応えたのだった。
 アルバム「Paul the Young Dude」から、再び懐かしい曲「I'm Not Afraid of the Police」を披露。走馬灯のように自然とあの頃の記憶が蘇る。
 思い出の曲の後、再び最新アルバム「I Can Destroy」の楽曲へと戻った。
 「I Am Not the One (Who Wants To Be With You) 」
 タイトルからも判るように、ある意味、あの「To Be With You」のアンサーソングとも云えるだろうか。
 だが、曲調は早いリフが特徴的なハードなロックン・ロールである。
 ゆえに、アウトロはブルーズ・フレーズがたっぷり。
 鬼神のように弾きまくるポール・ギルバートであった。
 6曲目−最後となったこの曲は、クランチトーンのギターに、ゆるいポールのボーカルを乗せたブルーズで始まった。
 それが(同じく最新アルバムから)「Adventure and Trouble」へと転換すると、一斉にバンドはフルボリューム。
 壮大なセッション大会へと加速していった。
 正に、今夜のライヴを総決算するような弾きまくり、叩きまくり。
 もう、誰が何のフレーズを弾いているのか、そんな事、聞き分けようとするのが野暮な程のZepp東京の盛り上がりに、何百キロも離れたZepp名古屋でも気持ちが熱くなったのだった。

 「トーキョー アリガトー ロックン・ロール!」

 ポールは、感謝を絶叫でそう伝えた。
 やがて、バンドメンバーらと共にステージを降りるその後姿に我々、観客は拍手で見送った。
 その拍手は途切れなく、次第にアンコールを求める、規則的でより大きな手拍子へと変わっていった。


 手拍子の勢いに押され、僅か数分でステージに復帰したポールとバンドメンバー達。
 アンコールでは一体、何をやるのか興味津々で身構える私であった。
 そんな”熱量”を知ってか、知らずかポールは緩く曲を始めた。
 「キーC .....」と呟いて、歪んたトーンでブルース調のフレーズを弾き始めたポール。
 次もポールが「キーC .....」と指示し、それをフレディにふった。フレディも、それに従いクリアなトーンで弾き繋いだ。
 つまり、Cのキーで自由にソロを弾いてみろ。というポールからのお達しなのである。
 フレディの次は ベースのケヴィン・チャウンにも指示が下された。
 ちなみに、これが今夜、初めてベース・ソロを奏でる機会であった。
 重低音で、見事、Cキーのベース・ソロを披露するケヴィン。その音は、空きっ腹に十分に響く強烈さである。
 ポールは なんとドラムのトーマスにまで「キーC .....」と無茶振りをした。
 もちろん、打楽器であるドラムにキーなどはない(特殊なものを除いて)。
 すぐに、苦笑交じりの笑い?と声援が会場にも拡がった。
 ”バンマスの命令は絶対である”とばかり おもむろにスネア、タムを叩いて笑いを誘った。
 最後は、当然、トニーだ。
 トニーは、フェンダー・アンプらしい独特なトーンで、ボトルネックを使いながら、見事にこのセッションの締めくくりをした。
 だが、このセッションは次曲の為のイントロでしかなかった。
 ポールによって、コールされたのは「キーC」で始まる曲「My Religion」であったのだ。
 2002年の「Burning Organ」に収録された楽曲である。これまた 懐かしさで心が満たされた。

 曲終了後、ポールは

 「トーキョー ドウモ アリガトウ We Love You !」

   と絶叫。いよいよ オーラスかと思った処で、次曲のタイトルも叫んで、この曲の登場に私は驚かされたのだった。
 それはアルバム「Space Ship One」に収録された「SVT」であったのだ。
 「SVT」とはご存知の通り、アンペグのベースアンプの一つである。
 そのベースアンプのテーマソングを最後に持ってくるあたりがポールのユニークなところでもある。
 「SVT」と連呼する、パンキッシュな勢いあるロックな曲で最後を飾るのは(勿論、この曲が最後となると判ったのは後の事であるが)ある意味、正解であったのかもしれない。
 全力で2時間余りを、駆け抜けたポール・ギルバートとその仲間たち。
 最後に笑顔を残しながら挨拶をした彼らは、静かにステージを降りていった。




 私は、MR.BIG時代、ソロと地元で行われるライヴには全て、足を運んできた。
 だが、ソロに限っては2010年のリリースイベント・ライヴ以来、此処では開催されなかった事もあり見ていなかった。
 MR.BIGの再結成、再来日は当然のことながら参加し、ポールの活躍は十分過ぎるほど目の当たりしてきたが、やはりソロとは違った。
 それを再確認したのが今回のデビュー30周年記念ライヴでもあった。
 また「やっぱり ソロ初期の楽曲はいいなあ。好きだなあ」と再認識もした。
 それだけに、また、あんな曲調の楽曲をいっぱい、やって欲しい。とも思ったのだった。
 今回、セットリストには やや不満が残るものの、ライヴ自体はポールの熱演、バンドメンバーのサポート、素晴らしかったと思う。
 しかし、ライヴビューイングはどうだったか?と云えば、大きな疑問符が残る。
 音は、流石というしか無いほど、臨場感があり、Zeppというライヴハウスを使う大きな意味があった。
 ただ、肝心要の映像に関しては、最低点しかあげられないだろう。
 実際にライヴ会場で見るような 画角?を再現したかったのか、プレイヤーへのアップもない完全固定カメラはただただ、ストレスが残るものでしかなかった。
 結局、一度もスクリーンにポールの顔を、フィンガリングをはっきりと映し出す事はなかった。
 ギターファンの事が全く判っていないこの中継手法に抗議したいぐらいだったと言っていい。大変、残念であった。

 然しながら、ポール・ギルバートという速弾きギタリストがデビュー30年を迎え、何故 ここまで業界で生き残り、今後、どうなっていくのかを考えるに良い機会となったライヴであったと思う。期待したい。







ポール・ギルバート、Li-sa-Xとの競演もあり超絶プレイを堪能できた一夜限りのZepp東京公演

ポール・ギルバート PG-30 ライブ開催報告


















SET LIST
1      ◆  OPENING 40 Minutes MEDLEY ◆
Intro
Street Lethal
Into the Night
Blowin'Up the Radio
Scarified


Take a Walk
Anything For You
Daddy, Brother, Lover, Little Boy
Green Tinted Sixties Mind
Nothing But Love
A Little Too Loose


Champagne
Seven Impossible Days
Down to Mexico
Gilberto Concerto
Individually Twisted
Girls Watching
Snakebite
Fire of Rock
Bliss
I Like Rock
Superheroes
Viking Kong
Boku No Atama
Spaceship One

Get Out of My Yard with Li-sa-X
Hurry Up
The Curse of Castle Dragon
Haydn Symphony No. 88 Finale
Silence Followed By a Deafening Roar
The Last Rock and Roll Star
Fuzz Universe
Olympic
Enemies (In Jail)
Vibrato
Eudaimonia Overture
MC
2JAM 〜 Everybody Use Your Goddamn Turn Signal
3I Can Destroy
MC
4Knocking On a Locked Door
5One Woman Too Many
6Woman Stop
MC
7Gonna Make You Love Me with FREDDIE NELSON
8JAM 〜 Blues Just Saving My Life
MC
9Paris Hilton Look-Alike with FREDDIE NELSON
10Enemies (In Jail)
MC
11Older Guy  [Unplugged]
12Black rain cloud [Unplugged]
13Atmosphere on the moon
14Better Chords 〜 THOMAS LANG Drum Solo 〜
15MASA ITO
16I'm Not Afraid of the Police
17I Am Not the One (Who Wants To Be With You)
18Adventure and Trouble (“Reprise.” PG sings one solo verse. Band joins for the ending jam.)
・・・Encore・・・
19Key C Session
20My Religion
21SVT

メドレーの青字曲はRACER X赤字曲はMR.BIGです。











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Paul Gilbert Band with Li-sa-X


















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