第6回「明大オープン」

 

 1998年5月23日、「明治大学イージオス」の主催で行われた第6回「明大オープン」の観戦記です。
 ちょっと辛い部分もあるかもしれませんが、まあ、自分なりに思ったことを率直に書いています。

協力:鈴木舟太、串戸尚志、松本裕輔

1.プロローグ

 青葉の頃になった。
 この時期は、たくさんの新しい出会いが待っている頃。
 クイズの世界でも、例外ではない。
 今年も、大勢のニューカマーを迎えることになった。
 自分が新入生だった頃の気持ちはどんなだったであろうか。今のようにオープン大会が盛んに行われている時代ではなかった。でも、初めて手にした早押しボタンが嬉しくて、来る日も来る日も例会でのクイズに没頭していたような…。
 何も考えず、ただクイズをやれるだけで幸せだった。
 あの頃の初心、胸に抱いていた希望、それは決して忘れてはならないもの。
 希望を胸に抱いている新人たちが、初めて己の腕を競い合う場、それが「明大オープン」である。

2.去年和泉校舎で…

 自分が「明大オープン」に参加したのは過去2回。第3回(95年)と第5回(97年)。いずれも、2Rは突破したものの、その次で敗退している。相性が悪いわけではないんだろうけど、どうも結果が残っていない。前回は、時間が押して突然コーナーの問題数が縮小され、なんだか分からないうちに終わってしまった。条件はみんな同じだったとはいえ、釈然としない思いがしたのもまた事実である。
 そのため、今年は結果を残すつもりで自分なりに気合を入れていた。なんでも、スタッフは事前に「難易度を抑える」と予告していたということなので、自分としては願ってもいないチャンスである。とりあえずの目標は準決勝。できれば決勝。まあ、自分なりのプレイをして持ち味が発揮できればいいのだけど…。

3.明大前

 さて、5月23日当日。明大前に出掛ける前にWINS後楽園に寄る。高松宮記念の馬券を購入し、電車の中では雑誌『優駿』を読みふける。オープン直前にしてはやけにリラックスしている自分がいる。神保町で都営三田線から乗り換えた都営新宿線は京王線直通の快速八王子行。「お、この電車なら笹塚で乗り換えの必要なくて便利だぞ」と、再び『優駿』を読みふけっているうちに、フッと車窓が明るくなった。笹塚に到着。「確か、代田橋、明大前だったから、あと2つか」。何の疑いもなくそう思い、ひたすら『優駿』に没頭しているうちに、2つ目の駅が来た。「下高井戸、下高井戸…」車掌のアナウンス。まったく、何寝ぼけてんだよ、駅名間違えてやがる…。そう思って電車を降りる。いや、車掌は間違えていなかった。確かにホームの駅名表示板にも「下高井戸」とある。もしかして…代田橋って快速止まらないの? まさにその通りだった。おかげで、長いこと上り電車を待つハメになる。日大桜ヶ丘高校のねーちゃんたちがわんさわんさホームにたまってくるなかで、非常にいづらかった…。
 明大前に着くと、早稲田の後輩たちは既に集合していた。気まずーい雰囲気のなか、遅れた理由を話し、ひとしきりからかわれる。一橋OBの飯田を見つけ、バカ話に興じていると、秋田到着。長期休養明けの秋田にとって、これが関東復帰第1戦となる。元気そうな様子にひと安心。上野の到着を待って、秋田と3人で和泉校舎へと移動。会場に着くと、いつもより1回り小さい教室になってたけど、それでも満員の様子。関東では久しぶりに100人を超える規模のオープンとなった(関東のオープンで参加者が100人を超えたのは、「Man of the Year」を除けば、記憶に間違いがなければ第6回「法政オープン」以来のことだろうか)(Ryu注:記憶間違いでした。正確には、3月14日の第7回「一橋オープン」以来だそうです。関係者のみなさん、すみません)。特に新人枠用の座席がはちきれんばかりだったのには驚いた。今年はどこも新人いっぱい入ったみたいだなあ。ウルトラ復活の影響だろうか。
 一般枠の座席の最後列に、秋田、上野、そして会場に来る途中で拾ったノビらと固まって座り、ルール表に目を通す。3Rのコーナーを見てみると…そこには「タイムレース」の文字が。この瞬間、ルール表を読むのをやめる。何はどうあっても、自分としてはここを選ばないわけにはいかない。難易度が抑えられるのなら、ますますこっちのもん。誰とやってもこわくはない。

4.超低空飛行

 簡単なオープニングの後、ペーパーが始まる。予告通り、問題は思ったよりずっと易しかった。が、どうも思ったように埋まらない。記憶障害なのか、はたまたハナから知らなかっただけなのか、全然「できた」という手応えがない。終了。情けなかった。こういう「落としちゃいけないペーパー」で上位取らなくて、いつ取るんだよ。ふがいなさいっぱいでブルーな気分になる。
 果たして、ペーパートップは47点の秋田。2位に3点差をつけての完勝。会心だったと見えて、笑みもこぼれている。そんな秋田に「八百長」「インチキ」「カンニング」のお約束の罵声(笑)を我々が浴びせたのは言うまでもない。
 結局自分は、2Rシードの6位以内はおろか、1○2×のご優待となる18位以内にも入れず、38点で25位。とにかくヘボすぎ。「ブラインド・サイド」なんてラクビーベタだし、「ゴルダ=メイア」も「えんくり杯」での駒形の1撃ですっかりベタ化してるもんなあ。「グランドコブラ」に至ってはその試合TVで見てたのに「グランド卍」と間違えてる。やっぱり8割は取らないと、この問題なら。
 続く2R、ここでは上野が大ブレイク。「ドーム球場が増えてきたことによって最近では耳にしなく/なって…」「雨傘番組!」にはしびれた。若いやつらがこの上野の押しをしきりに感心していたのが印象的。このクイズセンスこそが上野の真骨頂。思い知るがいい。さて、自分の名前が呼ばれたのは最終第6組で、2R屈指の厳しいメンバーが揃った組み合わせとなった。まあ、でも、どうせ後のラウンドにいけばこれよりも厳しい顔ぶれになるしね。1問目「…エジプトの古代都市にちなんで」で「メンフィス」を正解し1○。幸先のよい滑り出しとなるが、後が続かない。そうこうしているうちに、1人、また1人と勝ち抜けを決めていく。自分のお株を奪うような速攻を見せた日高や、励ましつつ戦っていた塚本にも先を越され、残りシートはあと1つ。こうなると、1×覚悟で攻めにいくしかない。しかし、次の問題は科学系で、前フリでは全くピンとこない。その刹那、駒形のランプがついた。負けた、一瞬そう思った。が、駒形の回答は誤答。助かった。どうせ拾った命だから、後はガンガン攻めないと。次の問題、前フリからすると鉄道の特急の愛称を尋ねる問題らしい。よし、「、」の後 でハネてやる。「…長/野新(幹線)」きれいに決まった。難なく「あさま」を正解。文字通り2R最後の勝者となった。しかし、笑顔はなし。こんなヘボい勝負続けてたらダメだ。次のラウンド、得意のフィールドで調子を取り戻さないと…。
 席に戻る途中、野沢聡子が3Rのコーナー選択希望を取る係をしていた。スピード自慢のスプリンターたちにプレッシャーをかけるつもりで、会場に聞こえる声で野沢に向かって一言「タイムレース」。それだけ告げて帰ろうとすると、「…Ryuさん、一応、第2希望以下も書いてください」と野沢の声。いや、申し訳ない。

5.僕が僕であるために

 3Rは9人から3人抜けで準決勝進出となる。2つ目のコーナーである「タイムレース」のメンバーが発表される。除外を食らうこともなく、余裕で一般枠2人目で自分の名前が呼ばれる。他のメンバーといえば、矢野2号、日高、飯田という第2回「嶺上杯」でも戦ったメンツに、沼屋、神山といったところ。正直、この瞬間に準決勝進出を確信する。1位になれるかどうかはともかくとして、3位以内に入ればいいんだし。3人以上に負けるなんて考えられない。できることならここでもきっちり完勝して、勝負づけを済ませてやる。出番を待ってる間は、飯田と再びバカ話をして過ごす。1つ目のコーナーにエントリーしていた上野も準決勝進出を決めたらしい。ガッチリ握手を交わし、ゴーグルをつけて、いざスプリント戦の舞台、である。
 さて、タイムレースが始まってからのことは、いつも通りよくは覚えていない。ほとんどの問題は無意識下で答えているものだから。よく聞かれるけど、どんな問題答えたかって、よっぽど印象的だったもの以外はほとんど覚えてないんだよね。覚えているのは、「人間の歯を構成する3つ/の…」で「セメント質」を答えたのと、例の、「なぜ/山…」だけ(爆笑)。それでも、自分が押すたびに会場から「早えー」というどよめきが起きていたのはけっこう覚えている。すごい快感だった。しかと見届けよ、本物のタイムレーサーのスピード。ノーミスで切り抜け、正解数も頭1つ抜けている様子。規定時間終了後、勝ちを確信し、右手を高々と挙げる。そして、十字を切って投げキッス。
 1抜けは8点で自分。2抜けは6点の矢野2号。この日の矢野2号は、隣で見ていてもいつになく調子よさそうだった。誤答もあったが手数で勝った日高が4点で3つ目の椅子を手にした。
 第2回「嶺上杯」のときほどちぎっては勝てなかったものの、まあ、前評判通りの勝負はできたと自画自賛しても許される内容だっただろう。スタッフがシャレで出題したと思われる「ジョージ=マロリー」もきっちり取ったし。主催者側の期待には十分応えられたのではないだろうか。
 「次代のタイムレーサー」たらんとしているプレイヤーたちにとって、僕はどうにも「目の上のコブ」の存在らしい。でも、正直、この程度の難易度の問題だったら、今の時点では誰とやっても負ける気はしない。だから、「タイムレース」なら、いつでも、どこでも、誰の挑戦でも受ける。もはやこれくらい強気な発言をしても許される身分だろう。「誰でもいい、俺の首を掻き切ってみろ(byアントニオ猪木)」。
 席に戻ると、待っていた秋田と握手。「完勝でしたね」「まあ、負けるはずがないよ」「みんな気持ちで負けてるからなあ…」。予選1位の秋田は、2Rだけでなく3Rもシードされ、いきなり準決勝からの出場となる。それはそれでいいんだけど、3Rの間中、することなくてとても手持ち無沙汰そうだった。まあ、贅沢な悩みと言えば言えなくもないけどね。

6.Ryuと山本剛の間

 準決勝は8人ずつ2つのコーナーに分かれて、各3人ずつが決勝進出となる。Aセットが「早押しボード」で、Bセットが、シークレットになっている、多少運の要素がからむと予告されたもの。悩んだ末、「早押しボード」の方を選択した。運の要素を敬遠したっていうのもあるけど、「サルでしか勝てない」と思われたくなかった、というのが正直な気持ちだった。こちらでなら負けても「これが己の実力」と納得がいくし。ある程度の難易度の問題でも食らいついていけるようなプレイヤーにならないと…そう思ってのチョイス。メンバーを見ると、秋田、藤井の他に、舟太、増田、遠藤という「難問向き」プレイヤーが顔を揃えている。まあ、「タイムレース」でおなかいっぱいになったし、見せ場だけは作って帰ろう…。そんな気持ちで、せいぜい「秋田の露払いをつとめるか」くらいにリラックスして席についた。
 第1問。「speed」の映画初主演作『アンドロメディア』を問う問題。ランプがついたのは…やっぱり秋田。ゴキゲンな表情で筆を走らせてやがる(隣を見るわけにはいかないのであくまでも推定)。困った、ボケすら思いつかん。じゃあ…「秋田は新垣仁絵が1押しらしい。秋田以外に見たことないぞ」。このボードを見た瞬間、秋田がこっちを見て「訴えるぞ!(笑)」。でも、実際他に見たことないんだからしょうがない。これ見てる人で「隠れ新垣」という人がいたら、秋田にカミングアウトしてやると喜ばれる…かもしれません。
 さて、序盤戦、解答権はなかなか取れず、ボードでの正解も平均をちょっと下回るくらいのペースで進んでいる。秋田は悠々とトップをひた走り、2位集団は混沌としている。そして、自分はその集団の最後尾に位置している。やっぱり知識量勝負だと厳しいのか…不安が頭をよぎる。ともあれ、赤紙を抱えたままで敗退するのだけは避けないと。まずは1回ランプつけることから。
 「奉行所の役人が『火事だ』と騒い/で…」やっと解答権を取った。しかも、これはかなりの速攻で、誰も分かってなさそう。千載一遇のチャンス。赤紙を取り出し、高々とかかげて会場にアピールする。かつて「全日本」で課長こと山本耕造くんがやったのと同じアクション。…いや、以前から早押しボードに出たら1度やってみたかったんだけど、なかなか機会がなくて。他の解答者が一斉にボードを上げる。MC「それでは秋田さんから、『丸橋忠弥』…」。なにー! このポイントで分かるヤツ他にいたのか! やられた。単独正解→大量得点のチャンスだったのに。それでも、秋田の他には正解者はなく、赤紙正解で一気に6点を加算し、秋田に次ぐ2位浮上。一気に決勝進出の目も出てきた。
 このエピソード(「慶安事件」のときに、丸橋忠弥を捕らえるのに奉行所の役人が屋外で「火事だ」と騒ぎ、忠弥がヤジ馬に行こうとしたところを一斉に取り押さえた、というもの)は、別にクイズのために仕入れた知識ではない。わが家にある300冊以上にも及ぶ日本史関係の蔵書を子供の頃から読みふけっていた結果としてどこかの本から得たもので、クイズ以外で得た知識が結果的にクイズに役立ったというもの。言ってみれば「クイズプレイヤーRyuとしてでなく、1個人の山本剛が得た知識がモノを言った」って形。こういうことがあるからクイズってやめられないのよ。
 続く「『カントリー・ロード』に登場する州→ウエストヴァージニア州」を尋ねる問題(だって歌詞にまんま出てるやん)も、勢いに任せて押したものの、今度は秋田にわずかに及ばなかった。借りを返される格好となった。でも、きっちりボード正解で11点目。この問題で秋田が15点に到達し、赤紙も使わずに決勝進出を確定。堂々の勝負内容だった。「待ってますよ」と言って秋田が差し出した手を「待っとき」と一言返して握り返す。
 終盤戦に入ってきた。藤井が「ヘロン」を赤紙単独正解し、得点で自分を上回る。その後ともにボード正解1問を加え、残り2問の時点で藤井14点、自分12点。一見2人が抜き出ているように見えるけど、3位の自分は安閑とはしていられない。3位ってことは、他の誰かの赤紙単独正解で簡単にカットラインの外に弾き飛ばされてしまうのである。事実、次のラス前の問題で、遠藤が赤紙で勝負をかけてきた。やられたか…そう思って正解発表を待ったが、遠藤の答は誤答。命拾いした。でも、最後の最後まで気は抜けない。ラストの問題。長ーい前フリから、どこかヨーロッパの都市のことを尋ねているようだった。誰も押さないでくれ、そう祈りながら続きを聞く。「…ドイツの都市で、刃物の生/産…」よっしゃ、自分のランプがついた。これで早押し正解すれば勝ち抜けだ。そう思って、焦る気持ちを抑えてボードに「ゾーリンゲン」と筆を走らせる。正解音が鳴る。結局、藤井もボード正解し、終わってみればきっちり3人が15点に到達して決勝進出となった。
 実は、最後の問題の直前、4位の舟太の得点は8点で、自分が問題をつぶして−3点になったとしても9点で自分の勝ちとなることは分かっていた。だから、何がなんでも勝ちに行くんだったら、「誰も分からなそうな適当なところでボタン押して問題つぶす」という行為を取ることもできたのである。でも、そうはしたくなかった。なんとなく、正々堂々と戦いたかったから。甘いってことは承知してるし、次にこのような局面になったとしたらどうするかは正直言って分からない。つぶしちゃうかもしれない。でも、この日はなんとなくつぶしたくはなかった。おかげで気持ちよく勝ち抜けることができたので、よかったかなと思っている。
 さて、もう片方のセットは、予告通り運の要素が絡んだコーナー。ここで好調だった上野が、健闘空しく運に見放されて敗れてしまう。秋田と2人で「今日の上野、(対戦することになったら)恐いね」と話してた矢先の出来事だった。「これで(決勝)楽になったかな」というスケベ心もないことはなかったが、やはりここまで来たら上野も交えて決勝を戦いたかった。まあ、またいつかどこかの大会でね。

7.1人減り、2人減りする…

 いよいよ決勝。当初の目標通り、ここまで来てしまった。ペーパーの順位に従って着席するので、6人のなかでペーパー最下位の自分は向かって1番右手の席。そして、向かって1番左手の席には、秋田がいる。秋田とは約束があった。「そのうちまたどこかの大会の決勝で…」。そう誓い合っていたものの、自分のスランプや秋田の長期休養でなかなか果たせなかった。それがやっと実現した。胸がいっぱいになってきた。けど、戦いの前に感傷は禁物。自分が優勝したかったら、秋田をつぶすしかないのである。
 決勝のルールは、基本的にはサヴァイヴァルで、各セットごとに2人が残される。そして、残った2人で、6分の1の確率のロシアンルーレットを行い、風船が割れた方が失格となる。残り2人になったらまた別のルールになる、というもの。
 オモチャのロシアンルーレット用ピストルを見たとき、イヤな予感がした。このピストル、僕が大学1年生のときの早稲田の学祭で僕が入ってた企画のなかでも使う場面があったんだけど、風船を割るために飛び出す針が風船に届かないこともしばしばで、6発全部使っても風船が割れない…なんて事態が頻発した。結局、そのラウンドの結末は不透明なものになってしまって、企画としては最悪の結果になってしまった。また、クイズ部の企画でもたまに登場することがあるんだけど、そのたびにやっぱり1度や2度はハマってしまっている。…大丈夫なのかよ、おい。この予感が杞憂で済めばよかったのだけど…まさに的中してしまうのはもう少し後になってのことである。
 第1セット、1問目は鷹羽さんが「マンハッタン計画」を正解して1抜け。続く2問目、「ヘブライ語では『ベート・クネセット』と呼ばれ、その名称は『集会』を…」「集会? どうせシナゴーグだろ」とカン1発でボタンを押してみたら正解。うーん、ナイスカン。まずは第1段階クリア。秋田、木下良太と続いていき、大村と藤井がロシアンルーレットに臨むことになった。どんなに数が多くても、6発目には必ずどちらかがいなくなる…はずだった。ところが! 5発目を大村がクリアし、6発目で藤井がドカン、といくかと思いきや、風船は不発! ざわめく会場。色めきたつスタッフ。…やっぱりハマったか、心の中でつぶやく自分。風船を詰め換えるなどしてスタッフが対応に追われている。その間、大会の進行は停止してしまっているわけで…よし、ここはヴェテランの我々が間をつないでやるか。「…鷹羽さん、最近どうですか?」「…いやあ、相変わらずだねえ」。なんともいえずその場しのぎな場つなぎトークをしているうちに、新たな風船をセットしたピストルが登場。様々な紆余曲折を経て仕切り直しとなった結果、大村がいきなり1発目で風船を破裂させて最初の失格者となった 。ちょっと後味の悪さが残った。でも、そんなことよりも「次からは大丈夫だろうな?」という心配感の方が正直大きかった。
 続く第2セット、誰か科学者のことを聞いていると思われる前フリの後、「…ハーバーとともに…」という1節が耳に飛び込んできた。それなら、問題文はきっと「…アンモニアの合成法にその名を残す」と続き、「ハーバー・ボッシュ法」の「ボッシュ」が答になるはず。勢い勇んでボタンを押してみたら、またも正解で、今度は1抜け。いやあ、なんか知らないけど、今日は調子いいねえ。それとも、カンが冴えてるだけなのかなあ。鷹羽さん、木下と続き、今度は秋田と藤井がロシアンルーレットに臨むことになった。こんなところで負けるなよ、秋田にそう念力を送りつつ、ロシアンルーレットの行方に注目する。が! またも6発使いきっても風船は割れない! あまつさえ、7発目、8発目…と続けられていき、10発目に至っても、一向に風船が割れる気配はない。会場はますますざわめき、スタッフの顔には焦りの表情が濃くなってきている。この時点で、ロシアンルーレットは諦めて通常のサヴァイヴァルに切り替えるべきだったかもしれない。またしても風船の詰め換えのためにスタッフが総掛かりになっている間、進行はストップ。今度の中断は、前回のそれよりも長い。それじゃ、また うちらの出番か。「…鷹羽さん、『くびれが欲しい』って思ったことありませんか?」「…言っちゃお」。ごくごく局地的にウケを取りつつ、秋田vs藤井のルーレット対決はまたも仕切り直しとなった。ここで、会場がひきそうになるのを食い止めようと思ったのか、はたまた自分自身のロシアンルーレットへの不安感を打ち消すためだったのか、秋田も藤井もエンターテイナーに徹してロシアンルーレットの引き金をひいていた。自分のわきの下に向けて引いたり、尻に向けて引いたり、はたまたスタッフに向けて引いたり(←これはキケンなので絶対真似しないように…)。この2人の機転(?)で、ひきかけていた会場は再び盛り上がりを見せてきた。そして、仕切り直し後の3発目、ホントにあっけなく、秋田の引いた引き金が風船を割った。これで秋田が消えることになった。割り切れなかった。でも、1番割り切れなかったのは当の秋田だったことだろう。もっとも、会場に戻ろうとする当人を見ると、案外サバサバしている様子だった。始まる前の秋田は「今日は決勝が1つの目標ですよ」なんて言ってたから、ある種「目標を達成できた」という点では満足のいく勝負だったのかもしれない。でも 、これでサシの勝負はまたお預けとなってしまった。自分が一線を退く日が来るその前に、どこかの大会で必ず…。
 長いこと待たされて、やっと第3セットとなった。残るは4人。ここから2ポイント勝ち抜けにルールが変わる。このセットの1問目(通算9問目)、「…デニス=ホッパー監督・主演の映画『イージー・ライダー』の主題歌となったことでも知られるステッペン・ウルフの…」こんだけキーワードいっぱい出てきて、なんでもっと早く思い出せなかったんだろう…。「ステッペン・ウルフ」という確定限定を聞いて、ようやく『Born To Be Wild』をひねり出し、まずは1ポイント。が、その後が続かない。「バターン半島」「カテナチオ」なんかも、どちらも「多分そうだろうなあ…」とは思っていたものの、今1つ踏み込む気になれずに待っているうちに他の人に持っていかれてしまう。イヤな展開になってきた。6問目(通算14問目)、木下が「レモングラス」で1抜けを果たす。残りシートはあと1つ。勝負にいくしかない。続く7問目(通算15問目)、「13世紀初頭にはミンネジンガーの中心地であり、ルターが新約聖書/を…」カン1発勝負。「ウィッテンベルク!」。しかし、聞こえたのは誤答ブザー。問題の続きが読まれる。「…J.S.バッハの生誕地として知られる都市…」「ああ、アイゼナハ…」。がっくし。これで1問休み。鷹羽さんも藤井も1ポイントだけに、次の問題でどちらかが抜けてしまう可能性は極めて高い。大ピンチ。果たして、続く「大下弘」は藤井が正解。これで、さっきまで冗談言い合ってた鷹羽さんとロシアンルーレット対決をすることになってしまった。ペーパー上位の鷹羽さんが先攻。1発目、風船は割れない。ロシアンルーレットが自分の元に手渡される。無造作に引き金を引く。割れない。 再び鷹羽さん。やっぱり割れない。これで3分の1。ちょっとイヤな予感がしてきた。でも、かまわず引き金を引く。また割れない。ホッとした。鷹羽さんにロシアンルーレットを渡す。頼む、割れてくれ…。鷹羽さんには大変申し訳ないけど、心の中でそう祈っていた。が、やっぱり割れない。負けか…。いや、待てよ。また「6発全部引いても割れない」ってヤツかもしれないぞ。心の片隅でそう思い直し、わずかな望みを託して引き金を引く。…やっぱり風船は割れなかった。さらにホッとした。でも、ここまでロシアンルーレットがハマるってのはちょっと問題ありだよなあ。まあ、このセットでは逆にハマったのに助けられた形になったけど…。今日何度目かになる「新たな風船がセットされて仕切り直し」となった。MCから「風船を机に押しつけて引き金引くようにしてください」と指示が出る。いや、そういう問題ちゃうと思うんだけど…。1発目、鷹羽さんクリア。2発目、Ryuクリア。そして、3発目、鷹羽さんが引き金を引くと…激しい音とともに(自分にはそう思えた)風船が割れた。いやあ、ホントに、強運、分かりません。とにかく、自分はまだ生きている。去りゆく鷹羽さんに右 手で「すんません」とジェスチャーで示して見送る。残り3人。倒すべき相手はあと2人。
 第4セット、1問目(通算17問目)、「わし座とはくちょう座の間にあり、全体にYの字型をしている、夏の宵頃に見られる星座で、伝説では、プロメテウスが作った、ヘラクレスが使ったともキューピット/の…」おーおー、そういうふうに続くのね。解答権を取ることができた、ラッキー。答える「や座」。正解音が響く。これであと1つ。続く「松鶴屋千とせ」を木下が正解した3問目(通算19問目)、「あらゆる学生が集まる学園を意味する『スタジアム・ゼネラーデ』とも呼ばれていたといわれる、1158年、/…」よっしゃ、予想通りの落ち方したぞ、それにしても、今日はカンが冴え冴えだなあ、そんなことを考えながら、答える「ボローニャ大学」。正解音が鳴り響く。ガッツポーズ一閃。とりあえず、これでファイナルステージに進出決定。悪くても準優勝ってことになった。でも、今日の調子と勢いだったら…ここにきて妙にイロケが出始めてきた。まったく、始まる前の謙虚な心境はどこへやら。藤井vs木下の慶応同士のロシアンルーレット・バトルは、4発目で木下爆発で失格。これでファイナルステージの対戦相手は藤井に決定。
 この対戦カードに場内はざわめきたつ。まあ、無理もないか。ともあれ、僕としては、あらゆる雑念を捨てて、平常心で戦わないと。心を乱したら負け。自分の全てを信じて…。

8.運命の炎の中で

 ファイナルステージのルールは、各セット2ポイント先取で相手がロシアンルーレットにチャレンジとなる。ただし、1回目は1発、2回目は2発…と引き金を引く回数が増えていき、6回目は自動的に負けとなる。また、誤答は問題を読み切って相手にふり、正解すればポイントが入る…というもの。まあ、どんなに運がなくても、6セット取りゃー優勝ってことだよなあ…不遜にも、そんなこと考えていた。このときの自分は、いい悪いはともかくとして、とても勢いに乗れていたのである。
 通算20問目、「1939年にアーカンーソー大学学長となるが、州知事と不仲となったため辞任したというアメリカの政治家で、1959年以来上院外交委員会とベトナム戦争を批判したことや、/…」押してしまった…。またカンプレーで言ってみるか「…キッシンジャー」。誤答ブザー。まあ、そうそういつもいつもカンが当たるとは限らないし、ね。しかも、問題文が読み切られると「…世界各国との交換留学制度を規定した法案を立案…」なんて続きがありやがる。藤井もこれで難なく「フルブライト」を正解して1ポイント。いけないいけない。続く21問目は「とひもんどう」「しんがく」って聞こえてきたのを「都鄙問答」「心学」と漢字変換できなくて、みすみす得意ジャンルであるはずの「石田梅岩」をスルーにしてしまう。すかさず、「このセットは藤井にくれてやるか」と捨てゲームにすることに決める。別にやる気なくなったわけじゃなくて、どうせ勝負は長丁場になるだろうから、長いスパンで考えたときに、このスルーをいつまでも引きずるよりも、ここでロシアンルーレットをクリアして、気持ち切り替えて続きの勝負に臨みたかったのである。果たして、22問目の「ベ平連」は藤井が正 解。まず、1/6のロシアンルーレットにチャレンジすることになった。しかし、気分はお気楽極楽。「割れるわけないじゃん」とばかりに、あっという間に引き金を引いてみせる。やっぱり風船は割れない。ほれ見ろ。これで勝負はまた振り出し。
 第2セット、通算23問目がスルーになった後、「青木まゆみ」を正解してまず1ポイント。藤井がすかさず返してタイとなったが、25問目に藤井が誤答。この「ドクニンジン(どんな問題だったかは忘れたけど、おおかた確定限定は「ソクラテス」だったに違いない)」を正解して、セット数1−1で並ぶ。まあ、藤井も1発で割れることないよなと気楽に見ていたら、案の定。勝負はまだまだ続いていく。
 第3セット、藤井に「種田山頭火」を先制されたものの、続く29問目、太平洋戦争で戦場となったアリューシャン列島の島を尋ねる問題で、まだ絞り込まれていない2択の段階で藤井が押して「アッツ島」と答えたものの誤答。「…じゃあ、キスカ島」。ラッキー、タナボタもらった形になった。相手のミスでタイに持ち込んで気分をよくしたか、30問目にボタン競争の末「アンドレ=マルロー」を正解。セットカウントは2−1。藤井のロシアンルーレットの様子を眺める…まだ割れない。勝負続行。
 第4セット、31問目、「睾丸を蹴ること、指を目の中に突っ込むこと、/…」よっしゃ、ここに来て速攻系の問題が来た。答える「パンクラチオン」。正解。続く32問目、「中学にも大学にも8年間在籍し、東大国文科を卒業したときには32歳だった、本名を『清一郎』という昭和初期の俳人で、東京・青山にある母校の『青南小学校』を訪れた際に詠んだ…」この学校名は聞いたことあるぞ、でもなんで答出てこないんだろう、秋田が対戦相手だったらもう解答権取られてるよなあ、そんなことを考えていると、「…『降る雪/や…」なーんだ。「中村草田男」を正解。これで3セット目獲得となった。ここにきて一気に3連取。流れは完全に自分の元に来ている。そろそろロシアンルーレット割れてもいい頃かもしれない。祈るような気持ちで藤井の手元を見つめる。1発、2発、そして3発…音沙汰なし。さらに勝負は続くよ、どこまでも。
 第5セット、33問目をいきなり誤答してしまう。いけないいけない、ちょっと調子に乗りすぎたらしい。藤井がこの「モンテアルバン」を正解できずにスルー扱いになったのはラッキー。しかし、34問目の「高原須美子」、さらに36問目の「今井翼」と立て続けに藤井に持っていかれてしまう。「ジャニーズJr.」なんて知らねーっつーの。まあ、全く知らない問題でセット失った方が、後に精神的ダメージ残さなくていいや。これでセット数は2−3。まだまだ大丈夫だろうなあ、とまたも無造作にポンポン引き金を引く。セーフ。まだ自分の方がちょっとだけ精神的に優位に立てているはず。
 第6セット。37問目の「デボン県(どんな問題だったっけ? 「デボン紀」のデボン?)」は藤井が正解。しかし、続く38問目、「かえでにおおわれた山門からの石段が美しい、京都市左京区にある寺で、『平清盛』の娘/である…」自分としてはこれ以上待てないというギリギリの部分まで押すのを引っ張った末に解答権を取った。「寂光院」。これでイーブン。さらに、「…ドラゴンクエストにも登場する巨人…」という問題で「ゴーレム」を正解。4セット目獲得。ぼちぼち決着つくかな…。1発目、割れない。2発目、また割れない。3発目、まだ割れない。4発目…結局割れなかった。会場からも歓声。おいおい、また調子悪いんじゃないのか? ちょっと疑念を抱いたりしたものの、すぐに気持ちを切り替えて次のセットに臨むことにした。なんといっても、風は自分に吹いている。
 第7セット、40問目、日本の俳優を尋ねる問題。ピンとこなかったので引っ張ってみたところ、「…『太陽にほえろ』の山村刑事」と聞こえてきたので、慌ててボタンを押す。藤井も同時に押してたみたいだったけど、間一髪かわすことができたみたいで、自分のランプがついた。ラッキー。「露口茂」を正解。しかし、ここからは3問連続でスルー。なかでも「…NHK朝の連続テレビドラマ『天うらら』の主演女優」が記憶障害で思い出せなかったのは痛かった。そんな時間には家にいねーっつーの。藤井も条件一緒だと思うけど(正解は「須藤理沙」。思い出せなかった最大の理由は、自分のタイプではなかったことだろう)。44問目、「国鉄の初代総裁で…」藤井が押したが誤答。これって「下山事件」の人だよなあ。下の名前思い出せるかなあ。自分に向かって問題の続きが読まれる。案の定、確定限定は「…昭和24年7月6日、常磐線の線路上で轢死体となって発見…」。イマイチ自信ないけど言ってみるか。「下山定則」。正解音が響く。これで実に5セット目獲得となった。藤井がロシアンルーレットにチャレンジする回数は5回。いくらなんでも、これで決まりだろう。相手の誤答で優勝す るのはちょっと気が引けるけど、これも勝負。冷静に藤井を見つめるフリしながら、風船割れた瞬間どんなガッツポーズとってやろうかなんてことばかり考えていた(実話。恥ずかしながら)。しかし…4発、5発と続いても、藤井のロシアンルーレットが風船を割ることはなかった。ちょっとブルー入った。おいおい、カンベンしてくれよ…。大丈夫なのかよ、そのルーレット。でも、あと1つセット取れば自動的に優勝だし、こうなったら誰の目にも納得のいくような形で決めてやる、決意を新たに次のセットに臨むことにした(こんな文章ばっかり。でも、実際ホントにそう思ってたんだから仕方がない)。
 第8セット、45問目、全くピンとこないポイントで藤井に押されて「茗荷谷」を正解される。後にこの問題を落としたことをさる人物にツッコまれることになろうことなど、真剣勝負をしていたこの時点では想像に及ぶべくもない。続く46問目も藤井が速攻を見せて「荻村伊智朗」を取られる。ここに来て藤井が急に調子を出してきたようで、自分的にはちょっとイヤな雰囲気だった。これで藤井がセット獲得となり、自分がロシアンルーレットを引くことになった。回数は3回。まあ、大丈夫だろう。藤井が5回引いても割れなかったモノだぜ。多分また調子悪くなってるんだよ、そう思いながら引き金を引くと…パーン! えっ? あまりにもあっけなく、風船は割れた。そう、割れてしまったのである。
 これにて勝負は終了。もちろん、自分の負けである。どんなに押していたとしても、どんなに優勝に近いところにいたとしても、ルールはルール、負けは負け、なのである。とにかく、決着がついてしまった以上、もうステージ上に留まっている必要はない。国際連盟を脱退するときの松岡洋右のように堂々退場。ステージ上では藤井がインタビュー受けているみたいだったけど、今の自分にはそんなことはもはや関係なかった。別に怒ってはいなかったけど、勝てる勝負を落としてしまった悔しさで胸の中がいっぱいだったのは事実だった。
 結果としては最終的には準優勝。昨年(1997年)11月の第2回「都立オープン」以来、通算4回目の準優勝となる。「シルバー・コレクター」としての面目躍如といったところであろうか。土壇場で勝負弱いのだろうか。
 自分の席に戻ると、いろいろな人たちが口々に慰めの言葉をかけてくれた。なかでも、特に深澤は「ヘンじゃないですか?」と、例のロシアンルーレットの件でこちらに同情の念を示してくれていた。まあ、何を言っても言い訳に取られちゃうから…。気持ちはありがたかったけど、何も言えなかった。そんななかで、一言「…いい勝負でしたよ」と言ってくれた秋田の言葉が、なぜか妙に胸に心地よかった。

9.大会を振り返って

 結論から言えば、大会は大成功だったと思う。途中で帰る人もあまり多くなかったし、見ている人は最後まで勝負の行方に注目しているようだったし。これは、時期的なものを考慮してあえて問題の難易度を一定レヴェルで抑えたスタッフの判断が正解だったということだろう。おかげで、進行もテンポよく進み、それぞれの勝負が緊迫感あふれる大接戦になっていった。「難問でなければいい大会にはならない」という誤謬を打ち崩してくれたという意味でも意義ある大会だったと思う。
 しかし、この大会が当たったからといって、全ての大会が難問を放棄した短距離系の大会になっていくのは、個人的にはどうかと思う。難問系は難問系、短距離系は短距離系、それぞれに違った面白さがあるはずである。それぞれが共存していってこそ、真のクイズではないのだろうか。今年になって、これまでの急速な難問化の反動からか「難問批判」がかびすましくなってきているが、「それってちょっとちゃうよなあ」と自分は思う。お互いの醍醐味は認め合っていかないと…。
 イージオスの有志は、秋に難問系のオープンを開催したい意向だという。ぜひ開催してほしい。単なる難問系大会ではなく、いろいろな面で参加者を楽しませることができるようないい大会を待っているので、頑張ってほしい。
 大会の運営面については、唯一の問題点は、例の「ロシアンルーレット」くらいだろう。スタッフがいつまでもこれにこだわった真意は定かではないが、それぞれの勝負の決着がついたときの不透明感はぬぐえなかった。それまでいい感じで進行が続いてきていただけに、大会全体に1点傷をつけてしまったと言えるだろう。自分が当事者であるのであまりここで言うとヘンに誤解されてしまいそうだけど、ちょっと残念だった。
 しかし、重ねて言うけど、大会は大成功だったと思う。この日会場に来ていた人間の多くも、きっとそう思っていると思う。

10.そして、カーテンコールへ…

 コンパには出るつもりだったけど、諸事情でちょっと遅れて行くことになった。準優勝した以上は出ないとまずいだろうし、なにより「スネて帰った」と思われるのがシャクだった。でも、まあ「戦いすんでノーサイド」、勝負が終わった以上は、クイズ屋の仮面を脱いでみんなと話をしたかった。
 開始時間から1時間弱遅れて新宿のコンパ会場に到着。居酒屋は満杯だった。大会参加者も通常のオープンより多かったけど、コンパに残った人も間違いなく多かった。それだけ、今回の大会は面白かったと思ってる人が多い、ってことだろう。満杯なのはいいけど、空いてる席がない。仕方ないので、会場となっていたスペースの入口のところに置いてあったビールケースに腰掛けて、1人ちびちびと飲んでいた。料理がないのにはまいった。腹へってたし。まあ、遅れてきた自分が悪いから仕方ないけど。野沢が気を遣って飲み物やら料理やら運んできてくれた。とてもありがたかった。ちょっとして、司会をやってた松本くんと柚木くんがやってきて、ロシアンルーレットがハマった件や席がない件をしきりに詫びていた。いや、席がないのは遅れてきた自分のせいだし…。そんなわけで、しばらく彼らと話をしていた。そうこうしているうちに席が空いたらしいので、会場のなかへ。沢登と第2回「FNSグランドチャンピオン大会」などの昔話で盛り上がる。楽しかった。特に谷口麻衣子ネタ。
 しばらくして、時間となり閉会。酔っていたとおぼしき若者たちは居酒屋のあるビルの1階で大騒ぎを繰り広げていたが、酔うほど飲んでいなかった僕はけっこうクールに彼らを観察していた。秋田や早稲田の若い衆とともに新宿駅に向かう途中、知る人ぞ知る「ルモンド」こと水野健から秋田と2人で問題集をもらう。タイトルはそのものズバリ『ルモンド』。「このタイトルはですね…」と待木が秋田にタイトルの由来を説明しようとすると、「いや、おおむね知ってる」と秋田。それを聞いたルモは「誰がバラした!?」と怒ってたけど…問題集の表紙に福○の地図載せといてよく怒るよなあ(←こんなこと書いてしまってよかったのだろうか…)。かくして、道々大騒ぎで駅まで向かったものの、新宿から山手線に乗ると1人となった。大騒ぎから一転して1人のギャップが妙にさびしかった。

11.エピローグ

 1人になってから、沼田からもらったばかりの手紙のなかにあったある文面が、しきりと頭を浮かんで離れなかった。
 「『ジギタリス』、おめでとうございます。念願の初優勝ですね。でも、2勝目までが長いんですよ、本当に」。
 事実、昨年あれだけの強さを誇った沼田も、結局「Ryu杯」の後は2度と勝てなかった。
 自分がオープン2勝目をあげるのはいつの日になるのだろうか。
 もう永久に来ないのかもしれない。
 もしかしたら、準優勝でさえ、今日が最後になるかもしれない。
 多くのヴェテランたちが通ってきた道、「引き際を考える」というやつが、遅かれ早かれ自分のもとにもやって来るはずである。
 思い出すのは、「ボロボロになるまでやるというやり方もあるんでしょうが、自分としては力があるうちに退く方を選びたい」との一言を残して、今年2月いっぱいでステッキを置いた、わが敬愛する田原成貴元騎手(現・調教師)の姿。
 自分は、どちらの生き方を選ぶのだろうか。
 成貴さんみたいにかっこいいスタイルは、やっぱり自分には似合わない。
 やっぱり、走れるうちは走り続けたい。
 それこそ、ボロボロになって、もう立ち上がることもできなくなるまで。
 いつ来るか分からない2勝目が自分の元にやって来る、その日を目指して。 

(第6回「明大オープン」完)

 

 

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