アマガエルの子はアマガエル


 東京へ出てきてから、母の趣味を初めて意識しました。母は刺繍やお琴なども嗜みますが、もっと身近な趣味というか癖があります。新聞の切り抜きをするのです。母は幼い頃から読書家だったそうで、今でも活字への好奇心・アンテナは感心するものがあります。しかし、車の免許を持っていないため、図書館や書店へ足繁く通うことはできません。そのせいもあってか、家にいながら読め、そして毎朝確実に届けられる活字群……そう「新聞」を隅から隅まで読むのです。その中で気に入った記事や、ためになる情報をはさみで切っておくのが、母の家事諸々以外の日課です。

 僕が岐阜(実家)にいた頃、母によく「新聞をよく読みなさい。スポーツやテレビ番組欄だけじゃなく、全てのページを」と言われていました。僕の家では一時期、朝刊を2紙とっていたことがあります。ある意味、条件には恵まれていたわけです。でも、条件が整いすぎていると、「いつでも読めるから……」という気持ちになって、結局、全ての記事をよむということなどありませんでした。宝の持ち腐れですね。

 上京してから、新聞をよく読むようになりました。新聞代もばかにはなりません。「元をとらなくちゃ」というケチ意識も手伝ってか、知らず知らずのうちに新聞を隅から隅まで読むようになりました。そして、いつの間にか、僕もハサミを手にしていたのです。新聞の切り抜きが、僕にとっても日課になりました。やはり親子ですね。カエルの子はカエルです。特に6月は、雨も多いせいか新聞を読む時間も増えます。そんなときは、アマガエルの子はアマガエルになっているのかもしれません。

 情報というものは自分が求めればいくらでも存在しています。そして、それを活かすのは自分しだいだと、新聞の切り抜き1枚1枚が、声を出さないまま、教えてくれているような気がします。

1999.6.26