インターネットがテレビにつながるとき

テレビがインターネットにつながるとき、使えるのに捨ててしまうライフスタイルが常識になるのだろうか。

アメリカではWebTVとか言ってテレビ電波にWeb情報を乗せて送るサービスが始まっています。ユーザーはテレビ画面に出た宣伝をクリックして(テレビではどうやるんだろ)、電話回線からホームページをダウンロードして画面に表示したり、画面に出た会社のアドレスにメールを送ることもできる。こいつはクールだぜ、と思うのもいいが、最近の日経エレクトロニクス(10/6号)を読んでいると、実はこうした家電製品へのインターネット接続指向の影には、頭打ちになりかけているパソコン業界の思惑が絡んでいるのではと思えてくる。パソコン業界は、2年前に、本当はハードウエアを買い替えないとまともに動かなかったWindows95のおかげでパソコンや周辺機器が売れて以来、あまりヒットがない。パソコン雑誌にクロック周波数競争を煽ってもらい、インターネット系の雑誌には、これからは誰でもインターネット対応たぜ、と実体のない(ほんとに役に立つの?)宣伝をしてもらっているのですが、ユーザーはなかなかパソコンを買い替えてくれない。しかも、少し先を進んでいるアメリカでは、1000ドル以下のパソコンが一番売れている状態。それも、1台目に高いパソコンを買った人が、2台目には安いパソコンを買うのだそうだ。これでは、メーカーは利益が上がりそうもないのだな。

そこで、最近表に出てきたのが、WebTVだとか、SOHO(Small Office/Home Office)などの、家庭にまでネットワークを引き込もうという宣伝です。仮に、これに成功すると、家庭でテレビを見ながらWebを見て、さらに電子メールなんかも使い始めてくれる。でも、良く考えると、今みなさんが見ているWebの画面をテレビで見ていたとしたら、多分、すぐに家族の誰かが野球中継が見たいだの、アニメが始まるからどいてなどと言い出すでしょう。大型テレビで分割画面にしますか?でも、テレビ放送は分割されない画面を想定して放送しているのだから、分割画面でホームページなんか見られたらじゃまくさいでしょう。つまり、必ずWebTVは家庭に複数台入るのです。それに、電子メールを子供まで使うようになると、なおさら、家族にメールを見られたくないから自分にも一台欲しいと言いだす。気がついたら、各部屋に一台ずつWebTVが置かれ、これらは屋内回線でホームサーバーに接続されることになる。

多分、WebTV対応テレビも最初は安いアダプターだけでOKよという宣伝でユーザーを増やすでしょうね。でもって半年もすると、こっちのテレビは画面を直接触ってホームページを操作できますだの、こっちは映画をMPEG圧縮してハードディスクや光ディスクに保存できますだのと宣伝し始めるのだな。テレビ局はテレビ局で、新しい機種の機能を使って、深夜の時間帯に映画をデジタルでダウンロードするサービスを始めたりする。さらには、マイクロソフトなんかが、どんどん新しい技術を発表してくるので、それに対応したハードがつぎつぎに売りだされる。この結果、今のテレビは5年以上使えるかも知れないが、Webに対応したテレビは2年で買い替えるようになるのです。クールなWebを見るに、最新のハードやソフトが必要なのは今のパソコンと同じだからね。だから、2年毎に買い替えなくちゃいけない。それも、家族の人数分と...そうそう、トイレにもあったっけな。

「おーい、風呂沸いたかぁ...。」声の返事は返ってこないが、WebTVに着信メールのサインが。なになに、「もう沸いているから、お先にどうぞ(^^)」だって。こいつのカーボンコピーが、二階の子供にまで配信されていたりする。しまいには、各自がPHS付きの端末を持っていて、食卓を囲んでチャットで会話していたりして..。こいつがサイバーに豊かなライフスタイルなんだろか。どうも、こうした未来像がうさん臭く感じてしまうのは、ネットワークを家庭に入れる図式には、面白そうな小道具は多いんだけど、本当に生活が豊かになるんですっていうビジョンが無いからだと思いますね。たしかに、いままで壊れるまで使っていた家電製品が、壊れる前に捨てられてしまうから、メーカーとしては利益が上がってばんざいでしょう。でも、おじさんの消費者としては納得がいかない。壊れる前に捨ててしまうのはパソコンと車だけにして欲しい。もし、一年で捨てて欲しいものを売るなら、一年で壊れてしまうようなものを、安い値段で売ったらどうだろう。でも、それでは儲からないんですね。少しでも高くして、壊れる前に価値を無くすのが売る方の論理ですから。かくして、21世紀は炭酸ガスがめでたく削減されたとしても、同時に財布の中まで削減される状況になるのだな。

1997.10.23
WebTVは1997年12月から日本でもサービス開始 1997.11.11
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