あなたは本物、それとも偽物

インターネットでWebだけ見ている分には、本人を証明する必要はあまりない。しかし、たとえば掲示板システムを使っていると、ふとそこにある文章が本人が書いたものか偽物が書いたものか疑問に感じる瞬間がある。ましてや、インターネットを通して買い物をしたり、有料サービスを利用するようになると、これはもっとシリアスな問題になる。

昔から使われてきたインターネット上の掲示板システムに、ネットニュースというのがある。ニュースと言っても、これはパソコン通信のフォーラムのように参加者が自由に自分の疑問や見解を書くところだ。例えば、あなたのパソコンが度々ハングアップして困っているときに、そのOSに関連したニュースグループに質問を書き込む。すると、以前に同じ問題を解決した人がいれば、有益な解答が返ってくるかも知れない。こうした掲示板の上の文書には、投稿者や文書そのものを特定するために、投稿元のドメイン名が付いた文書番号と、投稿者の電子メールアドレスが自動的に添付される。しかし、文書番号は投稿ソフトの設定でごまかせるし、電子メールアドレスも投稿者がソフトに設定するわけだから、悪意のある投稿者にとってはなんの意味も持たない。ただし、投稿した文書の転送経路とニュースサーバー名は分かる。これは投稿したあとで付け加えられる情報なので信頼できるだろう。でも、発信元が不特定多数の人が使っているプロバイダーのニュースサーバーだったりすると、もはやそれ以上の追及は困難になる。つまり、自分の名前を騙った偽物の文書に腹を立てても、それを書き込んだ者が誰なのかを知ることはとても難しい。多くの場合は、名前を使われてしまった人の泣き寝入りになる。

最近は個人や法人のWebページに掲示板を作る場合も多い。この場合、投稿文書はhttpでサーバーに送られてくるが、そのデータからは接続者が使用しているIPアドレスとドメイン名を知ることができる。もし、全ての人がいつも同一のIPアドレスを使っていれば、これで投稿者を特定できるが、ユーザーがダイヤルアップ接続をしている場合は接続する度にIPアドレスが変わるかも知れないし、企業のLANから投稿された場合にはファイヤウォールのIPアドレスしか見えない。とはいえ、書き込みをする複数の人が同じIPアドレスを使うことはまれなので、そのハンドル名を使った人物が、いつも書いている人なのか、あるいは名を騙った別人なのかの判断は可能である。だから、ここのメッセージボードも、画面上に表示はしていないが、文書毎に書いた人が使ったIPアドレスとドメイン名が記録されている。これをボード上に表示してもよいが、これも書き込む人のプライバシーの一部とも言えるので止めている。自分の個人データのどこまでを公表してよいかの判断は、個人の認識によって異なるからね。

さらに、ビジネスにからむような文書をやり取りする場合には、お金さえ払えば、もっと確実に個人の認証をすることも可能である。例えば、電子署名のシステムがそれだ。これをするには、例えばベリサインといった認証会社に9.95ドル払って、一年間有効のデジタルIDをもらう。認証会社からもらった個人キーで文書を変換して送ると、相手は送った人の個人キーと対になった公開キーを使ってその文書を復元する。二つの鍵が正しければ、文書は復元できる。文書が長い場合は、一部を変換しておいて、復元後に変換していない文書との比較をすれば、途中で改変されたかどうかのチェックが出きる。ここで必要な公開鍵の方は、認証会社で検索して誰でも知ることができる。同様の方法で、ソフトメーカーがWebサイトにある配付用のデータを確かに自分のデータであると保証したり、インターネットからものを買うときに本人が買ったことを保証したりする使いかたもできる。

ただし、このシステムは個人キーが正しく保管されていることが前提となっている。ブラウザにインストールされた個人キーを、フロッピーディスクに移すことは可能だから、普通のキーと同様に盗まれることはありうる。そもそも、職場で使っているパソコンなどは、誰でも使おうと思えば使えるから、大事な印鑑を机の上に投げ出しているようなものだ。自分のパソコンに鍵でも掛けようか。家のパソコンだって危ない。ハイテクな泥棒は押し入るとすぐにパソコンの電源を入れる。おもむろにWebブラウザを起動して、個人キーをフロッピーにコピー。あとは、自分の家のWebブラウザにインストールすれば、デジタルキャッシュを使い放題使って、インターネットでお買いもの。まったく、証拠が残らないから、個人キーを盗まれた被害者は、覚えのない購入記録が何ページも書かれたクレジットカードの請求書が届くまで気がつかない。うーん、デジタルIDを使ったインターネットショッピングは本当に安全で便利なんだろうか。その前に、でかくて重い電子財布と化したパソコンに、UNIX並のセキュリティを持ったOSが必要ではないか。あっ、マイクロソフトによれば数年後にはWindows NTがWindows 98に変わって、パソコンのOSの標準になるそうだから、放って置いてもそうなるね。

1997.11.14
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