ZDnetに、「ネット社会は危険」という題でアメリカの大学の調査報告を紹介した記事が載っています。これによると、インターネットにはまった人は、反社会的ライフスタイルになる傾向があるそうなのです。これは、意外と日本でも問題になるかも知れません。 この記事の趣旨は、ネットワークで喧嘩を売ったり、ポルノ画像を売ったりするような反社会的行為を言っているのではなくて、社会へのつながりが弱くなることによって、結果的にライフスタイルが反社会的になっていくといことを警告しているのです。この調査は、企業などの協力の元に、カーネギー・メロン大学が、2年間にわたってインターネット利用者の行動を調べてまとめたものです。調査対象は、ピッツバーグ近郊の8つの地域に住む93家族256人で、1995年か1996年の3月からインターネットを使い始めています。最終的に追跡調査ができたのは、その内の169人でした。家族のうちの10才以下の子供とインターネットに興味の無い人ははずしているとのこと。その結果報告は、英文ですが、このリンクにあります。このページは長文なので、私も最後のDiscussionの項目を飛ばし読みしただけですが、インターネットがまだまだ普及していない日本では、なかなかできない調査だと感じました。もちろん、心理学的な考察は、調査対象の生活環境や宗教感などに大きく影響されるでしょうから、必ずしも同じことが日本でも当てはまるとは言えません。でも、似たことは、マスコミが気がつかないだけであって、既に起こりつつあると思います。 この調査で指摘しているのは、インターネットの利用が社会への参加と心理的な幸福感を減らすという点です。これは、インターネットでWebを見る時間が増える分、人と会う時間が減るからでもありますが、それは、テレビの見過ぎやテレビゲームのやり過ぎでも起きることです。私が、気になるのは、この報告書が、インターネットを使うことによって、人とのつながりがオンラインになっていくというこも問題だと言っていることです。つまり、今までなら電話をかけていたのに、電子メールで済ましてしまうとか、それまで井戸端会議でつくられていた人間関係が、インターネット上のBBSでの友達づきあいに変わっていくということです。もっとポジティブに、インターネット上のニュースグループやBBSを使うことで、距離の離れた友達とも話ができるから、人間関係はもっと広がるではないかという考え方もあります。しかし、この報告書は、そうして得た人間関係は、直接にあって友達になった場合に比べて、つながりが弱いと言います。それは、そうかもしれないですね。なんて言ったって、人間関係も、百聞は一見に如かずというところがありますから。 それにしても、この調査報告の結論はインターネットを使ってる人にとっては、それ自体が憂うつの元になりそうです。なぜなら、こうしたインターネット利用者の問題は、このメディアに特有であって避けることができないと言い切っているからです。では、本当にインターネットを使っていると、孤独な人間になってしまうのでしょうか。これは、その人の年齢や仕事によって、ちょっと違うように思います。一般的なインターネット利用者が、一日の内の何時間を費やしているかという統計は知りませんが、サラリーマンであれば、インターネットをしていない時間が主であるし、仕事の上のつきあいで、いやでも直接の人間関係を持たざるを得ないと言えます。むしろ、在宅勤務の場合や自営業の人、それと主婦がインターネットにはまった場合の方が、報告書に書いてある状況になりやすいのではないでしょうか。かといって、サラリーマンも安全とは言えません。5時になったら、さっさと帰る付きあいの悪いあの人は、家に帰ると夕食もそこそこに部屋にこもってインターネット三昧。奥さんや子供との会話はほとんどない、なんていう状態もありそうですからね。インターネットの友達の方が実社会よりもいいや、なんて感じるようになったら、危険信号かも知れません。もちろん、DZnetの記事にあるように、直接の人間関係のできにくい内気な人には、インターネットはいいかもしれないという説もあります。 とはいえ。何だかんだ言っても、インターネットにアクセスすることは、実空間の人間関係とはどうしても差し引きになると思いますね。じゃ、インターネットでの人間関係を実空間並に強くするにはどうしたら良いのかといえば、まずは、文字だけでなく、声や、顔まで出すしかないでしょう。この報告書によれば、電話の方が電子メールよりも人間的つながりは強いようですから。マルチメディアの通信は、昔からインターネットの究極の世界でありますね。電子メールを開くと、ディスプレイに窓が表示されて、中で相手が用件をしゃべっているという光景。でも、これで困るのは、匿名性がなくなることです。みんな実名で、本人の顔でないとまずいことになる。俳優の顔をはめて、声も入れ換えるようなソフトは出てきそうですが、それで人間的つながりが強くなって、精神的幸福感が高くなるとは思えませんものね。しかし、インターネットの現状から言って、匿名性が保たれることによって、個人が守られているという点は事実なのです。特に、Webページのような誰が見ているか分からないところに、部屋で相手としゃべるのと同じくらい自分の情報を公開することは、ちょっと考えてしまいます。つまりは、距離というものがプライバシーを守ってくれる実空間とまったく同じことを、距離が全く無いのが特徴のインターネットでしようというのは、しょせん無理ではないでしょうか。 すると、インターネットが普及するたびに、鬱病で部屋に閉じこもり状態の人間が増えていくのでしょうか。いろいろ考えてみると、使う人がインターネットをどう考えるかで、その程度は違うように思います。つまり、その人がインターネット上の情報や、インターネットを経由した人間関係が、実空間で得た情報や、実際に対面して得られる人間関係と等価であると感じるほど、憂うつなネットワーカーになる傾向が強くなるのではないでしょうか。だから、しょせん、インターネットは現実の影でしかないと納得しないといけない。もちろん、BBSでのおしゃべりは最高であったりしますが、いつか、その参加者と飲み会をしてみると、もっと楽しいし、友情も深まるというものです。だからって、何百キロも離れた相手に、そうそうあってられませんが。そういう場合は、やはりマルチメディア電子メールですね。そのうち、立体画像で送れるようになるかも知れないし。あるいは、テレビ会議システムでチャットするとか。そうすれば、もう少し憂うつ状態になるのを防げるかも。でも、それよりも、近くの家族と話をする時間を減らさないことの方が、もっと大事ではないかとも思いますがね。
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1998.09.04 |
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