インターネットで多数決の意味

インターネットを使う人が増えたからか、Webページ上で意見を募集したり、投票をしたりするようになりました。オンラインで意見を集めるのは、集める方としては手軽で便利です。ただ、本当に客観的なデータが集まるのかと、ちょっと疑問なのです。特に、そうして集めた情報をマスコミや政府機関が一般論として報道すると、例によって一部の意見が一般の意見になってしまう危険性を感じます。

今(1999年1月)、警察庁のホームページでは、「道路交通法改正試案に関する意見の募集」というのをやっています。この改正案は、携帯電話や、カーナビゲーション、チャイルドシート(幼児用の安全ベルトつき補助椅子)の使用について、規則を設けようというものです。携帯電話やカーナビゲーションについては、散漫な運転が原因の事故を増やしているので、利用を規制しようとしています。チャイルドシートも、これをつけなかったために事故に遭った時の被害を大きくしているという問題があり、これを義務づけるとのことです。こうした、法改正について国民の意見を電子メールや、警察庁のWebページのフォームを使って集めているのです。確かに、こうした方法は、私にとってはとても便利で有効ですね。テキストエディタで暇を見て思ったことをメモしておいて、あとで、フォームか電子メールに貼り込んで送信するだけ。手紙やはがきに書いて投函するのに比べたら、格段に手軽な方法で自分の意見を送ることができます。

しかし、たとえば自分がインターネットを使ったことがない人、パソコンを使わない人、障害があってパソコンを使うことに抵抗がある人だったら、と想像すると、こうしたインターネットを使った情報収集はちょっと腹立たしく思うかもしれません。もちろん、警察庁の意見募集は郵便でも受け付けていますから、完全にインターネット以外の道を閉ざしているわけではありません。しかし、インターネットを使った投稿のほうが、格段に簡単だし、ある意味で、少ない人口でも郵便よりも多くの意見を出せると思うのです。古いデータですが、FUJITSU RESEARCH INSTITUTEのページによると、97年9月の段階で、インターネットが使える人が860万人で、Webを使う人が550万人と推定されていたそうです。このうちのすべてが、新聞を読むように毎日Webをチェックしているとは限りませんから、今でも、インターネットで意見を投稿できる人は、成人した国民のせいぜい10%程度でしょう。でも、投稿方法が手軽な分、電子メールで送られた意見の数は、郵便で投函された意見の数の10分の1よりもっと多いと思うのです。もちろん、これは私の想像ですから、本当にそうかどうかは分かりませんが。フタを開けたら、意外に郵便派の方が筆まめだったりして。

もう一つ気になるのは、インターネット利用者の性格ですね。もしも、インターネット利用者が特定の業種に偏っていたり、一般常識からずれた特有の価値観を持っていたとしたら、それを使った統計のサンプリングは正しいとは言えません。正しい統計をするには、母集合の選択に気を使うべきです。これについては、JPN Intermedia Corporationのページが参考になるかも。これによると、インターネット利用者は、年齢では20〜30台が中心で、業種は技術・専門職の会社員と学生が中心、女性はせいぜい25%くらいらしいですね。つまり、そういうフィルターがかかった人種の意見が、主に電子メールで収集されているということです。手紙だったら、全体の半分は女性かもしれないけど、電子メールだと25%しかいないとしたら、それだけでも偏った母集合ということになりませんか。もちろん、そのなかには、手紙だと面倒だけど、電子メールなら冷やかしの意見だって書いちゃう人も混じっているはず。そういう意味で、私なら、インターネットを通して投稿された意見はさらに吟味しますね。私って、インターネットを使っている割に、インターネットの住人を信用していないのかもしれないな(^_^)。

インターネットを使った意見収集や投票で問題なのが、二重投稿のチェックが難しいことですね。電子メールの場合、二重投稿かどうかのチェックは、リターンアドレスという、電子メールソフトで設定された返信アドレスが使われることが多いと思います。信頼性を高めるなら、そのアドレスに「こういうご意見ありがとうございます」というメールを送って本物のアドレスかチェックすると良いでしょう。さらに厳密にしたければ、そのメールの最後に、「この投稿をした記憶がなければ、取り消しますので、このメールをそのまま返信してください」と付け加えることもできます。しかし、この方法では、複数の電子メールアドレスをもっている人物からの、重複投稿は阻止できません。それに、ドメインを取得してメールサーバーを立ち上げれば、いくらでも電子メールアドレスがつくれますから、アドレスによる二重投稿チェックは、インターネットの仕組み上意味がないと言えます。そこまでするかと言う意見もありますが、少なくともメールの数による投票なんて、あまり意味がないですね。では、フォームによるWebページからの投稿はどうでしょう。これも、投稿したパソコンを特定することは、すべてのコンピュータがインターネットに直結されていない限りできません。直結されていれば、ネットワークアダプタのMACアドレスという番号で特定できるかもしれない。あるいは、将来的には、インテルが考案した、ID番号付きのCPUでも普及すれば、それでパソコンを特定できるでしょう。でも、複数パソコンを持っていたり、他人のパソコンで投稿するやつは見分けられないですね。

さらに、ここでも匿名性が問われます。意見を述べるのに匿名であってよいのかという考えは、当然でてきます。個人的には、匿名でも意見は意見であると思っていますが、一方で、匿名だから気持ち良く嘘がつけると言ってのける人もいるようですから、インターネットはどーしょーもない世界なのです(^_^;。そういう人が一人でもいれば、匿名だけど率直な意見を述べる人の立場がなくなってしまうのです。インターネットでも、ニュースグループ(BBS)の世界は実名であることが基本のようです。でも、あれも、そう決まっているわけではないし、逆に匿名が基本のニュースグループもあります(^_^;。ですから、危うい基盤の上に成り立っているのが、インターネットの特性のように思います。そんな中で、だったら、意見は実名でお願いします、本人かどうかは別のデータベースで照会させていただきます、なんていう意見収集が行われるようになるでしょうか。思うに、そのまえに、インターネットの守秘性を何とかしてもらわないといけないよね。途中で、モニターされてるかもしれないのに率直な意見を実名で書けるかな。

この先、自治体や国の機関がインターネットを使って意見を集めることは、どんどん一般的になるでしょう。でも、そうして集めた意見は、ちゃんと吟味して読んで欲しいですね。単なる、便利な情報収集方法だと思って使われると、ちょっと危ないような気がするんです。もっと、怖いのは、マスコミのように、インターネットで拾った極端な意見を、「インターネット利用者は」という枕詞をつけて報道すること。それは、そいつの意見であって、インターネット利用者の一般論ではないというのに。まったく、マスコミのホームページに、変な意見を書かないでよね(^_^;。

1999.01.22
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