ホームネットワークのプライバシー保護はどうなる

ここでも、たびたび取り上げているホームネットワークですが、日経エレクトロニクスの99年5月17日号を読むと、ネットワークの仕様がかなり固まってきているようです。もちろん、統一するというよりも、すでに提案されているいくつかのネットワークをゲートウェイでつなぐという形ですが。しかし、仮にこうしたネットワークがこの10年くらいで具体化したとして、家庭の電化製品がネットワークにつながるということは、ある意味でプライバシーの危機につながるのではないかという心配を感じるのですが、これは考え過ぎでしょうか。

日経エレクトロニクスによれば、すでに固まっているネットワークの仕様としては、テレビやDVDプレーヤーなどを相互につなぐHAViと、Java言語を推進しているSunが提唱しているjini、それに、マイクロソフトが中心になって勧めているUPnPの三つのようです。記事では、今年になって、これらが相互接続される見通しがたってきたので、いままでは、パソコンとインターネットの接続だけだったホームネットワークも、家電製品に広がるのではないかと言っています。こうした家電向け通信仕様は、外にもブルートゥース、CEBus、CAL、HomePNA、HomePnP、HomeRF、LonWorksとかたくさんありますが、これらについてもHAVi、Jiniとの相互接続を「オープン・サービス・ゲートウェイ」という組織で検討しています。使う側としては、いくつも仕様があると、HAVi対応のテレビとjini対応のテレビのどっちを使うか迷ってしまうことになると思うのですが、少なくともHAViと外の二つは、AV機器系とパソコン系ということでで住み分けているようですね。名前は違っても、これら通信仕様の目的は、機器をネットワークにプラグ・アンド・プレイで接続するという点で一致しています。このプラグ・アンド・プレイとは、ノートパソコンにモデムカードをつなぐと自動的に設定がされるのと同じイメージで、ネットワークに機器をつなぐと、自動的にネットワーク上の他の機器から使えるようになるというものです。

例えば、プリンターをネットワークにつなぐと、その情報がパソコンなど、同じネットワークに接続された機器に伝わって、その時から使用できるようになります。あるいは、AV機器であれば、セットトップ(モデムみたいなもの)にテレビをつなぐと、その時からセットトップとテレビの間の通信が自動設定されてテレビでWebを見られるようになったり、コードを一本つなぐだけでビデオとテレビがつながったりするようになります。ここで、テレビやビデオとつながっているセットトップが、パソコン系のネットワークにも接続できるゲートウェイの機能を持っていれば、テレビの画面をパソコン系のネットワークにつながったプリンターに出力することもできるようになります。また、DVDプレイヤーの音楽を、パソコンに録音するとか、パソコンで作ったアニメーションをビデオに録画するといったことが、手軽にできるようになるかもしれません。いずれにしても、ここで特徴的なのは、このネットワークにはサーバーは不要であって、必要に応じて接続する機器の間で勝手にデータをやり取りする点です。この機能を実現するには、ネットワークにつながった機器は、そのネットワーク内の全ての機器の情報を知る必要があります。逆に言えば、全ての機器の状態を知ることができるとも言えます。例えば、こうしたホームネットワークを構築すると、書斎のパソコンで、居間にいる家族がどのテレビ番組を見ているか知ることもできるし、お父さんが見ているビデオを子供部屋のパソコンでモニターすることも可能でしょうね。パソコンで互いの行動を監視してたりして(^_^;。さらに、この先、このネットワークには、AV機器ばかりでなく、冷蔵庫や、エアコンといった白ものと呼ばれる家電製品もつながろうとしています。

冷蔵庫やエアコンをネットワークにつなぐシステムは、四国電力がオープン・プラネットというプロジェクトで開発しています。これが何であるかは、四国電力が作成した体験デモ論文をごらんください。このシステムの基本は、電力会社が遠隔操作で家庭や事務所の電力消費をモニターするネットワークです。このネットワークには、サーバーが必要で、実際は電力メーターがこの機能を持っています。電力メーターと電力会社はPHSなどの方法でTCP/IP接続されるか、事業所ではLANのイーサネットを経由することもできます。冷蔵庫と電力メーターとの間をつなぐのには、上で出たLonWorksという技術をつかいます。これは、電力線を通した10kbpsの通信が使えるので、冷蔵庫をハブにつなぐような手間は不要です。実際には、冷蔵庫を買ってきてコンセントに接続すると、冷蔵庫から自分が何者であるかが電力線にブロードキャストされます。すると、電力メーターがそれを検出して、ネットワークから冷蔵庫を参照するための仮想マシンをソフト的に生成します。イーサネットにあるパソコンが冷蔵庫の状態を知りたい場合は、Webブラウザを起動して、電力メーター(のホームページ?)を参照します。すると、画面に仮想マシンのデータに従った冷蔵庫の庫内温度とか、設定が表示されます。仮想マシンのデータと冷蔵庫のデータは同期しているので、ブラウザのノブで冷蔵庫の温度を下げれば、本体の冷蔵庫も設定を変えます。なんで、こういうことが必要かというと、環境問題まで話が行ってしまいます。つまり、ネットワークから、電力線につながった電気機器を制御できれば、夏場の電力不足を解消するために、電力会社が利用者のエアコンの温度設定をリモートで変えるとか、企業の事業所で電力消費を簡単に操作できるようになります。ただ、これは分かるのですが、冷蔵庫やエアコンや、洗濯機までインターネットにつながるとなると、新たなプライバシー侵害が発生しないかと心配になります。

インターネットにつながったホームネットワークは、出先からお風呂を沸かすとかいう便利さとともに、誰かに外部から電気機器を操作される可能性も持っています。もちろん、オープン・プラネットの論文に書かれているように、それぞれの機器へのアクセス権を設定することは可能ですが、これがパスワードによるアクセス制限であれば、インターネットでつきることのないアカウント泥棒騒ぎと同様のことが、ホームネットワークでも起きるでしょう。でも、不法アクセスされても電気機器を盗まれるわけでもないですよね。勝手に、エアコンや冷蔵庫をいじられるのはいやですが。ただ、仮に、そこまでいかなくても、テレビで何をみているかとか、ビデオで何を見ているかといったプライバシーは確実に漏れていくでしょう。最近では、ホームネットワークにトイレの便器をつなぐ(BizTech News)ことまで検討されています。このトイレは、健康状態をチェックすることもできるし、そのデータを医療機関に送ると医者がアドバイスをしてくれるすぐれ物ではあります。しかし、プライバシーという意味では、個人の健康状態は最大のプライバシーであるわけで、こうした情報までネットワークに乗せてよいものかとおもいます。こうした危険性を理解しないで、安易にサービスを受ける傾向は一般の商品でもあるわけで、かならずしも、自分はそんなもの買わないから関係ないとは言えません。たまたま、訪問した先がこれを使っていて、自分に持病があることがばれちゃうかもしれないし。しっかり、サーバーにセーブされてたりしてね。

ホームネットワークが現実味を持つにつれて、ここでも、インターネットと同様にプライバシー保護が問題となると思います。まだ、マスコミは取り上げようとはしませんけどね。ホームネットワークの中のプライバシーが外部に漏れることは、家の中を覗かれるのと同じで気持ちのよいものではありません。しかも、下手な設定をしたら、知らないうちにホームネットワーク内の情報が、世界中に公開された状態になる可能性もあります。見方によっては、ホームページの持ち主に自分の名前がばれることよりも、危ないことかもしれませんよ。日経エレクトロニクスの記事によれば、サーバー機能がついた電力メーターは来年くらいから導入が計画されているようです。ホームネットワークでのプライバシー保護が問題になるのも、そんなに遠い未来ではないかもしれません。

1999.05.21
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