インターネットは利用者の手に戻るか

プライバシーを守れそうもない通信傍受法案が騒がれる一方で、25万円のハイテクロボット犬が10分で売り切れたり、人工知能と光通信機能付きぬいぐるみのファービーが大受けし、通信機能付きゲーム機のドリームキャストが、売れなくて値下げされる今日この頃ですが(^_^;、今回はウェブ(World Wide Web)のはなし。なんでかって言えば、今日のWWW繁栄のもとを作った、かのアンドリーセン氏が、Webに新技術は不要であると先週('99.5.26)のたまわったからです。

マーク・アンドリーセンについては、CNETの紳士録で読んでいただくとして、そう遠くない昔、インターネットイクスプローラ(IE)も、ネットスケープコミュニケータも存在しなかったころ、インターネットでWebを見るには、彼の開発したモザイク(NCSA Mosaic)というブラウザを使うのが当たり前だったのです。アンドリーセンは、その後ネットスケープ社を創業してネットスケープ・ナビゲーターを売り出し、一時はブラウザの85%までを支配しました。つまり、WWWを見るということは、ネットスケープナビゲータを使うことでもあったわけです。しかし、最近になって、マイクロソフトの(無料配付!)ブラウザのインターネット・イクスプローラ(IE)がシェアを延ばし、無料化に遅れたナビゲータはシェアを落としました。そして、ソフトメーカではない、大手ISPのアメリカ・オンライン(AOL)がネットスケープ社を買収したことと、その後、ブラウザの開発者がつぎつぎに流出したり[cnet]、従業員が多量に解雇された[wired]ことで、この先、ネットスケープがブラウザ市場で巻き返すことは無理な状況になっています。そんな中、ネットスケープ社を始めたアンドリーセンが、AOLの経営方針に沿った発言をしました[cnet]。これは、インターネット技術を先導するWebブラウザを提供するという、これまでのネットスケープとは違った方向に進むことを意味しているようです。

この記事から推測すると、彼が言ったことは、この先Webブラウザに新しい技術をつぎこむことよりも、エンドユーザーが好むシンプルなインタフェースのシリアル・キラーアプリを提供することで、ネットワークの利用者を増やすことが大事だということらしい。シリアル・キラーアプリというのは、電子メールとか、インスタントメッセージやウェブみたいな、使う人が増えるほど便利になり、それがさらに新しい利用者を増やすとような、自己増殖的なアプリケーションなんだそうな。だからなんだというところのない記事なので、あの方が何を言いたかったのか意味不明なんですが(^_^;。マイクロソフトみたいにブラウザに機能をてんこ盛りして、無限のバージョンアップを重ねるのはやめにして、もっと、ユーザーが使いやすいものにしましょうってことなんでしょうか。それとも、もう、ブラウザ開発はあきちゃったから、ユーザーが増えてAOLが繁盛するようなアプリケーションを考えたいってことかな。この記事のなかで、アンドリーセンは、ユーザーはシンプルな機能しか使わないという例で、映画のユー・ガット・メールで主人公のトム・ハンクスやメグ・ライアンはJavaアプレットなんかダウンロードしてなかったじゃないかと言ったとか。映画はともかく、ウェブの高機能化が、あまりうれしくないという感じは、私も持っています。例えば、Javaを起動していますって表示されて、ブラウザが黙っちゃうのっていらつくもんね。待たされたあげくに表示されたページが、本当にJavaを起動しなくちゃできないことをやっているのか疑問だったりするし。

Javaの話以外にも、Webを見ていると、突然プラグインをダウンロードしますかって聞かれるときもありますね。え、そのプラグインは入ってるはずなんですが。でも、バージョンがあがったからって、ダウンロードメニューにはいっちゃう。これが、高機能なブラウジングの一つの現象です。それと、例によって、まともに表示されないホームページも無くなりません。デファクトスタンダードを狙って、どんどん新しい機能を提案するもんだから、htmlタグもIEとネットスケープの二種類に別れちゃってる。しかも、次々に新しいタグを作るから、いつまでたっても、表示のおかしいホームページが無くならないのです。安定に表示するには、あまり新しい機能は使わないことっていうことになりますね。htmlを書くほうも、遊びで新機能をためすのは面白いけど、凝ったことをすると手間ばかりかかってしまう。つまり、一般庶民がホームページを書くことを考えると、先進的なhtmlの機能はあんまり関係ないのですね。また、この先XML[FXIS]みたいな、新しい記述言語なんかも入ってくると、ブラウザ作成ソフトを使わないとホームページも書けなくなるんでしょうかね。やはり、アンドリーセンが言うように、ここらで新規技術競争をやめて、エンドユーザーが簡単にメールを出せて、ワープロで文章を書くようにホームページ作れるような環境にしないと、インターネットは便利になっていかないと考えるべきかもしれない。

もっとも、ちゃんと表示しないホームページに遭遇するという問題については、ネットスケープの次世代ブラウザが、じきに解決してくれるかもしれません。これは、ゲッコーというレイアウトエンジン[hotwired]で、CSS(カスケーディング・スタイルシート)やDOM(ドキュメント・オブジェクト・モデル)といった、新しいが、まともに表示できるブラウザのないWebの機能もこなすのだそうです。とは言うものの、AOLがこれを組み込んだブラウザを配付するかどうか、それがいつになるかは分からないままですが。ちなみに、スタイルシートとは、表示画面のフォントや行間を定義する機能で、CSSは、複数のスタイルシートが組み合わされたような画面を記述できます。DOMは、ウェブページを構成する文字や図をオブジェクトとして扱い、それをjava Scriptなどのプログラムで操作するための取り決めです。Javaアプレットや、Active Xなどを使わずに動きのあるページが作れる、らしい(^_^;。実際のところ、こうした機能をちゃんと表示できるブラウザがないから、それを積極的につかったホームページも少ない。だから、どんなことができるのか、想像できないのですな。それにしても、私のブラウザで、上のhotowiredのリンクで紹介している、CSSのテストページを開いたら、めっちゃめちゃなレイアウトになってしまった。コミュニケータの4.5なんだけど。

Webをマルチメディアで、インタラクティブで、Electronic Commerce(EC)にもばっちり使える環境にします、とか言ってつぎつぎに新技術を入れ、バージョン番号を競ってきたのが、これまでのブラウザ競争でした。しかし、複雑になるブラウザの機能は、インターネット参加者が互いに情報を出すためにホームページを作成しようとすると、逆に障壁にもなります。もちろん、ここみたいにローテクなタグだってホームページが作れますけどね。ネットスケープが、本気で技術競争から降りてしまうのかどうかは知りませんが、技術はシンプルでも、インターネットの本来の機能であるワールドワイドなコミュニケーションが大事という発想は、意外と、営業ネットになりかけている今のインターネットを、一般ユーザーのコミュニケーション手段に戻すことになるかもしれません。

1999.06.04
ひとつ戻る HOME つぎに進む