ボタン1つでインターネットの意味

電気屋のパソコン売り場を散歩していたら、液晶ディスプレイに本体が組み込まれた、シャープのコンパクトパソコンがおいてありました。ほー、液晶画面も色がきれいで明るくなったもんだと感心してみていたのですが、キーボードの右端に、インターネットとかテレビとか書かれたボタンが並んでる。テレビぃ?なんじゃこりゃと押してみると、デスクトップに窓が開いてテレビがうつるではないか。これが、今風の家庭用パソコンの形なんだな。

電気屋で見かけたパソコンは、シャープのPC-PN15[SHARP]という機種です。Webにも「ホームでパソコンとは、こういうこと」と書いてあるように、家庭で使われることを前提に設計されたものです。パソコン本体がディスプレイのと一体になった省スペースパソコンは、いままでもあった形ですが、どこが家庭用なのでしょうか。その一つが、「5つの楽しさが、ワンボタンで動きだす」という、キーボードの右端にならんだボタンのようです。もちろん、ボタンを押して起動するソフトの操作性も、特製のナビゲーションソフトをつけて、親切設計をしているようです。ハードの面では、折り畳んでノートパソコンの様に持ち運べるとか、コンパクトさを表に出していて、こうしたコンセプトは、東芝のDyna Top[東芝]という機種にも見られます。コンパクトパソコンというのはこれまでもありましたが、専有面積が小さいという点が売りであって、軽さとか持ち運ぶ取っ手がついているとかいう可搬性はあまり表にでていなかったと思います。そういう意味で、キーボードの外せるノートパソコンという形は、普段はデスクトップとして使うが、邪魔になったら片づけたいという、家庭でありがちなニーズをに合う設計と言えるわけで、うまくすれば一つのパソコンの形として定着するでしょう。

シャープのパソコンにあった、ボタン一つでソフトが起動するというのは、他のメーカーも宣伝していますね。例えば、NECのVALUESTAR NXのワンタッチスタートボタン[98Information]は、自分の好きな機能を専用のソフトで設定します。これに、Webブラウザやメールソフトを設定すれば、ボタン一つでインターネット接続できるという仕組みです。電話代の節約のためには、回線を切るっていうボタンも設定しないといけないかな(^_^;。このキーボードには、電子メールの到着を知らせるLEDもついてますね。ほかにも、富士通のPliche [FMworld]のキーボードにも似たような、起動ボタンがついています。このボタンも、VALUESTARとおなじ仕組みで、任意のソフトを起動する機能を割り付けることができます。さらに、この機種には、本体に「かんたんメールボタン」なるものがついていて、これを押すと勝手に回線をつないで電子メールを読んでくれるようです。また、定期的にメールをチェックして、着信があればランプで知らせるというのもNECのパソコンと同じですね。どうやら、ボタンひとつで電子メールを読んだり、Webブラウザを起動すれば、操作が簡単で家庭向き、という発想は複数のメーカーに共通しているようです。しかし、WindowsやMac OSを始めとするグラフィカル・ユーザー・インタフェース(GUI)の意味を考えると、なんか変な感じもします。

GUIの究極の目標は、デスクトップという言葉からも分かるように、現実の机の上の世界を画面上に再現して、その仮想的なボタンやアイコンを実際のもののように操作することだと思います。例えば、デスクトップに置かれた文書ファイルのアイコンを、ワープロの窓にドラッグしていれるという操作は、ただのアイコンを仮想的なモノとして扱うことになります。スピーカーのボリュームを、パソコン本体のつまみではなく、画面に表示されたスライドバーをつまんで調節できると言うのもGUI特有の機能だったわけです。当然、メールやブラウザ起動ボタンなんてのは、簡単にデスクトップに表示できるもののはずなんですが。それを、あえてキーボードや本体の、本物のボタンで実現するっていうのは、どういう意味があるんでしょう。せっかく、OSはGUIなのに、技術の進歩に逆行している?思うに、こうした、ボタン1つでインターネットっていうのは、OSがそれだけ使いにくいっていうことを、意味しているのではなかろうか。GUIだから、操作が簡単とか言いながら、使ってみると暗黙の了解みたいなのが多くて、マニアでない家庭のユーザーが使うには、やはり難しいということではないでしょうか。例えば、Webブラウザを起動しようとすると、普通はデスクトップからインターネット・イクスプローラ(ie)などのアイコンをダブルクリックしますが、何も知らずに買ってきたパソコンを起動したことを想像すると、"e"のアイコンや、灯台(netscape)のアイコンがブラウザであると想像しろというのは無理です。なんで、みんなが使えているかといえば、それをインストールする技術がある人が使っているからです。

結局、家庭で使うパソコンを実現するには、例えばMicrosoft WindowsのGUIのマニアックな部分、言い換えれば、使えている人にとっては当然だけど、初めて使う人には常識ではない部分をなんとかしないとだめなのでしょう。その解決策が、キーボードのボタンであるかどうかは分かりません。ただ、マウスを握らないでも、ブラウザが起動できるというところは、使いこなしている人にとっても便利かもしれませんね。もっとも、MS-DOSを使いこなしていた人は、ファンクションキーにアプリケーションの起動を割り当てるくらいの技は使っていたわけで、その時代を知っている人にとっては、昔に戻ったようなもんかもしれないけど。それはさておき、テーブルにぽんとおける軽量コンパクト設計で、一発起動ボタン付のパソコンが、これからの家庭用パソコンの標準形態となるとしても、スイッチポンでインターネット接続のダイヤルアップ接続の電話番号や、アカウントやパスワードを設定をしてくれるわけでもないので、OSに依存した面倒くさい設定は一度は通らないと、スイッチポンでインターネット接続はできませんね。そのあたりのユーザインタフェースは、設定ソフトのインタフェースをつくる技術者の腕の見せ所でしょうけど。しかし、ありとあらゆるプロバイダーやらモデムの組み合わせをカバーすることは、逆に使いにくくする結果になるからか、スイッチポンのメーカーは、それぞれ関連会社のプロバイダーをお持ちのようです。NECはbiglobe、富士通はInfoWeb、シャープはSharp Space Townというプロバイダーを使っています。どちらも、無料試用期間を設定しているのも共通ですね。

これから先は、パソコンを買い替えたらプロバイダーも変わったりするようになるんでしょうか。もし、完全にお任せモードでパソコンを使うなら、プロバイダーばかりか、アプリケーションも何でもかんでも、ついてきたものを使うことになりますね。パソコンを使いこなしている人から見れば馬鹿げたことですが、家電製品は全て作り付けのソフトウエアで動かしている訳で、家庭で使うパソコンもそこまでいかないと、家電製品の仲間に入れないのではなかろうか。これに合わせて、OSもソフトウエアも、メーカーごとにカスタマイズされたものになっていくかもしれません。ただ、パソコンをすでに使いこなしている人には、お仕着せな環境は、うっとうしいだけですけどね。

1999.07.02
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