「消費者の意見」ページの影響力

週刊誌やテレビで取り上げられたからか、「東芝のアフターサービスについて」[AKKY氏]というサイトが話題になっています。(注:このサイトは7月21日に閉鎖を宣言しました。)内容の是非はともかく、6月3日に開設して以来、今週までに表紙のカウンターが400万アクセスを越えているという点でも、国内のインターネットでは事件といってよいでしょう。このサイトについては、インターネット上の掲示板でも、AKKY氏を支持する意見と、ホームページの内容を疑問視する意見が交錯して騒ぎになっているようです。それにしても、この先、こうした、特定の企業や団体に対する個人意見を掲示するホームページが、情報ソースの真偽を確認しにくいインターネットというメディアを使って、社会に影響力を持つことができるか、興味があるところです。

話題のサイトは、東芝の新品ビデオの画質が悪いというクレームをつけた消費者が、お客様窓口との間で交渉するうちにトラブルになってしまった経緯を、苦情を公開するという形でホームページにしたものです。特に、お客様窓口のやくざな担当者の声が音声データで載っている点で、これまでの同様の苦情公開サイトとは違ったインパクトがあります。今回のブレイクは、この音声データも大きく影響していると思います。文章だけなら、東芝もしょーもないな、でも他の企業にもたかびーな担当者はいるし、程度で終わるところですが、この音声を聞くと、なんでこんな失礼な男を雇ってるんだと、むらむらと東芝に対する怒りがわき起こってきます(^_^;。一聞は百読にしかずか。逆に、これを聞いてしまうと、その会話に至るまでに、この消費者とお客様窓口の間にあったであろう経緯も、ふっとんでしまう可能性がありますね。私は、このページを読む前に、先に東芝の主張の方を読んでいたのですが、この音声データを聞いてしまうと、東芝の言っていることはともかく、こんな対応をする会社とは付き合いたくないという理性を越えた(^_^;気持ちがわいてしまいます。しかし、そういう東芝製品を最近買ってしまった私の立場はどうなる(事実です:苦笑)。壊れたらどうしよう。あのおっさんと対決せにゃならんのか。

特定の企業などに対して苦情を言い立てるWebサイトというのは、これに始まったことではなくて以前からありました。例えば、天下の覇者マイクロソフトに対する批判を載せているサイトは、アンチマイクロソフト・サイトとして人気も高かったりします。こうしたサイトが誹謗・中傷に当たるのか、意見を述べているに過ぎないのかについては、非常にあいまいで判断が難しいと思います。自分では意見を述べているつもりでも、企業にとっては「一部の苦情マニアの営業妨害」ととられる可能性は高い(特によくできたホームページほど?)。こうした苦情サイトについての、法律的な切り口の解説としては、「Complaint Siteと表現の自由」[高木氏]がありますので参考にしてください。アメリカのヤフーでは、こうしたサイトは「Consumer Opinion」[yahoo.com]というカテゴリーでまとめていて、多くの企業がこのページにサブカテゴリを持っています。もっとも、このカテゴリにあるサイトが全て苦情サイトではなくて、中にはファンページもあります。褒めるのも意見の内ってことでしょうか。文句を言っているサイトでは、例えば、最後にsuckとついているのは、その企業を批判しているところですね。面白いことに、ここには、「Yahoo Sucks!」なる所もあって、自分のホームページを載せないのは、けしからんと叫んでいます。でも、結果的に載ってるから満足したのかな(^_^;。日本のYahooにも、「消費者の意見」[yahoo.co.jp]というカテゴリがあって、ここにも企業の名前が見られますが、まだ少ないですね。中には、企業から見たら苦情マニアかと思うような所もあるし、まだ、一個人が企業を相手に意見を言うという形は、日本Yahooのリストを見るかぎりは一般的ではないように思います。

私は、このような「消費者の意見」サイトが、これから先、企業に対して公の場で意見を述べる手段として社会的に認知されるのは、意外に難しいのではないか思っています。「消費者の意見」サイトは、例えば、ある企業の担当者のミスと、それに対するまずい処理が重なって、消費者がいやな思いをしたのが発端となります。この場合、そのページを作った人は、企業への苦情を書くとともに、その経過を補強する書類のコピーなどを掲示して、いかに自分の言っていることが正しいかを主張します。最初に出たAKKY氏のサイトの場合は、音声データを使うことでかなりの支持者を得たはずです。しかし、こうした個人の主張サイトのもつ共通の問題点は、情報のソースが自分自身である場合が多いことです。第三者による情報の補強は難しい。AKKY氏も郵便局などに掛け合って、自分の行動の正当性を主張するために、第三者からの証言を集める努力をしています。それでも、あいかわらず、何度電話やFaxで抗議したのかと言う点ですら、異常に多かった(東芝)、いや少なかった(AKKY氏)の水掛け論になっています。そして、週刊誌やテレビで取り上げられていうにもかかわらず、東芝からは「一般のお客様に誤解を招きかねない状況」(上記東芝のリンクより抜粋)になっているのは残念という程度の見解しか引き出せていません。(どういう誤解なんでしょうね。)今後、こうしたサイトが現れるとき、それが「消費者の意見」であるか、それとも「消費者の誹謗・中傷」であるかの判断は、主張するサイトの内容に、どれくらい客観的な情報や証拠(音声も含めて)が入っているかにかかっていると思います。そういう意味で、怒りだけをぶつけたようなホームページが続出すると、こうしたサイトが「企業に対して意見を述べる手段」として社会に認知されることは難しくなるでしょう。

「消費者の意見」サイトの将来は、今後出てくる苦情公開サイトの作者の姿勢で左右されると思います。巨大な企業に対して個人が立ち向かうという図式は、非常に典型的で一般受けもするから勝算がありそうですが、事実関係があいまいだと感情的水掛け論で終わってしまう可能性が高いですね。しかも、意見を言う方も、自分の発言が原因で、その企業の株が下がるとか、業績が落ちるなんていう報復的な効果は期待できないから、インターネットという公の場で言いたいことを言ったという満足感で終わる結果になります。現に、東芝の株価は、あのホームページが開設された6月から今まで、下がるどころか上昇を続けています(^_^;。言いっ放しで終わるだけの「個人の意見」サイトばかりでは、問題を起こした企業にとって何の脅威にもならないでしょう。これからは、どこかの企業の窓口がへまをするたびに、こうしたホームページが現れ、文句を言いまくって消えていくということが繰り返されるのではなかろうか。それが、「消費者の意見」サイトの限界であるとすれば、社会に対してなんの影響力も生まれません。では、それで満足できない個人消費者の欲求不満はどこに行くのでしょうか。多分、インターネットで企業の落ち度情報を集める総会屋サイトですね。表向きは、民間消費者センター。実は総会屋みたいなサイトがでてくるように思います。これに比べれば、まだ苦情マニアが趣味でやっているサイトの方がましです。スターウォーズではありませんが、憎しみや恐れはインターネットの暗黒面にパワーを与えるでしょう(^_^;。

どこかの企業の馬鹿な担当者に嫌な思いをさせられたら、まず消費者センターに行くことですね。地元の消費者センターがどこにあるかは、国民生活センター[kokusen.go.jp]にアクセスすると分かります。(ここには、苦情処理の調査結果も載っていますが、製造した社名が出ていないのは納得できない。)ただ、インターネットで苦情を公開している人たちは、ここに相談しても埒があかなかった人たちです。だから、ホームページを使って自分に起きた問題を公表することで、第三者に悩みを聞いてもらい、相手の企業にもまじめに考え直してもらえるきっかけを作ろうとします。でも、それで何かが解決する保障はありません。下手をしたら、新たな敵を作る可能性も大です。また、企業の側も、そうした苦情公開サイトをどのように扱ったら良いか判断できないでいます。多分、今回の騒ぎは「消費者の意見」サイトの影響力を企業が見切るための材料の一つとなるでしょう。もし、東芝がこの問題でAKKY氏に勝てば、たとえ400万アクセスある「消費者の意見」サイトであっても、企業に損失を与えることはない、という前例をつくる結果になるのではないかと危惧しています。

1999.07.16
その後、東芝は7月19日付けで、東芝の対応への批判に対して詫びるとともに、AKKY氏のホームページの一部削除を求める仮処分の申し立てを取り下げることを公表しました。その内容は、こちら[toshiba.co.jp]をごらんください。この中で、窓口担当者の「不適当な」発言について非を認めていますが、インターネットでの情報発信にはおのずとルールがあるべきであるとも書いています。東芝の中にも、苦情公開サイトの無条件な勝利に終わらせることに批判的な意見があったのでしょうか。とりあえず、これで「消費者の意見」サイトが企業に対して影響力を持つことができるという例ができました。ただし、誰もが勝手に批判サイトを作れば同様の効果を持てるわけではありません。今回の騒ぎでは、個人の意見を通すには、それなりの説得力のあるホームページを作る必要があり、さらに、相手の企業ばかりか、第三者からの(時に無意味な)批判にも耐えるパワーが必要であることが分かりました。

1999.07.19
東芝問題では、プライバシーの侵害を理由に、苦情を公開したホームページが閉鎖され、インターネットを離れたところで交渉が続くようです。これで、騒ぎは収まるかとおもったら、今度はTBSの某キャスターがこの件で、別な意味の暴言[tbs.co.jp]をはいたとか。この発言のうち、個人ホームページの内容を「トイレの落書き」と言ったり、電話の当事者が録音することを「盗聴」と間違って認識していることが問題になっています。テレビというメディアでは、時事解説コーナーもバラエティー番組並のいい加減発言が許されるようですね。インターネットに対してマスコミが発言するときは、事前によーく内容をチェックした方がよいと思います。また、もう議論はけっこうと感じておられる方は、音楽を聞いてリラックスしましょう。あの、電話の会話が音楽になってます。ほんださん[~wb2y-hnd]たまねぎさん[%7Etamanegi]からMP3形式でダウンロードできます。いやー、のりの良いこと。でも、あまり聞くと、「よーきゅーはなんですか、オタクサンの」とか「オタクサン暇でしょう」とか、「クレーマーっちゅーのオタクサンはね」とかいう言葉が頭の中で回るようになりますから注意しましょう(^_^;。

1999.07.23
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