裏技サイトが企業を悩ませる?

昔から、パソコン界には裏技ってものがあって、それを見つけるのが趣味だったり、それを知っていることがヘビーユーザーのステイタスシンボルだったりします。その多くは、最初からプログラムされていてマニュアルに載っていない機能だったりしたわけで、特にMacintoshなんかでは、それを集めたものが辞典になっていたりしたものです。しかし、その一方で、市販ソフトのコピープロテクトを外したりするような裏技も公然とありました。それを趣味にしている人もいて、ソフトを買ってきてはディスクのセクタを解析して楽しんでいたものです。ただ、富士通のFM7や、NECのPC9801が家庭に入り始めたころは、こうした裏技情報は、出始めのパソコン通信や口コミ、ザベーシックといったパソコン雑誌に限られていたので、マニアの範囲にとどまっていたと思います。しかし、最近のインターネットの普及で、裏技情報がWebに乗ることで、裏技なのに誰もが知っているといった状況が起き始めています。これは、ソフトやハードを売る側にとっては、実害につながるかもしれません。

最近、DVDのプロテクトにからんだ2つの話題が出ていました。一つは、暗号化されたDVDソフトの情報を解読するプログラムをWebで公開した、ノルウェーのプログラマが訴えられた[zdnet]事件です。これは、DVDソフトのプロテクトを外す裏技を公開した大学生が捕まった、という単純な話ではなくて、コードを公開してプログラム資産を共有しようというオープンソースの運動と、それがDVDの商売を阻害していると考える企業との間の争い[zdnet]となっています。もともとこの事件は、LinuxでDVDソフトを再生するプロジェクトの一部として、DVDのコピープロテクトの仕組みを解析したことから始まっています。DVDに録画された映画は、CSS(コンテント・スクランブリング・システム)という方法で暗号化され、簡単にはコピーできないようにされています。したがって、DVDのソフトをLinuxで再生するには、そのデータを復元する必要があります。訴えられたプログラマは、暗号化の方法を解析し、暗号化されたデータをもとに戻すソフトを作って公開したのです。この、暗号化の仕組みを調べる部分の作業は著作権上も問題はないと、上の記事には書いてあります。でも、暗号化されたデータをもとに戻せるということは、たとえばDVDの中身を復元してハードディスクにコピーすることができるので、アメリカのDVD著作権管理協会や映画会社が、このプログラマや、そのソフトを流布した人たちを訴えた[hotwired]のです。確かに、プロテクトの方法を調べたところで、結果的にできあがるソフトは、DVDを再生するだけで、DVDの不法ソフトを量産するわけではありません。それに、DVDの不法コピーで商売している連中は、こんな面倒な方法は使わないという話もあります。では、なぜ訴える必要があるのでしょう。

こうした映画会社の反応は、インターネットにソフトを公開することは、すでに一部の技術者の裏技的な知識ではなくて、衆知の事実となってしまうのだという企業の警戒感がもとになっているのではないでしょうか。仮に、あのソフトが、なんらかのアクセス制限のあるネットワークの中で公開されたとしたら、訴訟にまでいかないように思います。さらには、コードに、使いようによってはDVDソフトの著作権を侵害する可能性があると明記してあれば、ぜんぜん問題にならないのではないでしょうか。公開した人よりも、違法に使った人を取り締まればよいような気がしますが。でも、いずれにしても、違法コピーする人が出るかもしれないのだから同じことかな。違う見方をすると、DVDに限らず、ちょっとマニアックな裏技を見つけて、それをホームページに公開するなんてことは、いくらでもありそうです。でも、その情報が原因で、ホームページの作者が聞いたこともない会社から損害賠償を請求されたりする事件が、この先増えるような感じがします。Webに情報を公開するということと、どこかの雑誌に投稿することの大きな違いは、Webは情報の公開先を選べないということだと思います。自分は、自分と同じ趣味のマニア宛にとっておきの裏技を公開したつもりなのに、実は、それを見ているのは、技術にはなんの興味もなくて、それを使った違法行為に興味がある人達だったりする訳です。WWWの一番のメリットは、ネットワークにつながっているコンピュータなら、場所を選ばずに表示できることなのですが、同時にそれが、本人の意図と違う情報の使われ方をされても仕方ないという結果になっているのです。

DVDのプロテクト問題については、最近売り出されたプレイステーション2(PS2)にからんだニュース[g-next]も出ています。こちらは、日本では再生できないはずの海外版のソフトをPS2で再生できるというものです。実は、映画配給会社の戦略で、映画館で公開されていない地域では、その映画ソフトのDVDを再生できないようにしているのです。これを管理しているのがリージョンコードで、DVDプレーヤーは自分のリージョンコードに一致しないソフトは再生しないのです。ビデオソフトなら未公開作品を見ても問題ないのにね。これも、画質がよいからでしょうか。このリージョンコードは、もともとは、不法コピーされても再生できないようにするというのが目的だったと思います。だから、中国のように不法コピーがビジネスになっている地域は、そのまま一つのリージョンにしているとか。それはともかく、PS2の問題は、ある条件で、アメリカで売られたDVDを日本でも再生できてしまうというものです。つまり、地域プロテクトをはずすという裏技ですね。しかし、この裏技はすでにWebで流れている[ps2-info]ので、コピープロテクトの話題と同様に、すでに衆知の事実になっています。衆知となった裏技は、もはや裏ではない表技?でも、誰も言わないけど、よそのリージョンのソフトを見ることになんか違法性はないんでしょうか。別に、回収する気配もないからソニーの著作権管理協会に対する責任問題だけなのかな。ま、スピード違反できる車をつくる自動車業界と同じで、利用者の良識とやらに任せれば済む話かも(注)

PS2でDVD業界も潤うかもしれないから、アメリカで売られたDVDソフトが、キーパッドの連打で鑑賞できるくらいは大目に見ようってことかな。でも、世の中には、知らなきゃ問題が出ない抜け穴ってのも多いですから、こういう便利な情報がWebで公開されるようになると、企業もうかうかしていられないかもしれませんよ。去年は、ホームページで企業を訴えた人が話題になりましたが、世界的に、企業は自分を批判する苦情サイトに悩まされている[hotwired]ようです。もはや、「消費者のご意見サイト」はインターネットの機能の一つとして認知されているようです。そしてさらに、企業を悩ませるかもしれないのが、商品をもっと便利に使うアイディアを乗せた「裏技サイト」かも知れませんね。

2000.3.17
(注)その後のニュース[hotwired]によれば、DVDで他のエリアのソフトが読めてしまうのは、製造企業間の協定違反であるそうな。

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