あなたもクレーマーになるかも

以前、東芝製品へのクレームをホームページに載せた人の話題が、インターネット以外のメディアでも大きく取り上げられました。あれは、クレーマーという特別な人によって起きたことだったのか、それとも、東芝側の対応の方に問題があったのか、週刊誌やテレビ局によって結論はまちまちだったように思います。でも、最近、私が遭遇した問題では、利用者から見て視界の悪いサポート体制が、容易に普通の消費者をもクレーマーにする原因となると言う感想を持ちました。

発端は、マイクロソフトのターミナル・サービス[microsoft]を、職場のWindows 2000サーバーに入れたことでした。これを使うと、サーバーにインストールしたアプリケーションソフトが、ネットワーク越しに自分のパソコンから操作できます。特に、高速のCPUや大容量のハードディスクが必要なソフトをサーバー機にインストールしておいて、それを職場で共有するといった使い方をするときに便利です。この機能を使うには、一つのパソコンに対して一つのライセンスが必要で、それはマイクロソフトから購入して、サーバー機のライセンス管理ソフトに登録する必要があります。このライセンスの値段は、最低5端末分で8万円を越える高価なものです。このライセンスを購入してサーバーに登録する段階で、いきなり私は途方にくれてしまったのでした。ライセンスを購入して届くのは、何桁もの文字列が印刷された紙が一枚です。ところが、それをサーバーに登録するソフトは、ライセンス番号の他に「加入番号」というのも必要だと言うのです。これは、聞いたことがない。まずは、「加入番号」とは何かを探して、ヘルプメニューをさまようことになります。しかし、いくら言葉を変えても「加入番号」はヘルプメニューに出ませんでした。

こうなると、マイクロソフトのどこかのサポート窓口に電話で聞かなくてはいけない。エラーメッセージには、ターミナル・サービス・ライセンスセンターに聞けと書いてありましたが、電話番号もWebのURLも書いてありません。私は、取敢えずマイクロソフトのサイトにある無償問い合わせ先一覧[microsoft]を見てみました。そこにも、上のセンターの電話番号はないし、該当しそうな窓口も書いてありません。そこで、まずは、オペレーティングシステム関係のサポート窓口に電話しました。電話口に出たおねえさんは、私の「Windows 2000サーバー」という言葉に反応して、ここはサーバーに関する質問には答えられない、サーバーに関する問い合わせは、有料サポートが必要だと言うのです。私は、高い金を払って買ったライセンスをインストールする方法を聞くのに、さらにサポート料金を取ると言う理屈に腹が立って、それはおかしいではないかと言ってしまった。すると、おねえさんは私のことをクレーマーと判断したらしくて、この件の質問は、サポート契約センターに言ってくれと、そちらの電話番号を伝えてきました。こっちも、クレーマーになるつもりもないので、そのまま引き下がって、聞いた電話番号にかけ直しました。これも東京の市外局番を持った有料電話番号です。

サポート契約センターの電話に出てきたおねえさんは、私の話を聞くと、このケースに有料のサポートライセンス契約が必要かどうかの判断は出来ないので、カスタマ・インフォメーション窓口に聞いてくれと、また東京の局番の新しい電話番号を伝えてきました。私も、マイクロソフトのライセンスの仕組みに詳しいわけでもないので、今度の窓口に聞けば「加入番号」というのが何であるかを教えてくれるかと再び電話をかけなおします。ところが、今度の電話に出てきたおねえさんは、「加入番号」が何であるかを知らないばかりか、なぜ、私がその窓口に、このような質問をしてくるのかも理解できない様子。この電話番号は、サポート契約した人の登録内容についての問い合わせ窓口だというのです。それでも彼女は、何やら調べてくれる努力はしてくれました。ただ、何分立っても問題は解決せず、結局、彼女は、サポートについてはこっちに電話してくださいと、再び、一つ前に私がかけた電話番号を教えてくれました。でも、そこにかけたらこっちに回されたんですが、と言うと、相手も何ででしょうねと首をかしげる状態。ここで話していても埒があかないので、私は、再び一つ前の電話番号に戻ることにしました。

今度は、おじさんが出てきました。この人は、応対に慣れた感じで、たらい回しになったことを詫びた上で、私の「加入番号」に対する疑問に対して、どこを調べたらよいのかを考えてくれているようでした。そして、その過程で、私が、エラーメッセージに出てくる「ターミナル・サービス・ライセンスセンター」という言葉を伝えると、では、それを調べて見ましょうと、ようやくその電話番号を探し出してくれました。でも、それで一件落着でもなかった(^_^;。今度の電話口に出たおねえさんは、いきなり、あなたの契約形態は、○○ライセンスですか?と英語を言ってきました。え?そう言われても分からないんですが。相手は、契約形態も知らずにライセンスを購入するのは、マイクロソフトと取引する業界では非常識であると思っているようでした。じゃ、△△ライセンスですか?うーん、本当に分からないんですが。どうやってライセンスを購入しましたか、これ?ではこれ?そうでなければ、小売店さんから買った?そう、それです。すると、ライセンスサーバーを動かすときに、「その他」の項目を選ばなかったので、「加入番号」を聞いてくるのですね...、とのこと。なんと、私がターミナル・サービスを起動する時に契約形態を間違えたので、ライセンスコードを入れるときに、いらない「加入番号」を聞いてきたという結論でした。

今回のトラブルは、いくつかの教訓を持っています。まず、エラーメッセージに「ターミナル・サービス・ライセンスセンターに聞け」と書いてありながら、ライセンスコードの紙にも、オンラインヘルプにも、ホームページにも、そこへアクセスする方法が書かれていなかった。袋小路に利用者を誘導してはいけない。次に、マイクロソフトのライセンス制度が煩雑であること。マイクロソフトのサイトを見ると、彼らの言う「ライセンス」という言葉には、「ライセンス体系」[microsoft]「ライセンス購入制度」[microsoft]の二つの意味がだぶっています。「ライセンス体系」は、必要なソフトを動かすためのライセンス運用技術に近いもので、Officeのようなパッケージのライセンスから、サーバーに接続するクライエントソフトの数を制限するライセンスまで、いろいろです。今回のターミナル・サービス・ライセンスも、この技術的な内容にあたります。しかし、今回問題となった「加入番号」は「ライセンス購入制度」に属する問題なのです。上のリンクで分かるように、マイクロソフトには、オープン、セレクト、エンタープライズ・アグリーメントなるライセンス購入制度があります。このうち、オープンライセンスの場合は、「加入番号」が割り当てられるわけです。で、こうしたまとめ買いをしない利用者は、「その他」に属する。ただ、逆に言えば、まとめ買いしないで小売店から買うユーザーは、こうした制度を知らない場合が多いと思います。そんな、制度に詳しくない人たちが、自分は「その他」だと直感で判断できるでしょうか。

サポート窓口の構造についても、問題があると思います。今回の問題では、「その他」という方法でライセンスを買った一部の利用者は、マイクロソフトのライセンス形態の全体像がつかめないまま、闇雲にマイクロソフトのどこかの窓口に突撃することになる。一方で、窓口は業務ごとに目的が細分化しているので、自分の範疇を超えた質問には全く答えられないのです。たらい回し現象は、こうした、窓口構造から始まり、利用者を逆上させる原因になります。今回、二度目の電話が対応に慣れたおじさんに回されたのは、自動だったのかも、あるいはたまたまだったかもしれませんが、あの人が出てこなかったら、私は今も高価な紙切れを片手に途方に暮れているか、アンチ・マイクロソフトのクレーマーと化していることでしょう。窓口には、必ず自分の領分を越えた問い合わせに対応できる態勢が必要だと思います。

マイクロソフトのような大きな会社になるほど、サポート窓口は対応が難しくなると思います。少なくとも、自分がどこの窓口に行ったらよいかも分からない人のための振り分け窓口を、電話窓口やWebに作るべきではないでしょうか。おまけの結論として、Windows 2000サーバーの利用者は有料サポートに高い授業料を払い、マイクロソフト界の常識を学習しないといけないようです。でないと、クレーマーになるかも(^_^;。

御注意:マイクロソフト社のリンクは、ネットスケープ社のソフト(communicator等)でつなぐと文字化けなどで読めない場合があります。その場合は、インターネット・イクスプローラでアクセスし直してください。

2000.8.16
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