iモードは世界に出るか

日本では、携帯電話からインターネットに接続している人の77%が、iモードを使っていると言われています。しかし、日本から一歩でも出ると、iモードは全く使えないのが現状です(2000年9月現在)。ただ、この先、iモードが日本だけの特殊な通信方法で終わるかというと、意外とそうでもないかもしれません。

私自身はもっぱらPHSと携帯パソコンの利用者で、iモードを全く使っていないのに、なぜか、携帯電話からのインターネット接続が気になります。多分、携帯電話からのインターネット接続は、この先も伸びていくのは疑いないし、使う人が増えれば、その世界が現在繁栄しているWebのように広がっていくのも想像できます。ただ、日本で支配的なシェアを持っているiモードについては、日本の単一の企業のネットワークサービスである事が、そんな約束された成長ににブレーキをかける可能性もあります。本当にこのままiモードの世界が成長するのか、それともどこかで衰退して、もっと世界標準のモバイルネットワークの仕様に置き換わっていくのか。そういう意味で、私にはiモードに事実上対抗しているWAPという世界標準の無線通信方式の動向が気になります。

WAP(ワップと読む)は、Wireless Access Protocolの略称で、モバイル端末へデータを送ることを目的として、世界的に多くの会社が話し合って新しく決めた通信手順です。日本でもEZweb[ezweb2]を宣伝しているDDI(AU)等は、この方式を採用しています。WAP対応の携帯電話がどのような表示をするのかは、DDIの説明ページ[dion]を見ると参考になるでしょう。みたところ、iモードとの違いは分かりません。WAPの解説を読むと、効率良くデータを送るために圧縮技術を採り入れているなど、技術的にも最適なものを目指しているようです。それに、世界の企業がこれを採用しているから、この先もWAPが消えてなくなる心配はない。WAPに比べれば、iモードはたかが極東の一つの国の、さらに一企業が勝手に立ち上げた技術じゃないか、という気持ちにさせます。ところが、実際にWAPを使っている海外の利用者の中には、逆にiモードを使いたいと考えている人もいるという記事を最近読みました。

この話題は、ワイアドニュースが上編[wired]下編[wired]の二回にわけて出しています。これを読むと、やはり、WAPは国際標準であり500を越える企業がサポートしているというメリットを強調していますね。さらに、ヨーロッパでは、1650万人が使っていると。ところが、この記事の意図は、逆にiモードの方がWAPより使えるのではないかという点にあるようです。iモードがWAPより「使える」ことの技術的な背景は分かりませんが、ともかくiモードはWAPよりも「軽くて安い」ということらしい。例えば、現状ではWAPよりiモードの方が転送速度が速いのだそうな。それと、記述言語の問題もあります。iモードはHTMLに互換性のあるコンパクトHTMLを使っているので、技術的にはインターネットのURLを携帯電話から入れれば、任意のWebページを読むことができます。もちろん、レイアウトとファイルサイズの問題で、全てが可能とは言えませんが。それに対して、WAPはWML(ワイヤレス・マークアップ言語)という独自の記述言語を使っているので、この世界とインターネットのWebの世界はオーバーラップするものがない。この記事を読むと、そんなにiモードがよいのなら、なんで海外に普及しないのかと思います。やはり、一企業の持っている方式であったということが影響しているのでしょうね。ドコモ自身もWAPの標準化グループに入っているし。それでも、ドコモはヨーロッパの通信会社の株を買っているし、NTTコミュニケーションズによるアメリカの通信会社の買収も進んでいて、アメリカやヨーロッパにもiモードが入り込む可能性が出てきているようです。

それにしても、ワイアドニュースの内容と、EZwebのホームページの内容を両方読んでいると、この先の携帯電話がどちらに進むのか、訳がわからなくなります。独自の記述言語を使っているWAP陣営は、HDMLという[ezweb]WMLの元になった言語を積極的に一般利用者に宣伝して、草の根ホームページを増やそうと言う考えのようです。大手のプロバイダーのサイトでもこの言語をサポートし始めたようです。見たところ、機能が多いわけでもないから、htmlが書ける人ならすぐに使えそうなものです。むしろ、携帯電話を前提としたページを書くつもりなら、こっちの方が簡単かもしれない。すると、WAP対応のホームページも増えて、数年後にはWAPがiモードを越える?でもね、と一方で思ってしまう。確かに、携帯電話のインターネットとパソコンのインターネットの間には、表示領域と内蔵メモリの大きさと言う壁があります。ありますが、それは今の携帯電話の仕様で決まっているだけで、数年後にはパソコン並みのCPUやメモリーを内蔵し、コンパクトなディスプレイが外部接続できる携帯電話が出ないとも限らない。すると、逆に技術的にパソコン界と分離したWAP世界は、自らを障壁の中に閉じ込めたことになるでしょう。むしろ、ネット上でパソコン世界とオーバーラップしているiモードが正解かもしれない。

多分、WAPはよく考えられた通信方式なんでしょう。iモードよりも優れた点も多いはずです。でも、トレンドというのは技術的な優劣では決まらないのがパソコンを始めとする技術の世界ですからね。VHSもそうだし、IBM-PC互換機も、それに採用されたMS-DOSもそうです。MS-DOSなんて、マイクロソフトがIBMのパソコンのためにゼロから開発したわけではなくて、Tim Patersonと言う人が6週間で書いたQDOS(Quick and Dirty OS)[what?is]というOSを5万ドルで買い取ってIBMのパソコンに載せたものでした。(IBMはMS-DOSにあった300のバグを潰して、PC-DOSという名前で製品に載せたそうな。)その後、IBM-PC互換機が世の中にあふれたことで、マイクロソフトの独占状態が生まれた。そして、マイクロソフトのOSの進化に合わせて、ハードウエアの仕様も1GHzのクロック周波数まで進化したのです。市場のシェアがある臨界点を越えると、もはや技術論では説明できません。携帯電話の世界もそうなるかもしれない。iモードにあわせて、携帯電話のハード自体が予想外の進化を遂げる可能性もあるのです。なぜか、むしろそっちの方がありそうな気がするのですが、どうでしょう。

2000.9.4
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