高速常時接続の未来はワームの巣になる

CATVやADSL加入者数が伸びています。特にADSLは、ヤフーの格安ADSLに影響されて、他の通信業者も値下げラッシュに入っているので(NTTコム[nikkeibp],KDDI[nikkeibp],日本テレコム[nikkeibp])、年内にもCATVを抜いてしまうのではないかと思います。もちろん、それまでADSL業者の体力が持てばですが。最終的に、アメリカ同様、日本のCATVやADSL業界も資本力のある大手の業者に統合されていくか、あるいはつぶれてしまうかもしれません。そうした情勢はともかく、CATVやADSLのサービスを安く利用できる場所に住んでいる運のよいネットワーク利用者は、今年から8Mbpsを超える常時接続という、企業のLANよりも快適なインターネット環境を手に入れることでしょう。しかし、これは最近まで誰も予想していなかったことなので、気をつけないと、このままインターネットを地獄に突き落とす可能性もある。そこは、ワームの巣と化したインターネットです。

ブロードバンド接続がどのように使われるかについては、前回のこの欄で書きました。テレビ電話サービス、音楽配信、高精細ビデオ配信などなど。実際に、これが一般家庭で使われることを予想してみましょう。音楽配信はオンデマンドな高品質ラジオか、有線放送みたいなものですから、当然、音楽を流しっぱなしで聞くでしょう。ビデオ配信は、週末に映画を見るような使い方ばかりか、CATV的に一般放送を見るようにもなるかもしれません。電話もそうです。VoIPを使った電話を使っている場合、プロバイダと家庭をつないでいるルーターの電源を切っていたら、誰もその家に電話することが出来ません。つまり、こうしたサービスは、いままでのインターネットサーフィンとは違って、終日つなぎっぱなしが当然になると言うことです。この常時接続をしていたのは、いままでは企業や大学などの教育機関が主でした。個人利用者でも、それなりに基本的な知識を持った人が使っていた。しかし、それが、ここ一年くらいでインターネットのプロトコルも知らない、多数の一般市民が利用するになる。これは、インターネットにおいては大事件です。

企業の、ネットワークを管理した経験がある人なら、必ずインターネットからのクラッキング(不法な侵入)や、LANに入り込んだウイルスを駆除するような騒ぎを経験していることでしょう。特に、今年は、Code Red[ipa]というワームが大流行しています。これは、Internet Information Server (IIS)というマイクロソフトのネットワークサーバー用ソフトのバグを利用して感染し、それが走っているマシンから、アメリカのホワイトハウスのホームページへの攻撃をします。もっとも、ホワイトハウスもアドレスを変えて対処したようですが。同時に、このワームは、自分が感染したマシンの防御力を落として、外部からのクラッキングを容易にします。こうしたワームに関するニュースを見て、なんだ自分が使っているWindows 98/Meは関係ないやと思っている人がほとんどでしょう。でも、来年の今ごろは、関係ないでは済まされないかもしれません。早晩、Windows 98系のOSはWindows 2000と統合され、さらにインターネット接続に対応したOSになる。対応すると言うことは、便利になると同時に、マイクロソフトの何やら分からない高機能なプログラムを使うということになるのです(^_^;。

すでに、Windows 2000を使ってインターネット接続している人も多いでしょう。しかし、その人たちの中で、自分のパソコンにIISに関連したタスクが走っているかどうかを、即座に断言できる人はどれくらいでしょうか。自分の意図に関わらず、いつインストールされているか分からないのがマイクロソフトのOSです。まず確かめて見る?タスクマネージャーを開いて裏で走っているタスク名をチェックする。でも、この中の、どれが問題のタスクなんでしょ。もちろん、慣れてくれば、ワームやウイルスの警告情報を元に、自分のOSに問題となるプログラムが走っているかどうかをチェックすることは可能です。でも、それができて、さらにプログラムにパッチを当てることができる人は、Windows 98/Meの利用者も含めた全てのWindows利用者の中のいかほどか。知っていたって面倒だからしない人もいるでしょう。その結果、数年以内に、無防備なインターネット直結マシンが、桁違いに増えていくことになる。でも、それは、中南米や、東欧にいるかもしれないワーム作家の知ったことではないのですね。彼らの、ワームは企業のファイアウォールやルータと同様に、一般市民のインターネット常時接続パソコンやルータのバグを利用して、自分の分身をインターネットにばら撒くでしょう。その結果、日本はワームを増産して世界にばら撒くワームの巣になる。

これは、悲観的過ぎる未来でしょうか。そうは、思いませんね。ちゃんと管理しているはずの企業の計算機でさえ、Code Redに感染している[cnet]状況ですから、常時インターネット接続された管理もいいかげんなパソコンなんか、この先、簡単に感染されてしまうでしょう。さらに、感染されても気が付かない事態も起こりうる。ワームは、悪意のある複数のプログラマによって次々に改変されて、自分を隠すバージョンに進化します。もちろん、こうしたワームに対しても、ウイルス対策ソフトが対応するかも知れません。しかし、「サーカム(Sircam)」ウイルス[ipa]流行[nikkeibp]を見ていると、ウイルス対策ソフトが完璧に全てのウイルスやワームのバージョンに対応したとしても、今以上にこれらの増殖を抑えることは難しいのではないかと思います。「サーカム」が流行した理由はいろいろ言われています[nikkeibp]が、私は、添付ファイル名が日本語であることが一番大きいと思います。このウイルスは、感染したパソコンにあるファイル名を使って、自分の分身をメールに添付します。メールの件名も同様なので、受け取った方は、何で、この人は変な英文のメールを送るのかと訝りながらも、日本語の名前のついた添付ファイルを開いてしまうのでしょう。こんな具合に、敵は毎日進化していきます。全ての利用者がこうしたウイルス情報に注意を向けて、それぞれ対処しなさいと言ったところで、所詮無理であることは、少しでも企業のネットワークを管理した人なら想像できますよね。

ネットワークからのクラッキングやワーム、ウイルスといった攻撃に対抗するのに、啓蒙活動と、利用者の良識だけでは解決にならないと思います。ですから、ブロードバンド常時接続が普及する近未来のインターネットは、現在よりも激しい攻撃が横行することでしょう。毎日やってくる感染メール、毎月1日と15日は、ワームの攻撃でネットが遅くなるから、ビデオ配信はコマ送りになるのが当たり前。その内に、日本からのワーム攻撃でネットワークがダウンした国から、直接のアクセスを拒否する要求を突きつけられ、新たな外交問題になる。祝日をワームの攻撃日と増殖日にして、ネットワークを落とせと言う法案まで出たりして。では、こうならないようにする方法はあるのか。それは、直接利用者をインターネットにさらさない構造にするしかないと思います。つまり、プロバイダーごとに仕切られたLANを構築して、利用者を中に入れる。インターネットからの通信は、全てフィルターして攻撃を防ぎ、ファイアウォールを出入りするメールは、全てウイルススキャンする。ここまでして、常時接続が許されるのではないでしょうか。ワームもウイルスも、障壁の無いネットワークで最大の感染力を発揮します。それなら、ネットワークを障壁で区切って、一部の感染が他の区画に飛び火しない防災構造にするのが一番のはずです。

しかし、こうしたやり方は、補助金でもばら撒かない限り普及しないものです。そもそも、高性能なファイアウォールやフィルター付きのメールサーバーは、何百万円もの出費になるから、利用者の負担も増える。それに、プロキシを通したインターネット接続は、ストリーミング放送の受信などで、利用者に面倒くさい詳細設定を要求するし、インターネットからのブロードバンド通信に対応するには、プロキシサーバーの性能は持たないかもしれない。しかし、こうした問題は、同じストリーミング配信サイトへの要求は、一度外部からの信号をコピーしてLANの中で分配しなおすキャッシュサーバーのを使うなど、技術力でカバー可能な問題だと思うのです。それよりも、インターネットが崩壊する前に、その原因となる芽を積んでおく方が大事ではないでしょうか。でも、実際そうした体制はいつ出来るかわからない。しかたないから、問題が社会問題化して国の補助金が下りるまで、まめにルーターの電源を切って自分に降りかからないようにするしかないのかもね。(^_^;

2001.8.15
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