ADSLがやってきた...が。

我が家にフレッツADSL(1.5Mbps)を入れました。実際に、ADSL常時接続の環境に入ってみると、距離による接続速度の格差や、セキュリティ問題といった話題が、急に身近なことになります。一方で、10MBのファイルも平気でダウンロードできるブロードバンド常時接続の環境は、一度慣れたら止められません。ADSL常時接続を利用している加入者数は、2001年の10月末時点で92万世帯まで急増していて[nikkeibp]、さらに、これから一年間で300万世帯を超えるという予測も出ています[nri]。こうした予想通りに、バブリーなブロードバンドの未来が開けるかどうかは、この先、高速接続のメリットが目に見えるようなコンテンツが出てくるかどうかにかかっていると思います。

申し込んでもなかなか開通しないとか、繋がっても速度が出ないとか、ADSL導入にトラブルはつきもののようですね。私の場合、BIGLOBE[biglobe]の加入代行サービスで頼んだのが9月中ごろでした。それから2週間くらいして、NTTパートナーという会社から、電話局から家までの回線の損失が大きすぎるので工事ができないという連絡がありました。帯域が半分でもよいから繋がらないかと、だめを承知で問い合わせてみたら、今度は工事ができますという返事(^_^;。それから4日くらいでADSLモデムが届き、その翌日に説明書が届いて、さらに2日後に開通しました。この業界も、人材不足なのかコスト削減で人手不足なのか、どうも技術音痴な対応が利用者との摩擦を増やす結果になっているようですね。電話局からの回線損失が39dBとのことで、データ的にはぎりぎりの線なのは事実でした。ADSLモデムの電源を入れてから、LEDが点滅を止めてリンクが確立するまでは、ちょっとドキドキものでしたね。局側のモデムとのリンクができしなくちゃ何も始まらないし。実際、ADSLモデムが届いても、リンクできずにあきらめるケースもあるらしい。開通後、インターネットとの接続速度を、速度計測サイトや、ファイルのダウンロード時間で測ってみると、だいたい750kbps前後といったところでした。フレッツADSLの平均的な実力値はでているようなので、とりあえずこんなところかという感じ。でも、同じフレッツADSLの利用者で、1Mbps以上でましたなどという発言をネットで見かけると、納得できない部分もある(^_^;。理屈では、速度は運次第なのがADSLなんだと分かってはいるのですがねぇ。(ADSLについての基本的な解説は、BizTechの「ADSL 1から再入門」[nikkeibp]にあります。)

ADSLの問題というか、特徴は接続速度が決まらないこと。これは、56kモデムに似ています。だから、1.5MbpsのADSLというのは、1.5Mbpsの通信方式というよりは、1.5Mbps以上にはならない通信方式であると読んだほうが現実に近いのです。すると、同じ利用料金ならビットレートが高い人のほうがお得という結果になるので、皆さん、まずは速度を調べに計測サイトに行くわけです。ADSLの技術的な説明は、ブロードバンドWatch[impress]にあります。このページに、変調信号の図(青と緑の細長い山が並んでいる図)が載っていますが、電話局(収容局)との距離が離れると電線の抵抗で山の高さ(信号の強さ)が下がり、正しくADSLモデムが受信できなくなります。モデムは、変調方式を調節して転送速度が落ちないようにしますが、1.5MBといった最高速度を保つことはできません。実際には電線の抵抗は高い周波数ほど大きいので、グラフの右側ほど信号レベルが下がります。つまり、1.5Mbpsといっている下り信号、電話局から利用者への信号速度が落ちることになります。ADSLの通信速度は、電話線の損失が40dB(距離にして3km程度)を超えると、一気に落ちる傾向があります。私の場合は、損失が39dBだったので、まさにつないでみないと分からない状況でした。ADSLの速度は回線の雑音にも大きく依存します。モデムが繋がっているコンセントに雑音源となる電気機器が同居していても影響がでるし、電話線が古くて雑音が多いと3kmより近くても悪い結果がでます。とりあえず、私は量販店でノイズフィルターつきのコンセントを買ってきて使っていますが、目に見える効果があるわけでもありません。他にも、MTU値を変える[impress]といった方法で、速度が改善できる場合もあるようです。私も試してみましたが、計測サイトの数値のばらつきの方が大きいでした。さらに言えば、速度計測サイトを利用した測定方法は、必ずしもADSLの転送速度を測っているわけではないということにも注意が必要です。

計測サイトで測定する方法については、上でリンクしたInternet Watchのページ[impress]に載っています。インターネットを通してファイルを転送して速度を割り出すので、ADSLの通信速度を測っているのではなく、自分の家から測定サイトまでのスループットを測定していると考えるべきですね。途中で混雑があれば当然悪く出ます。では、自分が加入しているADSL業者のサイトなら正確に測れるかというと、これも疑問です。私の場合は、フレッツADSLを使っているので、NTT東日本が提供しているフレッツスクェアという接続確認用サイトがあります。ここでも接続速度が測定できますが、フレッツスクェアで測定したデータよりも、インターネットにある測定サイトでの測定結果の方がよい値がでます。これはなぜだろう。フレッツの場合、ADSLモデムから電話線に入った信号は、NTTのビルでデジタル信号に戻されたあと、すぐにプロバイダーの専用線につなぐのではなく、一度、地域IP網という県ごとのネットワークを通してから、プロバイダーとの接続点(アクセスサーバー)に送られます。この先は、プロバイダーの通信回線を通してインターネットに繋がります。このあたりの話は、RBB TODAYの説明[rbbtoday]をご覧ください。インターネットからの信号も、同じ経路を逆にたどることになります。フレッツスクェアは県内網にあるのでしょうが、自分の繋がっている電話局とそのサイトの間の通り道が、プロバイダーへの通り道より広いという保証は無いのです。逆に、NTTにとってお客様であるプロバイダーへの回線の方が太いことはありえることです。では、自分のADSLの速度はどの値が正しいのかということになりますが、いろいろ試してみた内で一番速い速度に近い値であろう、という程度の話になります。

さて、常時接続すると今度はセキュリティの問題が出てきます。64kbpsのフレッツISDNでも、ADSLやCATVの1Mbpsを超えるブロードバンド接続であろうと、インターネットへの常時接続ではセキュリティの問題[nikkeibp]が避けられません。そこで、私は奮発してメルコの無線LAN付きブロードバンドルーター[melcoinc]を買いました。これを選んだ理由は、インターネットからの信号を選別して、不正なアクセスを止めるセキュリティ機能がついているからです。値段が高いのは無線LANがついているからですが、こっちはパソコン置き場と電話との間が離れているからどうしても外せなかった(^_^;。ADSLモデムからのLANケーブルをルーターにつなぎ、そこから無線(11Mbps)でパソコンに接続します。ルーターには100BaseTのポートが4つあるので、有線で直結することも可能です。このルーターの設定は、パソコンのWebブラウザから行います。ADSLの設置については、PPPoEの設定が面倒だとか、かなり難しいという経験談がネットに出ていますが、私の場合は、接続アカウント名にプロバイダーのドメイン名を付け忘れた間違いがあったくらいで、いたって簡単に繋がりました。とはいえ、パソコンすら初めて触るような初心者には難しいでしょうね。話をセキュリティに戻すと、ルーターを使わずにパソコンを直接インターネットに常時接続するのは、かなり危険だと思います。なぜなら、今のOSには多くのセキュリティ上の抜け道があって、それを常に安全な状態に保つには、情報収集やパッチを当てるなどの手間が大変です。パソコンのOSというのは、本来、互いにパソコン同士がLANで通信しあう時に便利なように作られていて、それを選別して通信を防ぐという発想では作られていません。であれば、セキュリティはパソコンではなく、ルーターのような専用の機械にやらせたほうが、パソコンの便利さを損なわずに安全性が確保できるはずです。

インターネットにつないだパソコンは、100を超えるドアを持った家のようなものです。家を空き巣から守るには、当然鍵をかけますが、インタネットとデータをやり取りするには、鍵を開けてドアを開かないといけない。利用者は、別にどの扉が開いているか意識していませんが、OSやアプリケーションが勝手にそれをやってくれるので、Webを見たりストリーミング放送を聞けるのです。空き巣であるクラッカーは、その扉を順番に叩いて鍵を欠け忘れた扉を開き、勝手に何処かの部屋で、次の空き巣の準備や、どこかのサイトを攻撃する準備をします。こうしたドアの鍵の管理を、全ての利用者にさせるのは無理だと思います。今回のADSL導入で分かったことは、いちばん簡単なのはプロに任せること。例えば、セキュリティの高いブロードバンドルータを使い、インターネットのチェックサイト(例えばShields Up![upsizing]や、シマンテック[symantec])で、どれくらい守られているかテストすることです。(注:ルーターを使用している場合は、シマンテックのサービスでは一部の機能しかチェックできません。)私が入れたブロードバンドルータは、セキュリティ機能がついていますが、デフォルトで正しく設定されているのか、実際にチェックサイトで調べてみました。結果は、私の予想以上に良好で、導入時のままでもWindowsネットやTCP/IPポートのセキュリティホールは見つかりませんでした。

セキュリティに疎いユーザーとしては、買ってつないだだけでオーケーというルータを使うのが望ましいですね。しかし、どのルーターのセキュリティが高いかは、店でダンボールを眺めても書いてありません。少なくとも、セキュリティ機能付きと表示されたものを買い、つないだ後で上で紹介したサイトを使ってチェックするのが、我々素人ネットワーカーの最低できる対策でしょう。ただ、クラッカーは常に新しい方法を考えているので、今日完璧でも、明日はどうだか分からない。ルーターメーカーの技術者は、こうした新しいセキュリティホールに対応して、ルーターに内蔵されたソフト(ファームウェア)の更新をしています。定期的にそうした情報をチェックして、ソフトの更新をするくらいの努力は必要でしょう。また、一方で、常時接続はIPアドレスを長時間占有するから問題なのだから、定期的に電源を切ってIPアドレスを変えてしまえば、高価なルーターを使わなくても大丈夫だろうという説もあります。しかし、プロバイダの設定よっては、IPアドレスの貸し出し期間が数日になっている可能性もあります。すると、一度切って、再びつないだところで、同じIPアドレスが付与されてしまう可能性は高いのです。試しにADSLモデムとルーターの電源を切り、数分たってから再接続してみたら同じIPアドレスが付与されていました。少なくとも、こういう短時間の再接続では、意味が無いでしょうね。ダイヤルアップはアクセスポイントにIPアドレスがついていて、それを複数のパソコンが変わりばんこに使いますから、クラッカーは攻撃相手を特定できません。常時接続は、LAN接続に近いので、同じIPアドレスが同じ利用者に再度付与される可能性が高いように思います。

ブロードバンドの常時接続にまつわるセキュリティ問題の一方で、ブロードバンド常時接続そのものが爆発的に普及するかどうかという点も微妙だと思います。まず、ADSLを使ったブロードバンドサービスは、どの程度のものかというと、まだまだ、ビデオばりばりのマルチメディアというわけではありません。インターネットで見ることのできるビデオ映像の画面は、7 x 5 cmくらいの小さいものだし。ISDNの帯域と違うのは、画像にモザイク状の乱れが入らないことかな。サイトによっては、小型テレビ相当のきれいな映像が見られたりします。とはいえ、いまのところ、インターネットのマルチメディア・コンテンツの帯域は、ブロードバンド用といっても200kbps〜500kbpsで設定しているところが多いようです。逆にいえば、今のインターネット上のコンテンツを見るのに、1Mbpsはまだ必要ないということですね。これは、パイプの細いインターネットを通しているという事情からきています。むしろ、私の場合、ADSLの常時接続になって変わったのは、Windowsのスタートメニューにある「Windows Update」を気軽に使えるようになったこと。インターネット・イクスプローラやメディアプレーヤーのバージョンアップも平気でダウンロードできます。なんせ、10MBでも2分とかからずにダウンロードできる。メガバイトのファイルサイズが躊躇無くダウンロードできるというところが、一番大きな変化ですね。映画や、ゲームソフトなどの大きなファイルを夜中にダウンロードするというようなサービスがあれば、インターネット経由の常時接続も人気がでてくるだろうか。

最近のCNETニュースに、アメリカではADSLの利用者が解約するケースが出始めたという記事[cnet]がでていました。アメリカではADSLの供給業者が採算を取れずに止めてしまうという背景があって、接続料金が50ドル(約6000円)と日本の倍になっています。さらに、景気の後退という事情も重なってこうした現象が起きていると思います。ただ、日本でもある程度利用者が増えた後、まだまだ貧弱なマルチメディアコンテンツの現実を見たADSLやCATVの利用者が、見切りをつけて止めてしまうことも考えられるのです。はたして、7 x 5cmのビデオ映像を見る程度のマルチメディアに、月々3000円を支出する価値があるだろうか。確かに、冒頭に書いたように、ダイヤルアップの遅さに比べれば、このブロードバンド常時接続環境は止められないと感じます。少なくとも、使い始めてしばらくは。問題は、この後でしょう。フレッツADSLをサービスしているNTT東日本や、西日本も、他のブロードバンド事業者に続いて、地域IP網の中でブロードバンドコンテンツを提供する計画を発表しました[nikkeibp]。この先、それぞれのブロードバンド事業者が、インターネットへの出口にあるボトルネックの内側で、どれくらいの高速接続を実現し、また、それを使ったコンテンツを提供できるかが、この先ブロードバンド接続が伸びるか失速するかの鍵だと思います。

2001.11.11
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