インストールしたらメーカーの言いなり

みなさまお元気でしたでしょうか。半年ちょいのご無沙汰でした。私は、息もたえだえにIT不況+デフレの世界を漂っております(^_^;。そうそう、Windows利用者の皆様は、Windows Updateしました?なんか知らんが、まーたセキュリティホールが見つかった[cnet]ようで[2002年11月現在]。もはや、どのセキュリティーホールなんだか区別がつかないですね。このリンクにある専門家の皆様の発言は、「何百万というシステムやクライアントが、この影響を受けるだろう」とか、「これは重大だ……できるだけ多くの人にパッチをあててほしい」とか、Windows界の終末を思わせるものです。これが大げさすぎるかどうかは、言っている本人と一部の専門家しか分からないでしょうが、これほど大騒ぎしたとしても、ほとんどの人はパッチを当てていないのが現状です。

この状況に対して、今度はマクロソフトから、強制的にユーザーのパソコンにパッチを当てようという発言が出て[hotwired]、これまた物議の元になっているようです。例によって、自分のパソコンをネットワークから勝手にいじられたくないとか、これまた個人情報の流出につながるとか、マイクロソフトのパッチでソフトが壊れたケースがあるとか、ありとあらゆる意見がでるわけです。その前に、そこまでしてパッチを当てないといけないソフトは、製品といえるのか、という疑問も出てきますが。それはともかく、最近思うのですが、マイクロソフトに限らず、パソコン用ソフトウエアという商売は、車やテレビのように、モノを売り買いする業界とは違う常識で動いているようですね。つまり、クラッカーといたちごっこをしているセキュリティーホールの話はともかく、例えばバグについてはあって当然、それでデータが消えても仕方ないという考え方が、パソコンが家庭や職場に入って以来、利用者の間の常識となっているように思うのです。

これが、モノを商売する世界では、例えば、重大なバグのある車はリコールの対象になるし、それで誰かに損害を与えたら、保証の対象にもなる筈。なぜか、ソフトウエアの場合は、製造元にお咎めがないカルチャーになっています。数が多いから、クレームを受け入れていたら会社が持たない?例えば、国内における、2001年のパソコン出荷台数は1,068万6,000台だったそうで[pcweb]、インストールされるソフトの数も、このオーダーと考えてよいでしょう。一方で、同じく2001年の四輪車の出荷台数977万7千台[jama]と、なぜか似たようなものです。こういうことを書くと、多分、パソコンソフト業界からは、ソフトとハードは別物だとか、複雑さが違うとか文句が来そうです。でも、モノ的に見た車だってかなり複雑だし、そもそも、最近の車はファームウエアと言うソフトで動いているではないか、などと思ってしまうのは、私が素人だから?もし、パソコン向けソフトウエアが、原理的にバグによる被害を回避できない構造のものだとしたら、それは、情報工学的になんか間違っているとしか思えません。

ソフトウエアの利用者が数千万人いて、毎日のように誰かのソフトがクラッシュしているのに、それが原因でパソコンソフトの会社が保証に奔走しているというニュースが出ないのはなぜでしょう。万全のクレーマー対策がなされているから?いえ、あの、いまいましい使用許諾条項(ライセンス条項)があるからです。読んだことが無い人のために、簡単に説明すれば、「このソフトを使って、利用者がいかなる損害を受けても、決して作った会社を訴えることはできない」と書いてあるものです。この1〜2行の内容を、法律の専門家がソフト会社のために完璧を期すように書いたので、あんな分かりにくくて長い文章になっているのです。じゃ、そんなもの無視すればよいかと言うと、あの文章の中には、必ず、利用者はこれを許諾しないとソフトを使えないという一文があるはずです。つまり、ソフトを使っている限り、本当に利用者が読んだかどうかは問わず、読んで了解したとみなすのが、この業界の常識なのです。そんな硬いことを言っていたら、何もソフトは使えないって?でも、最近、そういう、鷹揚なユーザーをターゲットとにしたウイルスが出ています[cnet]

この記事にあるように、このソフトは「ウェブ上のグリーティングカードを見るために必要だと思わせてアプリケーションをダウンロードさせ、『Outlook』の連絡先ファイル内の電子メールアドレスすべてに、自分自身を送りつける」という、きわめてウイルスに近い動作をします。でも、正しくはウイルスではないらしい。なぜなら、利用者はソフトをインストールすることで、これを提供した会社の使用許諾条項を承認したことになっているからです。で、その使用許諾条項には、あなたのメールソフトのアドレス帳に登録されている全員に、メールを送信すると書かれているわけです。この記事には、合法的ハッキングという言葉もありますが、合法的であれば何をしても良いのね、パソコンソフト業界って、ということです。ウイルスをばら撒いて、パソコン上のデータを壊したら、訴訟の対象になりますが、もしも、ダイヤログで「この重要なソフトをインストールしますか[Y/N]」という選択を利用者にさせて、うまくインストールさせることに成功したら、全く同じことをしても合法的になるのです。なぜって、使用許諾条項に「このソフトは、利用者の責任の下にインストールされる」と書いてあるから。このウイルス系ソフトウエアの問題は、記事にもあるように、利用者が使用許諾条項を「実際は」読んでいない点にあります。でも、読まない利用者が悪い、というのは法律で飯を食ってるみなさんと、パソコンソフトを売って飯を食ってる皆さんの論理だと思いますね。

実のところ、私は、読んでいないのが悪い、いや、あんな分かりにくい文章を読めという方に無理があるという水掛け論には興味がありません。合法的ならそれで結構、でも、製造元が利用者保護を少しでも考えるなら、少なくとも対象となる利用者が、何が言いたいのか分かるような文章にてください。子供向けのソフトなら、漫画でもいい。高齢者も使うなら字を大きくしてほしい。でも、本音を書いたら、「売るけど何がおきても保証できません」と言う代物ですから、ぜんぜん解決になってないか。それにしても、世間で売られているもので、利用者に損害を与える可能性がある製品には、利用者が必ず見る場所に、その危険性を明示するのがモノを売る業界の常識になってきています。その表示が、あの法律の専門家しか意図が理解できないような文字列だなんて、もはや、なーんも保証しませんと一方的に言い切っているようなものではないでしょうか。やっぱり、昔のソフト創世記に獲得した、バグはあって当然と言う甘い常識にすがっているところがあるように思うのですが。あるいは、訴訟天国のアメリカをまねてるだけ?

ウイルスもどきのソフトだけが、使用許諾条項の落とし穴ではありません。私は、あるゲームソフトをダウンロードしようとしたら、その過程で、まったく関係ない別の会社の[kontiki]ソフトウエアをインストールさせられたことがあります。「ご希望のファイルをダウンロードするには、このソフトのインストールが必要です。インストールしますか[Y/N]」ときた。先に進めるには、「はい」しかないでしょう。多分、90%の人は「はい」と言う。で、めでたくファイルをダウンロードしたあとで気がついたら、システムに見知らぬソフトが常駐していました。このソフトは、ユーザーのパソコンに一度転送したファイルを覚えていて、その近所の人が同じファイルをダウンロードするときに、その人のパソコンから転送してしまう[kontiki]すぐれもの(?)です。もちろん、これが機能するには、ファイルが改変されていないように署名を組み込んだり、それなりにテクニックが必要ですが、それよりも、ユーザーのパソコンを勝手に操作してファイルを転送できることが前提です。だから、自分のサーバーからの指示で利用者のパソコンが動作するように、自社のソフトをインストールさせて常駐する必要がある。インターネットは皆のもの。それぞれがリソースを提供して便利にするのは当然という見方もできますが、ユーザーは仕組みを了解してから「はい」をクリックしていないし、その会社は、その仕組みを提供することで収入を得ているわけで、これはボランティアではありません。

あるソフトウエアをインストールすることは、その使用条件を了解したことになってしまうことが法的に認められている状況では、その使用許諾条項のどこかに、そのソフト会社に都合の良い条件を埋め込んでおくことで、合法的にやりたいことができる可能性があります。これは、利用者保護からかけ離れたものです。これまでの使用許諾条項は、利用者の訴訟から会社を守るものでしたが、これからは、積極的に利用者をビジネスに取り込むためのツールに使われるのでしょうか。ソフトをインストールさせることで、ぼろい儲けをたくらむ人が増えて、それによる被害が増えてくると、必ず使用許諾条項と利用者保護の問題が顕在化します。利用者側の防衛手段は、あの使用許諾条項を全部読んで理解する忍耐力を養うことくらいなんでしょうか。

2002.12.1
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