JAZZは楽しむための下ごしらえが厄介なのかも。

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小説を飛ばす。

順三がジャズを聴き始めて、早一年半が過ぎた。
部屋のジャズのCDは100枚を超え、今まで彼が十数年かけて買った
POPSのCDの枚数に匹敵する様になった。
そうなると最初の頃の様に一枚のCDを一日に何度も聴く事が減ってきて、
アルバムに対する思い入れは薄くなってきた気もする。
特にあてずっぽで買ったCDの中には趣味に合わないのもあって
殆ど聴いていないのが何枚か出てきた。
ジャズと云ってもホントに色々なタイプのモノが一括りにされているので
「え?これがジャズ??」って云いたくなるアルバムもあった。
月に5枚くらいのCDを買ってるから、自分では今までの趣味の中でも
のめり込んでいる方だと思うのだが、ジャズはあまりに懐が深くて
未だに大きなCDショップに行くと知らないミュージシャンだらけで
戸惑ってしまう。
そんな時、やっぱり馴染みのミュージシャンに手を伸ばす結果になる。
だから100枚のCDがあっても、その内訳は、チャーリーパーカーと
キャノンボールアダレイとチェットベイカーとハンクジョーンズと
あと数人のミュージシャンと云った偏ったコレクションになっていた。
順三はお気に入りのキャノンボールの「LUGANO1963」を聴きながら
(一度、ちゃんと勉強しないといけないな。)
と思った。

次の休日、街の本屋さんに足を運んでジャズの本を探した。
結構大きな本屋さんだったので音楽関連のコーナーも
そこそこのスペースが割かれていて、ジャズ関係とおぼしき本も
棚の2段分くらいならんでいる。
彼は手当たり次第、目を通して行く事にした。
ジャズの歴史について書かれた本、
特定のミュージシャンについて書かれた本、
CDの紹介をメインにしてミュージシャンの紹介をした本、
おしゃれなエッセイ、
うんちくを書いてある本etc.…。
切り口は様々でパラパラ読みでも知らない事が沢山飛びこんできた。
その中で自分が今必要としている情報が何かを考えて見たら
・時代の流れ
・ミュージシャン
・名盤
この三点だと気がついた。
順三は沢山の本の中から一冊の本を選び出し、
それをレジに運んだ。

家に帰って、靴下を洗濯機に入れかけたが
まだ2時間くらいしか履いていないと思い、
もう一度履く事にして、畳んで元の引き出しに戻した。
順三は「MODERN ART/ART PEPPER(INTRO)」を聴きながら、
買ってきた本を読み始めた。
読み進めているうち、ジャズのスタイルの変遷が朧気ながら
わかってきた。モダンジャズは60年そこそこの歴史の中で
様々に形を変えながら進化している事を知った。
全体像がわかると、今まで自分が聞いていたミュージシャンの
ポジションが気になってくる。
チャーリーパーカーがモダンジャズを作った偉大な人だと云う事は
もう既に知っていたが、キャノンボールアダレイが1960年代の初め
ファンキージャズと云うスタイルで一世を風靡していた事を知り
ちょっと嬉しかった。

「もっと色んなミュージシャンを聴いてみなきゃな…。」
一通り読み終えた後、順三は独り言を云った。
今まで自分の好きなミュージシャンばかりを聴いてきたが、
もう少し聴く幅を広げる必要性を感じた。
クールジャズだのモードジャズだのと文字で書かれても
さっぱり実感が湧いてこないからだ。
実際に音を聴いてみる必要がある。
彼は、ペンで気になるミュージシャンやアルバムに
マーキングしながらもう一度読み返して見る事にした。
小一時間、CDが終っているのにも気付かないほど
集中してチェックしているうち、ある事に気がついた。
ジャズが新しいモノを取り入れて革新していく歴史の中で
重要なポイントになると必ず出てくる名前があるのだ。
「マイルスデイヴィス…かぁ。」
その名前はジャズを聴き始める前からでも知っていた。
マイルスのリーダーアルバムは一枚も持っていないけれど、
チャーリーパーカーのアルバム「スウェディッシュシュナップス」や
サヴォイレコーディングス」に参加していたのを聴いては、いる。
また、この間買ったキャノンボールの「サムシンエルス」は
レコード会社との契約の関係でキャノンボール名義になっているが
実質的にはマイルスがリーダーのアルバムだと云う裏話が
ライナーノートに書かれていた。
しかし、演奏の印象と云えば、オーソドックスな渋いプレイと
ミュートトランペットの音色くらいしか記憶にない。
ライナーでは賞賛しているマイルスアレンジの"枯葉"のイントロも
順三は何となくダサいと思っていた。
だからCDショップで彼のアルバムが沢山並んでいるのを見て
不思議に思っていたくらいだ。
「そんな凄い人だったのかぁ。」
少しびっくりしながらも、キーマンを見つけた収穫に満足した。
「よーし。今度はマイルスに手を出してみるか。」
しかしその決意が彼に大きな困惑をもたらす事になる。

順三はさっそく翌日に街のCDショップに行って
マイルスのアルバムをまとめ買いした。
一気に5枚もCDを買ったのは初めてだった。
家に着くと靴下を脱ぎ、昨日2時間+今日2時間で
洗濯しようかどうか迷いながら匂いを嗅いだが、
やはり限界点を超えていそうだったので洗濯機に放り込む。
彼は「マイルスな昼下がり」を過ごす事にワクワクしていた。
冷えすぎるくらい冷えたビールとロックフォールを用意して
臨戦体勢に入る。
買ったCDをCDショップの黄色い袋から取り出す。
クールの誕生
ウォーキン
カインドオヴブルー
ネフェルティティ
ビッチェズブリュー
今日買ったのは全て国内盤だ。
彼はライナーノートが読めるのでできるだけ国内盤を買う事にしていた。
それに包装してあるビニールも剥き易い。
日本人の丁寧な仕事がそこに見て取れる。
それにくらべて輸入盤は大抵どこからあけていいのかわからない上に
プラスチックのケースの一部に剥がしにくいシールが貼ってあったりして
剥がれ残ったり粘着液が跡になったりするのだ。
順三は5枚のCDの録音年代を見比べ、
一番古い「クールの誕生」から聴く事にした。CDのオビには
「若き日の帝王マイルスデイヴィス不滅の名作。
クールジャズの礎を築いたジャズ史上名高い傑作」
と、これ以上ない程の賛美の言葉が躍っている。
「ふうん。クールジャズかぁ。。何だかイカシてるねー。」
相変わらず前時代的ボキャブラリーな順三であったが、
クールと云う言葉のイメージ膨らませながらCDをセットした。
ところが、である。
流れてきた音楽はそのイメージと程遠いモノであった。
端正なアンサンブルによるミドルコンボの演奏で
響きにはハートウォームで楽しげな雰囲気が漂っている。
「どうしてこれがクールなんだ〜???」
疑問が頭の中を占拠し、音楽どころではなくなった彼は
解決の糸口を求めてライナーノートに目を移した。

続く「ウォーキン」は順三にとって実にしっくりくるアルバムだった。
彼が既に耳にしている「サムシングエルス」と雰囲気が似ていたからだ。
順三はマイルスのプレイに耳を傾けた。
彼のトランペットは決して饒舌ではないけれども、
一つ一つの音への執着心は尋常でない気がした。
特にバラッドプレイに於いて一瞬音程が外れているのではないかと
感じる様な音遣いにハッとさせられる時があった。
ただ逆にジャズらしいジャズを演奏しているこのアルバムが
歴史的名盤と殊更大きく取り上げられるのかわからなかった。
「どうしてこれがシンボリックな名盤なんだ〜???」
疑問が頭の中を占拠し、音楽どころではなくなった彼は
解決の糸口を求めてライナーノートに目を移した。

順三は3本目のビールをプシュッと開けながら
「カインドオヴブルー」を聴き始めた。
順三は今日買ったアルバムの中でこのCDに一番期待していた。
昨日買った本にも「モードジャズを世に示した歴史的名盤」として
大々的に取り上げられていたし、ジョンコルトレーンやビルエヴァンス、
そして彼の好きなキャノンボールアダレイが参加していた。
順三はモードジャズと云うモノが一体どんなモノなのか
聴くまでさっぱり分からないでいた。
クールの時と同じくモードと云う音の響きから
なんだか服飾専門学校的ハイセンスサウンドを
勝手に想像していた。
そしてアルバム冒頭の"SO WHAT"を聴き終わって…、
……さっぱりわからないままだった。
「この音楽のどこが新しいんだぁ???」
疑問が頭の中を占拠し、音楽どころではなくなった彼は
解決の糸口を求めてライナーノートに目を移した。

やや意気消沈しながら「ネフェルティティ」に取りかかる。
CDのオビには
「アコースティックマイルスの最後のスタジオ録音であるとともに
まさしくその到達点を示す超名盤」と、
何だか歴史的価値を感じる説明が書かれていた。
しかも「超」までついている。
期待の中、流れ出してきた"ネフェルティティ"は、
妖しい雰囲気の漂うスローナンバーだった。
しかしいつまで経ってもアドリブが始まらない。
ずっとテーマを繰り返しているだけなのだ。
「この音楽のどこが到達点なんだぁ???」
疑問が頭の中を占拠し、音楽どころではなくなった彼は
解決の糸口を求めてライナーノートに目を移した。

もうビールは5本目に突入していた。
順三はかなりヘベレケになりながら
最後のCD「ビッチェズブリュー」をプレイヤーにセットした。
もう彼の目は細かい字を読める状態になかったが、
CDのオビにはこう書いてあった。
「70年代音楽シーンを方向性を決定づけたマイルスミュージックの
一つの頂点を示す歴史的大傑作」
エレクトリックピアノと低音で蠢く木管楽器の気色の悪い絡み合いが
安っぽい8ビートとパーカッションに乗って流れてきた。
「うぉ〜。この音楽のどこがジャズなんだぁ??」
疑問と酔いが頭の中を占拠し、音楽どころではなくなった彼は
解決の糸口を求めるのも諦めてベッドにバタンと倒れこんだ。
そしてそのまま次の日まで深い眠りについた。
夢の中で順三は百の顔を持つマイルスの化け物に襲われ
逃げ惑っていた。


                                 つづく

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相も変わらず小説のコーナーになってしまってますが…。
尚、マイルスについて悪く書いているつもりではありませんので
ファンの皆様、夜中にマイルスの声でイタ電してこないでね(爆)。

このコーナーの「はじめに」のところで、
「群盲、象を撫でる。」と云う話をしました。
得体の知れないジャズと云う音楽は聴く人の趣向や
偶然出逢っていくミュージシャンやアルバムによって、
感じるトコロが十人十色だと思うのです。
でも中には、その象に触るのも億劫だと云う人もいる様です。
また恐る恐る触って見たらいきなり後ろ足で強烈な蹴りを喰らい、
それがトラウマになってしまった人も少なからずいる様です。
と云う訳で今回は、
「ものおじしない程度の知識を持とう」を合言葉に(笑)、
今までで一番ビギナーズ向けのコンテンツにしてみました。
エラソーに書いてますが、殆ど読み齧り、聞き齧りの知識です。
"見てきたような嘘を云い"ってな事にならない様に
できるだけ主観は抜きにして書いたつもりです。

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