第4話「連戦連笑」
     


岳は腹がよじれて、腹筋が痛い。腹の底から笑っているので、岳の腹筋が上下に動いている。それを見過ごさず、梨香はでこぼことした腹筋で出来た溝を筆でなぞっていく。へその辺りを触ると、まるで上から大きな力で押さえているかのように、岳の腹がへこんだ。
「ん?」
腹の動きを楽しんでいると、梨香はふと気づいた。
「宮本くん…、勃ってるやん。もしかして…感じてんの?」
梨香が意地悪く岳にたずねるが、岳は返答出来ない。
「そしたら、ここは…どやろか。」
今までは敢えて意識して触れないようにしていたが、腹を触る筆を右の胸の辺りをまさぐった。岳の胸の筋肉がピクピクと反応した。そして、梨香の筆の先端で乳首を弄んだ。カサカサとした筆は乳首を転がすように動く。
「んっ…は、はあっ。」
叫びのような笑い声の間に喘ぎ声が混じった。
岳は自分に乳首があることなど忘れていた。乳首があることは知っていたが、感じるとは思わなかった。感じる人がいるのは知っていたが、こんなにも自分の乳首が快感を得るものとは思わなかった。
「智子、そっち側も触ってみてや。」
「えー? 嫌やわ、そんなん。」
「面白いから。」
しぶしぶながらも、梨香の指示に従わねばならないので、智子は左側の乳首を筆でいじくった。梨香と智子が腋の下をくすぐっていて、ただでさえ体中が刺激に対して敏感になっているところに、左右の乳首を同時に責められて身悶えし、岳は恥ずかしい声がひねり出すように洩れる。
「がはっ、…んっ、はぁっ、ううう、ひひひ。」
恥ずかしくて岳はたまらなかった。乳首を触られて感じてしまう自分も恥ずかしいが、彼女たちに屈辱的に弄ばれていいようにされて抵抗も出来ず、体は反応し、よがってしまう自分が恥ずかしかった。
しかし、久美を愛撫しても、自分が触られたことは無いので、初めての性器以外の肉体の快感は精神の興奮に結びついた。また、女性に弄ばれているという背徳的な状況に興奮したのかもしれない。トランクスにくっきりと、形が分かる程、勃起していた。

次第に体がより強い快感を求めているのか、腰が浮いたりして戻ったりして、机に尻があたってしまってドスンドスンと小刻みに音がした。
「触って欲しいんやろか?」
乳首を弄び、よがらせている梨香は分かっている上で言った。
「いいんかな。」
千鶴は、さすがに最後の一枚を剥ぎ取ることに抵抗を感じた。
「いいやろ。いいよね…宮本くん?」
顔を覗き込んで梨香は尋ねるが、岳はその質問には反応出来なかった。
「いいみたいやで。」
クスリと笑いながら梨香がそう言うと、千鶴は足の裏をくすぐる手を止めて、先程腋の下を剃った時の安全カミソリでトランクスとを引き裂いた。
「や…、やめ…、はは。」
剥かれるのは嫌なのに、首を振るだけで岳は抗議の声すらあげられなかった。
いきり立っているのを見て、3人は驚いた。
「すごいな…。」
「やっぱり、下も濃いんや…。」
「あのさ…よく『先っちょだけでも』って言うやん。ということは、先っちょがいいんかな?」
実際見てみると、智子は興味が湧いてきた。
「どやろか…。」
「そしたらさ、千鶴は先っちょだけを筆でくすぐろうや。」
梨香と智子は未だ左右の腋の下と乳首をくすぐっていたので、手が放せなかったので、千鶴に任せることにした。
しかし、千鶴は剥ぐことは出来ても、触るのを拒んだ。
「なら場所変わるわ。」
梨香は半ば渋々、しかし嬉々として千鶴と位置を交代した。

梨香がおそるおそる岳の亀頭を筆で触ると、岳の体がビクンと痙攣する。
「う、う…ああっ。」
触ると岳が反応することが分かり、梨香は陰毛に触れないようにしながら、筆で亀頭を撫で続けた。
亀頭の端のところで筆がひっかかるとそこを丹念に触り、裏に筋があると知るとそこに沿って筆を動かし、たまに筆の毛先を尿道口に入れてしまったりしながら、亀頭の端から端まで触っていないところがないぐらいに梨香は撫で回した。
乳首も触られたことが無く、久美に責められたことが無い岳が亀頭だけを筆で触られることなど経験したことがあるはずなかった。
今まで感じたことのない快感に襲われた。まるで頭の中、脳味噌が掻きむしられているような快感を覚えた。亀頭だけを触られるのは止めて欲しいのに、それを止めて欲しくないといった、相反する感情が岳の中で渦巻いていた。
亀頭がみるみる紅潮し、肥大していく。
梨香は亀頭しか筆で触らない。あくまで梨香はくすぐっているだけで、射精させようとかは思っていないからだ。
そして、千鶴と智子の腋窩と乳首のくすぐりが絶頂感に到達させるのを鈍らせた。おそらく、亀頭だけを触られていたなら、即座に射精していたかもしれない。しかし2人のくすぐりによって、時おり亀頭以外のくすぐり感や快感が岳を占領し、亀頭の刺激に意識が背けることが出来たからだ。
そのことは、くすぐられていた時、岳の体がくすぐりに対して敏感になっていくのと同じく、岳は性的に高揚し敏感になっていった。
まるで射精するのを焦らされているかのようで、岳は身悶えた。しかし、彼女たちはくすぐっていると考えている上に、岳の体から発せられる臭いを拒んで直接触るということは、絶対にあり得なかった。
また、自分から「イカしてくれ」と懇願することは、こんな状態とはいえ岳の最後のプライドが許さなかった。剣道による精神の鍛錬により自分の欲求を抑えるということはある程度が可能だったからかもしれない。そして、そう望むことすら罪悪感に思えた。
射精して絶頂を迎えることは無く、絶頂を迎えて射精するしかなかった。
つまり、彼女たちが今していることを止めて岳が不完全燃焼のまま終わるか、岳自身が絶頂に達して射精してしまうしか、この焦らされる苦痛は終わることがなかった。


岳は身を硬直させた。3人は見逃してしまった。
「んっ。」
その時だった。横たわっている岳の体が一瞬痙攣した。
「えっ?」
亀頭を撫でていた梨香が驚いたので、千鶴と智子は千鶴の方を見る。
とうとう、絶頂に達してしまった岳は射精してしまったのだ。先端から精液が勢いよく発射された。それは宙で放物線を描くと、岳の胸の辺りから股間の辺りまで精液が一直線に落下した。
千鶴と智子はあっけにとられた。声に反応して梨香の方を見たら、次の瞬間、自分たちの方に精液が向かって飛んできたからだ。しかし、咄嗟のことで逃げることが出来なかった。精液は一方方向に飛んだので、2人の体にかかることはなかったが、乳首をくすぐっていた手に2人ともかかってしまった。
2人は手に何かが降り注いだ感触かあったので、梨香の方から自分たちの手の方へ視線を動かした。
「えっ? 嘘? 何これ。」
「ちょっと、待ってや。」
千鶴と智子は手に付いた精液を見て驚愕し、急いで洗面所に向かった。目の前でいきなり射精された梨香も驚いて、放心状態になっていた。出るとは分かっていたものの、突然の出来事に驚いてしまったからだ。
そして、今までに感じたことのない絶頂感は、今までに出したことのないほどの量と濃さの精液を放出させた。岳は恍惚状態にあった。未だにドクドクと脈打ち、白い泉のように溢れ出していた。

洗面所から教室に戻ってきた千鶴と智子は顔を背けた。教室中に精液独特の臭いが充満していたからだ。梨香が窓を開けていたのだが、それでも臭いはあまり分散していなかった。
「汚いなー。」
胸から股間にかけて、飛び散った精液まみれの岳の体を見て、千鶴は吐き捨てるように言った。岳の体からは汗の臭いと共に、精液の臭いで臭さが倍増していた。
少しでもその臭いを発生させない為に、精液には触れたくないし、拭き取ることは出来なかったから、3人はティッシュペーパーを精液が付着している体の上にかぶせた。
その作業をしていると、携帯電話の着信メロディが鳴った。


「誰のやろ?」
「智子の違うの?」
「私のやつ、こんなんと違う。」
3人は顔を見合わせた。全員違うということは、岳のであるということと分かり、千鶴が岳の鞄を開けると、鳴っている携帯電話を発見した。ディスプレイには電話をかけてきた人の名前が出ていた。
「私らを不快にさせた宮本くんには…、罰が必要と思わへん?」
嬉しそうに梨香が言うと、千鶴と智子は梨香が何を言わんとすることが分かったが、納得出来なかった。着信音はいつの間にか止んでいた。
「それは、いかんやろ。」
「くすぐって遊んでいるんとは次元が違うと思う。」
千鶴と智子は口々に反論した。しかし、それを衣に返さないように梨香は千鶴から携帯電話を奪った。
「私が指揮とることになったやん。最後までつき合ってもらうで。…それに、弱点にぎっとかな。」
「どういうことなん?」
千鶴が怪訝そうに梨香を伺う。
「仕返し、復讐…、もろもろに対して策をとっとかな、あかんということや。」
一理ある、と2人は納得した。ここまでしたのなら何らかの形での逆襲が予想されるので、弱みをにぎっておけばそれは無くなると考えた。
そして、梨香が指揮をとると賛同したのだから、従うしかないと考えた。
また携帯電話が鳴った。梨香はディスプレイを見る。また同じ人からの電話だった。

「クミちゃんからやで。」
梨香は岳の携帯電話を耳元に置いた。一時休憩状態にあった岳は、いきなりの久美からの電話に驚く。
『もしもし、岳。剣道の練習終わった?』
久美の声が携帯電話から聞こえる。そういえば、昨日久美が練習終わった頃電話をかけると言っていたことを、岳は思い出した。
『もしもし、聞こえてる?』
「ああ。」
岳は笑いすぎて疲労しているので、弱々しい声で言った。
岳が携帯電話で話始めたのを見て、3人は梨香と千鶴の位置を交代しなおし、最初と同じ位置について、またくすぐり始めた。
体の前面はティッシュペーパーで覆われているので、側面だけしかくすぐれない。けれども、腋窩、脇腹、足の裏がある側面が無事なら、くすぐるには十分すぎる程くすぐる場所が残っていた。しかし、今回は敢えてあまり笑わないように激しくはくすぐらない。
「ひゃっ、くく…。」
声しか聞こえない久美は、息を殺して笑う声からでは、岳が何をしているか分からなかった。
『どうしたん?』
「す…すまん、…ひ、今、ちょっと、…い、忙しいねん。…あ、後でかけなおすから。」
『…うん、分かった。』
息を絶え絶え話す岳に、久美は怪訝に思ったが、詮索のしようが無かったし、後で聞けばいいと思ったので諦めることにした。
電話が切れた。
岳は怒りをあらわにする。しかし未だくすぐられているので、はっきりとは話せない。そして話そうとしているので、息を殺した笑いになってしまう。
「ははっ…、な、何…考えてんねん。」
梨香だけくすぐるのを止めた。梨香は岳の耳元にある携帯電話を取り上げた。
「クミちゃんって、宮本くんの彼女なん?」
「なな…なんで…知ってんねん。くははっ…。」
思考能力が鈍っていた岳は思わず久実が彼女であることを漏らしてしまった。
岳のうわごとで確信は無かったが、おそらく久美は彼女だろうと睨んでいた梨香は、岳が自ら暴露したので確信を得たので、思っている行動を起こした。
千鶴と智子に目配せする。すると、2人は優しくくすぐっていたのを止め、激しくくすぐり始めた。
「ぎゃはははははっ。」
岳はたまらず大笑いする。

メモリーの中からクミという名前を探すと、梨香はそこに番号非通知で電話をした。
『もしもし。』
電話の向こうから久美の声がする。梨香はまた岳の耳元に置くと、黙りながらくすぐり続けている2人に、梨香もくすぐりに加わった。久美の声は岳にも聞こえたが、大笑いしていて久美に話しかけることは出来ない。
というよりも、話しかけたくなかった。自分自身がくすぐられて笑っているところを久美に聞かれたくなかった。
しかし、少しでも笑わないよう耐えてはいたが、三位一体のくすぐり攻撃に岳は笑わざるを得なかった。
唯一の救いは、電話回線を通しているので声が若干違う上に、岳のくすぐられて笑う声が普段の野太い声より高いこと、また久美自身が岳のくすぐりによる笑い声を聞いたことが無かったこと、そして電話が番号非通知であったこと、この3つのことにより、今電話をかけてきてきているのが、岳とは気づかなかった。
『…イタズラ電話は止めてや。』
電話の向こうで笑い声だけがするイタズラ電話に久美は苛立ちを隠さず、電話を切った。

切られたであろうと察し、梨香は携帯電話を岳の耳元から取り上げると、先程と同じように久美に電話した。
「ただいま留守番電話メッセージセンターに…。」
電話の向こうからは留守番電話に繋がるという音声ガイダンスが聞こえてくる。久美はイタズラ電話がまたかかってくると予測したのか、電源を切ってしまったのだ。しかし、それは梨香の思惑通りだった。
ピーという音と共に、留守番電話が録音を始めると岳の耳元に携帯電話を置いた。くすぐりは続いているので、必然的に岳の笑い声が留守番電話に録音されていく
「ぎゃははっ、うひひひ。」
力の無い笑い声は、下卑た笑い声に聞こえる。
録音時間が終わったと思える頃、梨香はまた久実に電話をかける。すると笑い声を録音する為にまた岳のそばに置く。
その行為は留守番電話の件数が満たされて、録音出来なくなるまで続いた。
その間、岳は自己嫌悪で心が占領されていた。くすぐられながら快感を感じ射精して、挙げ句の果てに久美に対する電話に笑い声を録音させないようする為に、笑うことを我慢できなかった自分が嫌でたまらなかった。
もう留守番電話も録音件数を越えてしまって、録音出来なくなっていた。

くすぐる方もくすぐられる方も体力が消耗しきっていた。
岳はぐったりとうなだれていた。
彼女らが何か話をしているのが何となく分かる程度で、岳は周囲の様子が分からない。ただ内からくすぐられ続けられているような感覚があり、くすぐりに未だうめいていた。
いつしか岳は眠っていた。



 第3話、「過笑評価」

 第5話、「多笑の縁」



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