「――まだ、時期ではないようね」
低く、囁くような声が、その洞窟のような場所に響いた。染みのようなものが、空中ににじみ出てくる。 それが黒いドレスをまとった白い肌の女の姿になるのに、そう時間はかからなかった。
「さすがに、転移したばかりでは、あのお方とてすぐには目覚めることはできないみたいだな」
女の背後から、声が響く。どことなく嘲るような、不快感をもよおすだみ声であった。
「――屍炎(しえん)?」
「そうだよ、黒水(こくみ)」
問いかけた女の声に、いらえがあった。やがて、まるで屍(しかばね)にまとわりつく燐のように青臭く汚らわしいほむらが立ち上り、そのちろちろといやらしく燃える炎の中から、一人の男が出現した。
不格好に背を丸めた、小さな男である。その顔は肉が垂れ下がり、ぶよぶよと気味の悪いできものがあちらこちらに浮かんでいる。
それはよく見ると、ひとつひとつが小さな人面をしており、恨み、憎しみ、悲しみをこめたかすかな声さえも発しているかのようであった。
黒水と呼ばれた女は、不快そうにその白い美貌をゆがませた。だが、血のように毒々しい赤い唇は、対照的に笑みを浮かべて見せている。
それを見て、小男は不愉快そうに鼻を鳴らした。
「ふん。黒水。てめぇ、俺さまと同じ四魔将のくせに、その不快そうな顔は何だ? ひとりくたばり損ないのじじいにかまけている暇があったら、少しは造魔の軍団を作るのを手伝ったらどうなんだ? ここでぼうっとしていたって、あの方はまだまだ目覚めることはないんだ。 目覚める前にやらねばならんことはいくらでもあるよな?」
「お前に言われるまでもないわ、屍炎」黒水は、あざけりと不快、そしてどこか哀れみさえこめて、屍炎に対した。 「天海による造魔造りの監視は、最重要事項だわ。あのお方も、それをまず願っている。 ――それより、屍炎。お前のほうこそ、どうなの? 少しは造魔の軍団を作れたのかしら?」
「俺は、陸邪(りくや)や魔風(まふう)とは違う。やることはやっているさ」
屍炎の醜い顔に笑いが浮かんだ。顔にできた人面疽が、気味の悪い金切り声をあげ、黒水は嫌悪感をはっきりと表して、顔を背けた。
「もう間もなく、俺さまの魔晶甲冑もできる。そうすれば、帝國華撃團だかなんだか知らないが、愚かな人間どものくだらん反抗など、大した意味はなくなる」
「そう? そうだといいんだけれど、ね。まあ、せいぜい、ありもしない実力を誇示して見せて欲しいものね。ほほほほほほ……」
嘲りをあらわに、黒水は高らかに笑った。屍炎は、その醜い顔をどす黒く染めた。
「黒水! てめえ、俺さまに実力がないというのかっ!?」
「口先ばかりで、まだ何もしていないからねぇ」黒水は侮蔑と嘲笑を隠すことをしなかった。 「屍炎。お前が口先だけのせむし男でないというなら、実際、やってみたらどう? その、帝國華撃團とやらを倒せるのだったら、私だって認めてやってもいいわ、お前の実力――それがあるというなら、ね」
「――よかろう、黒水よ」
屍炎は、醜い顔をさらにゆがませながら、頷いた。その小さな体が、燐の炎に包まれ、かき消えた。
「帝國華撃團を、皆殺しにしてやる! そうしたら、黒水! てめえを俺さまの前にはいつくばらせて、その白い貌に俺さまの人面疽を植え付けてやる! 楽しみに待っているがいいさ!!」
「――できるものならね」
屍炎の気配が完全に消えてから、黒水は、ほとんど聞き取れないくらいに小さな声で呟いた。 その美しい白いおもてには、まぎれもない憐憫が浮かんでいた。
「……はい、押さないで! 押さないで!」
「券をお持ちの方は、こちらへ並んでください!」
「当日券をお求めの方、申し訳ありませんが、立ち見になります!」
帝劇前では、かすみと由里が観客の誘導に忙殺されていた。 開演までまだ一刻ほどあるが、あまりの人の多さに、招待客を含めて半分程度、すでに劇場内に入れている。 だがそれでもまだまだ続く人の列に、彼女たちだけではあまりにも人手不足なので、米田の指示により、厨房に詰めているアルバイトやパート、はては黒子の一部に至るまで総動員して、行列の整理に当てられている。 押し合いへしあい、それこそ軍隊蟻のごとく長々と、永遠に続くかと思われる行列の整理は、はた目以上に大変であり、あちらこちらで客にもみくちゃにされた黒子があげる悲鳴や、飢えた狼のごとく当日券をめぐって争う客をなだめる声が、帝劇の中まで聞こえてきていた。
「……モギリの仕事でよかった……」
にこやかに券をもぎりつつ、大神はひそかにため息をついていた。 入場する客に応対しなければならない大神は、幸いにしてその地獄絵図のごとき戦場から逃れることが出来たのである。 大神のかわりとして神代が派遣されたのだが、人並み以上に身長が高いはずの彼でさえも、群衆の中に埋没してしまっていて、どこにいるのかわからない。 ただ、時折金赤色の髪の毛がちらちらと見えるのが、彼がまだ奮戦していることを示していた。
「……あ、あの……こんにちは」
事務的な笑顔で機械的にハサミを入れていた大神だが、そっとかけられた声に、ふと顔をあげた。 その目に飛び込んできたのは、繻子のようにさらりとした長い黒髪を流した、少女――四葉であった。
「ああ、いらっしゃい。四葉くん」
大神の顔に、事務的では決してない微笑が浮かんだ。
あの日以来、四葉は椿に会いに帝劇へと顔を見せるようになっていた。
はにかみ屋で人見知りが激しいらしい四葉だったが、椿が明るく紹介し、さくらたち花組の少女がかわるがわる話しかけたりしたおかげで、今ではだいぶ打ち解けたように微笑みを見せるようになった。
アイリスなどは、この「新しいお姉ちゃん」をひどく気に入ったようであり、四葉が顔を見せるたびに楽屋や自分の部屋へと連れていき、ぬいぐるみで遊んでくれるように頼むのだった。
そしてなにより、最近元気がなかった椿が以前のように明るい輝くような表情を見せるようになり、ひそかに心配していた由里やかすみたちもほっと胸をなで下ろし、四葉に感謝したのである。
その感謝も込め、大神たちは四葉を今回の記念公演に招待したのであった。
四葉の差し出した券を切りながら、大神は優しい声を少女にかけた。
「椿くんも君が来るのを心待ちにしていたよ。今日は楽しんでいってくれ」
「は、はい……」
白いおもてに朱を散らせて、四葉はぺこりと頭を下げた。大神が返す半券を受け取ると、人込みに押されるようにして劇場内へと向かう。
人の流れの中、頼りなく歩くその小さな後ろ姿を見送って、思わず大神は考え込んだ。
「……ついていったほうが、よかったかな?」
「……心配ですか、四葉ちゃんが?」
「まあね……って、いいい?」
軽く頷いた大神だったが、声をかけてきたものを見て、思わず顔がひきつった。 小道具らしいあや織りのフードで顔をかくしたさくらが、いつの間にか大神のすぐそばにまでやってきていたのだ。 ハシバミ色の瞳が何やら剣呑な怒りをはらんでじっと大神に向けられている。
「……ほんと、大神さんて、綺麗な娘に弱いんですね?」
「い、いや、あれはただ、四葉くんが危なかしくて……」
「そうですか」
さくらはほとんど大神の言葉を信用していなかった。ふくれっ面でぷいと顔を背け、すたすたと立ち去ってしまう。
「あ、ちょっと……」
追いかけようとした大神だが、「ちょっとアンタ、早くしてよ!」と、券を片手に殺気立ってきていた客に、強引に引き戻された。
(あとできちんと説明しておかなければ……)
内心の焦りを極力出さないようにして、大神は再度モギリの仕事に戻った。
帝劇の復興記念公演は、無事に終了した。
途中、いくつかセリフの間違いなどがあったものの、花組の少女たちの熱演は訪れた人々の心をとらえ、盛大な拍手と歓声が、カーテンコールの中、劇場内にいつまでもいつまでも響いていた。
「……やれやれ。ようやく一段落したな」
盛大にぼやきながら、神代が大神へと話しかけてきた。昼の部の公演が終了し、全ての客を劇場外へと送り出した後である。 夜の部の公演に向けて、今、劇場内は清掃作業に入っていた。花組の少女たちも、公演の疲れをいやすために、各々、部屋やサロンで休憩を取っているころである。
「ごくろうだったな、神代」
モギリ取った半券を整理して紐で留めながら、大神は神代へと声をかけた。
大神と同様、帝劇の従業員服に身を固めた神代であったが、津波のように押し寄せてきていた客にもみくちゃにされ、服の縫い目がほつれて乱れ、はじけとんだボタンが垂れ下がっている無残な姿である。
きれいになでつけられていた金赤色の髪もぐちゃくちゃにかき回され、袖をまくりあげていたためか、むきだしの腕には何カ所にもわたってミミズ腫れが走り、血が滲んでさえもいる。
そんな彼を見て、あらためて大神は、「モギリでよかった」と思わざるをえなかった。
「お疲れさまでした、大神さん、神代さん」
柔らかな声が、かかる。二人が見ると、かすみがお盆に急須と湯飲みを載せてこちらへとやってくる所だった。
「やあ、かすみくん。君たちも大変だっただろう?」
「ええ、まあ」
モギリ用の机の上に盆を置き、優雅な手つきでお茶を入れながら、かすみは微笑んだ。
「でも、私たちは主に当日券の販売でしたから。それに、神代さんがお客様を整理してくださったのでとても楽でした。 乱暴なお客様にも対応して頂きましたし、ありがとうございます」
「いや、別にお礼言われることでもねぇけどよ」
鼻の頭をかきながら、神代はやや照れたように笑った。
「何があったんだ?」
興味をそそられて大神が訊ねると、神代ではなくかすみが慌てたように手を振った。ほんのりと白い頬に朱がさした。
「い、いえ、別にたいしたことでは……」
「いやね、どさくさにまぎれてかすみちゃんに言い寄ってくるやつがいてよ。かすみちゃんが迷惑そうだったから、そいつをちょいとばかりどけてあげただけさ」
「こ、神代さん……迷惑だったなんて、そんな……」
「ん? もしかして、かすみちゃん、あの男に気があったのかい? そんならそうと言ってくれりゃあ、俺も野暮な真似はしなかったんだが……」
「ち、違います!」
ますます顔を赤らめてかすみが言うのを見て、大神は思わず小さく吹き出した。
「な、何を笑ってるんです、大神さん!?」
「いや、悪い、悪い。――けれど、かすみくんには、好きな人はいないのかい? 好きな人がいるなら、そう言ってあげればいいのに」
「い、いませんわ、そんなひと……」
かすみは恥ずかしそうに頬を染めて目を伏せた。そして、やにわに「失礼します」と声をかけて、駆け去ってしまった。
それを見送って、神代はにやりとした顔を大神に向けた。
「やれやれ。逃げられちまった。残念だったなぁ、告白が聞けなくて。
かすみちゃんも、あれだけきれいなんだから、好きな人がいたって不思議じゃないんだが……な、大神?」
「ああ、そうだな」大神もちょっと笑って、お茶を飲んだ。「かすみくんほどの女性なら、男ならほうっておかないだろうに」
「――あら、大神さんも、ほうっておかないんですか、かすみさんを?」
ふいに聞こえてきた声に、大神はあやうく口に含んだお茶を吹き出すところだった。 むせかえりながら、大神は声がした方へと顔を向けた。視界に飛び込んできたのは、二人の少女の姿だった。
「よう、椿ちゃんに四葉ちゃん」
軽く手を挙げて、神代が答えたが、椿は少しばかりムッとした様子で、大神を見た。 その傍らで、四葉が不思議そうな様子で、椿を見ている。
「よう、二人とも、おしゃべりは楽しかったかい?」
げほげほとむせ返っている大神にかわり、気を引こうというのか、神代が微笑みを浮かべて少女たちに聞いた。
「あ、はい……おじゃましました」
ムッとした顔を崩さない椿にかわって、おどおどとした様子ではあったが、四葉がぺこりとお辞儀をした。
昼の公演が終了し、夜の部までのほんのひととき、椿は四葉と共に宿直室でおしゃべりをしていたのである。
あと数刻のうちに開演する夜の部の支度もあるため、こうして売店へと戻ってきたのだった。
「……で、そちらのお嬢ちゃんは、いったい何を怒っているんだい?」
ちゃかした様子で神代が問いかけると、椿はぷいと顔を背けた。
「何でもありません!」
「……やれやれ」
神代はぽりぽりと頭をかき、そして、ようやくせきが止まった大神をどやしつけた。
「おい、大神。あやまれや」
「ん? なんでだ?」不思議そうに首をかしげて、大神は神代を見た。「何か俺、あやまるようなことをしたか?」
「……おめぇ、ほんとに鈍いな? おめぇが、男ならかすみちゃんをほうっておかないって言ったからだぜ?」
「?」大神は、間の抜けた表情になった。「それがどうした?」
「……だから、な?」神代はぐいと身を乗り出し、大神をにらみつけた。「おめぇがそう言うってことはだ、おめぇがかすみちゃんに気があるって意味になるんだよ」
「…………へ?」
かなり呆然とした様子で大神は神代を見ていたが、納得のいかない顔で、再度言った。
「どうしてそれが、そういうことになるんだ? 別に俺は、かすみくんに気があるわけじゃあないんだが……」
「……よかった」
その大神の言葉に、なぜか椿は、ほっとした顔を見せた。隣できょとりとした瞳で、四葉が椿を見た。
そして神代は、やれやれといった顔で、大神の肩をたたいた。
「だったら、思わせぶりなことを言うなよ。おめぇ、ただでさえ鈍感なんだから、おかしなこと口走ると、女の子たちが誤解するんだよ?」
「そうなのか?」
「そうなのそうなの!」ため息をついて、神代は椿に顔を向けた。 「なあ、椿ちゃん。こーゆー鈍感なやつ、やめない? やきもきするだけだぜ?」
「え?」
驚いたように、椿はきょとん、と神代を見た。彼女の顔には、何がどうなっているのかわからない、といったような、不思議そうな表情が浮かんでいる。 それは、まだ何も自分の想いに気づいていない、純真無垢な乙女の表情だった。
「……ったく、まじでいやになるぜ」
かぶりを振って、神代は大きくため息をついた。 そして、話題を変えようというのか、先ほどからおどおどと彼らの会話する様子を見ていた四葉に話しかけた。
「それはそうと、四葉ちゃん。今日は、これで帰るの? 夜の部は、見ていかないのかい?」
神代が声をかけると、黒髪の少女は小さく首を振った。
「いえ……帰りが遅くなってしまいますので……」
「そいつは残念だなぁ」
「……」
悲しげに顔を曇らせる四葉を見て、神代は何かを考えついたようだった。小さく一つ頷くと、椿へと顔を向けた。
「なぁ、椿ちゃん。四葉ちゃんを、家まで送っていったらどうだ?」
「え?」
椿は、茶色の瞳を丸くした。それをのぞき込むように腰をかがめ、神代は椿の肩をたたいた。
「売店の整理なんて、この鈍感野郎の大神にまかせてさ。この子を送ってってやんな」
「……おい、神代。それはないぞ」抗議の声を大神はあげたが、それでも神代の提案には賛成だったらしい。 神代の襟首を捕まえて、つけ加えた。「お前も売店の整理を手伝うんだからな!――だから、椿くん、安心して四葉くんを家へ送っていきなさい」
「で、でも……」
「なんだ? 四葉ちゃんと一緒にいたくないのか?」
「そういうわけじゃありませんけど、大神さんたちに悪いし……」
「そ……そうです、私、一人で帰れますから……お気遣い、ありがとうございます」
口ごもった椿のかわりに、四葉が小さな声で、それでも精一杯の力を込めて、答えた。神代は軽く苦笑した。
「椿ちゃん。人の親切は素直に受け取るもんだぜ。四葉ちゃんもそうだ。君だって本当は、椿ちゃんともっといたいんだろ? だったら、俺の言うことを素直に受けてくれや」
「でも……」
それでもまだ遠慮があるのだろう、椿と四葉は顔を見合わせ、ためらった。 それを見て、神代は乱暴に片手で頭をかきまわした。
「ああ、ったく。――おい、大神、おめぇからも言ってやってくれ!」
「ああ」小さく頷いて、大神は真剣な表情で椿に対した。
「椿くん。君が心配するのも無理はない。この、歩く不器用の神代に商品の整理をさせようというんだからな。
――だが、俺がついている。ブロマイドを汚したり、記念のポスタァを破かせたりはさせない。
だから、安心して四葉くんを送ってってくれ」
「ああっ、てめえ、言うにことかいて、何だそりゃあ!? 俺がいつそんなことをしたかよ!?」
抗議の声を上げる神代を、大神は横目で眺めた。
「お前は昔から大雑把だからな。覚えてないとは言わせないぞ? 俺の大切な置物を掃除のときに壊しただろう?」
「てめぇ、まだ根に持ってたのか? ちゃんと謝ったじゃねぇか!?」
「とぼけた調子で『ま、気にするな。形あるものはいつかは壊れるってこった』と笑いながら言った言葉が、謝ったことになるとは知らなかったな」
「――物事の真理をしっかりと見ることができる奴なら、謝っているんだってわかるさ。俺はおめぇを高く買っているんだぜ?」
「お前自身が相場が安いからな。高く買われても、うれしくもなんともないぞ?」
皮肉を応酬しあう大神と神代の様子を、椿は目を丸くして眺めていたが、やがて、くすくすと笑い声をもらし始めた。 そして、晴れやかな笑顔で、さらに低レベルの皮肉の応酬を始めた大神たちに声をかけた。
「わかりました。大神さん。神代さん。私、四葉ちゃんを送っていきます!」
「……おう、そいつはよかった」神代がにやりと笑って、大神の頭を小突いた。「この鈍感野郎の世話は任せて、行ってきな!」
「何が鈍感野郎だ。――椿くん。この、性根からアバウトな奴は、しっかり監督しておくから、安心していいぞ?」
「は、はい!!」
くすくす楽しそうに笑いながら、椿は頷いた。明るく輝くような笑顔で、ぺこりと頭を下げ、そしてまだためらっている四葉を促して、帝劇の玄関へと歩き出した。
「……かわいかったなぁ、椿ちゃんの笑顔」 それを見送りながら、にやにやと相好を崩して、神代は笑った。 「あの笑顔を見れただけで、売店の整理を引き受けた甲斐があったってもんだぜ」
「そうだな。元気になって、よかったよ」
大神も頷く。二人は顔を見合わせ、照れくさそうに笑いあった。
「さあ、商品の整理をしようか、神代」
「ああ、そうだな。とっとと片づけないと、椿ちゃんに怒られちまわぁ」
大神と神代は、売店の中へと入り込み、そして、てきぱきと、とは言い難いものの、商品の整理と夜の部のための展示の準備を始めたのだった。
だが、結局二人は、その仕事を終えることはできなかったのであった――