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 第6章 沖縄県 太平洋上の南大東島(2001年 1月)
     19.首里04 竜に守られた首里城正殿

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☆これまでの旅☆
いよいよ首里城にやってきた。琉球の城はどんな感じだろう。なにはともあれ
目の前の首里城に登ってみよう。守礼門にはじまり、次から次へと門を抜け、
上へ上へと上がっていくと、とうとう到着、奉神門。もうすぐ正殿だ。
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●奉神門から御庭

 首里城の入場料は800円。コンビでもらった二千円札で払う。意味はないが、
やはり琉球に縁のあるところで使いたい。
 さて、正殿へ通じる最後の門が奉神門だ。出入口は3箇所あり、中央の高い
門は国王や賓客が、左右には家臣たちが使用した。見た目の通り、中国の紫禁
城と同じだ。もちろん規模はかなりちがうが。
 そして、中央の門でチケットをもがれ、奉神門を抜けると、御庭と呼ばれる
空間が広がる。
 御庭は冊封の式典などの儀式や、芸能、踊り披露の舞台となった重要な空間
だった。四角い空間ながら方形でないのは、建物の度重なる再建や地形上の制
約によるといわれる。
 御庭の中央付近、奉神門から正段へ通じる道は浮道(うきみち)といい、神
聖な道とされていた。その左右には茶色と白のストライプ模様が続く。茶色は
陶器、白は琉球石灰岩を敷いたもので、儀式を行うときの諸官の位置、式具の
レイアウトの目安として工夫されたものだ。
 以前に来たときは気付かなかったが、よく見ると御庭は台形のように感じる。
歩いて確かめてみると、やはり四隅すべて直角ではない。
 資料によると、東西約40メートル、南北約44メートルの広場ということだ。
やはり、方形ではない。
 正殿があるのは山の頂上、場所には限りがある。そこで、正方形に見え、さ
らに奥行きがあるように見えるよう設計されたものだろう。
 当然、浮道も微妙に西側へ向いているし奉神門の正面には正殿の中央はない。
 しかし、見るものの視点がよく考えられた御庭は、奉神門を抜けると正殿中
央が正面にあるように見えるように工夫されている。

○奉神門
奉神門

●正殿を見上げる

 首里城は5年ぶりだったが、少しづつまわりの雰囲気が変わっていた。やは
り世界文化遺産に登録されたことで盛りあがっているのだろう。
 首里城は、日本の城のように、丘の上に向かって右へ左へといくつもの門を
くぐり、複雑な縄張りをぬけていく。そういえばチベット寺院も同じつくりだ
った。つまり、外敵から守るための場所だということだ。
 首里からちょっと離れた那覇で一番高いところから見ると、まさに日本の城
のようだった。ただし、本丸に当たる建物は、赤い色をした中国風の建物だが。
 その正殿の前で柱状の竜が向かい合っている。狛犬と同じ役割なのかもしれ
ないが、向かい合っているのが狛犬とはちがうところだ。
 正殿に向かって右の建物は、平屋建て部分は番所、二階建て部分は南殿で、
内部の廊下でつながっている。
 番所は城内の行政施設の表玄関 で、受付・取次が行われた。南殿は日本の
書院風の造りで、年賀の儀式、節句、八朔など日本式の年中行事を行う場所だ
った。近世には薩摩の役人たちの接待所としても使われたという。
 番所・南殿は正殿や北殿のように塗装された記録がなく、現在も白木のシン
プルな外観となっている。
 北殿・南殿の内部の一部は首里城に関する展示が行われ、朝拝御規式(ちょ
うぼおきしき)や冊封儀式の模型が展示されている。
 沖縄のことについてとなると、県立博物館だろうが、簡単だがここでも首里
城、つまり尚氏を中心とした歴史を知ることができる。

○首里城全景(弁ヶ嶽より)
首里城全景(弁ヶ嶽より)

●竜に守られた首里城正殿

 正殿は朱色に覆われた中国式の建物で、屋根の鴟尾のあるあたりに竜の頭が
ある。とてもきれいだ。
 ただ、中国式とはいえ、正面が唐破風という日本の寺院などと同じという特
徴的なつくりになっているところが、日中の文化が融合している琉球らしいデ
ザインだ。
 しかし、これは復元された姿だ。太平洋戦争のとき、このあたりはアメリカ
軍の艦砲射撃を受け跡形も無くなった。もっとも、それ以前に主がいなくなっ
た首里城はかなり痛んでいたとも聞くが。
 この正殿は政務や儀式を行う首里城でもっとも重要な建物で、国殿、百浦添
(ももうらぞえ)御段などと呼ばれた。尚真王時代の創建と伝わる。
 この正殿は、内外あわせて33体もある竜の飾りが大きな特徴だ。竜は国玉の
シンボルで、邪悪なものをはねつけると考えられていた。
 首里城を守護するこの33体の竜のうち、屋板の頂上左右と唐破風の上の竜頭
棟飾り、計3体は特に大きく、よく目立つ。
 いずれの竜も爪が5本でなく4本なのは、中国の冊封のした、琉球王に許さ
れた竜は4本爪だ。
 正殿正面に向かい合って立つ一対の大竜柱は高さ3.1メートル、沖縄独特のデ
ザインだ。竜がデザインされた柱は中国にも見られるが、それらは福州園の竜
柱のように、柱のまわりに竜が螺旋状に巻き付いているものだ。
 ところが首里城の大竜柱は垂直に立てた胴体自体が柱になっていて、下部に
尾を巻きつけた独特の形をしている。

○首里城正殿
首里城正殿

●主を失った首里城

 しかし、琉球処分後の首里城は兵舎として使用され、御庭には兵器が置かれ
た。
 その後、いくつかの学校の校舎として使われたりしたが、戦時中は城の地下
に日本軍(第32軍)の司令部壕が掘られていたため、米軍の猛烈な攻撃に遭い、
壊滅的な被害を受けた。
 米軍統治時代の1950年、米軍ほこの地に琉球大学を創立したが、1982年に新
キャンパスに移転すると、首里城復元が具体化し、本土復帰20周年の1992年、
再建された。
 復元にあたっては、どの時期のものを復元するかが大きな課題となったが、
位置、大きさ、素材とも1712〜1945年(尚益王〜昭和20)のものに決定。
 設計委員会は1768年の工事記録をもとに3年以上も考証を重ね、北京の紫禁
城、ソウル景福宮へも調査へいった。これは、NHKの「プロジェクトX」で
も取り上げられたので知っている人も多いだろう。

○中国紫禁城の太和殿(2001年)
中国紫禁城の太和殿(2001年)プロジェクトX〜挑戦者たち〜
 「これまでの放送内容」の2002年2月5日放送分

●正殿の中

 この竜に守られた正殿は外から見ると2層だが、内部は3階建てになってい
る。といっても、日常的に使われるのは2階までで、3階は風通しをよくする
ため設けられた低い屋根裏部屋だ。亜熱帯気候の沖縄ならではだ。
 建物内の一階は下庫裡(しちやぐい)といい、国王や重臣たちが重要な儀式
や会議を行う行政の場。国王が座る玉座、御差床(うさすか)があり、背後に
は国王専用の「おちょくい」と呼ばれる階段があり、そこを通じて2階へ行く
ことができる。
 御差床の前に床の一部がガラスになっていて、建物の基礎の遺構を見ること
ができる。遺構の上に立てられているので、実際の基礎が眺められるようにな
っている。

●王の接見

 おちょくいで国王が上がる2階は正殿の中でもっとも格式が高いところで、
大庫裡(うふぐい)と呼ばれる国王の私生活や祭礼の場だった。1階は政治の
場で男性社会とすると、2階は祈りの場で女性社会。国王、神女、親族以外の
男性は役人も含めてここには入れなかった。
 2階にも御差床がある。一つの建物に玉座が二つあるのは珍しいが、こちら
のほうが豪華絢爛だ。二千枚の貝が貼られた背もたれ部分は上中下に分かれ、
一番上には瑞雲と太陽、中央は竜、最下部は波と島が描かれている。
 御差床の前方にある畳敷きの間は唐玻豊(からふぁーふ)といい、唐戸を開
けて御庭を一望に見渡す、いわば国王のバルコニー、謁見台だった。
 この南大東島の旅の後で、北京の故宮に行って感じたことがある。皇帝が接
見に用いたといわれる太和殿の玉座が、なんだか小さく見えた。首里城の2階
からの接見の方が威光を感じるような気がしたのだ。もちろん、城自体の規模
はまったく、比べようもないほどちがうのだが。

●北殿

 正殿に向かって左の平屋の建物で、正殿と同じく尚真王時代の創建と言われ
ている。首里王府の行政施設だったが、冊封使が訪れると接待所として使われ
た。
 1853年(尚泰王代)に上陸したアメリカのペリー提督一行を応接したのもこ
の北殿だったといわれる。
 現在は、展示、映像、売店・休憩などのコーナーになって、ここだけでしか
見かけないようなお土産もある。
 特に、首里城の図録はいい。復元された首里城の各部分がカラー写真で載っ
ている。現在も修復が進んでいる首里城なのでわりとまめに改訂版を出してい
るようだ。
 展示コーナーでは首里城の年間の諸儀式や城内の生活などを紹介している。
映像コーナーでは首里城の建築にまつわるエピソードなどが、ビデオで放映さ
れている。とりわけ首里城復元までの設計や調査の苦労をまとめた番組が興味
深い。プロジェクトXのようだ。
 みやげ物コーナーから外に出るとそこは展望台。遠くに東シナ海を見ること
ができる。

●つづく●
                   Copyright 2004-2005 Fieldnotes.
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