けものたちのハナシ より続く

 

歯の原点は 山葵の卸し金

歯は魚の皮膚に由来します。魚類は、えらで呼吸する無顎類、棘魚類、板皮類、軟骨魚類、硬骨魚類からなりますが、無顎類の甲皮には象牙質様の構造があり、このものが歯の起源です。

棘魚類から口に歯を持つようになりました。サメなどの軟骨魚類のうろこである楯鱗にはエナメル質もあり、山葵をおろすのに使うほどで、歯と同じ構造を持っているので、皮歯とも呼ばれます。(1159) 

歯のようでも 歯ではない、 ベンベン。

歯のモドキ(類歯)は、無脊椎動物に見られます。それぞれキチン質、珪酸質、石灰質から成り立ちます。キチン質では、ゴカイやワムシの仲間、昆虫の口、ザリガニの胃にあるものなどです。

珪酸質では、ある種の軟体動物が持つ歯舌です。草食性の腹足類は噛み砕き、肉食性のは引き裂く機能を持ちます。石灰質では、ウニの咀嚼器官の5つの顎錐の内に、棒状の軸の尖端が出ているものです。(6928) 

もとはといえば 皮膚のブツブツ。

皮膚の突起物には2種あり、一つは角質のもので、毛や爪や羽や嘴など、上皮から派生するものであり、も一つは石灰質で、体の表面を保護する外骨格を構成するものです。

石灰質のうち、真皮だけから出来るのは、硬骨魚類の鱗などです。真皮と上皮からは、軟骨魚類の楯鱗などです。進化の過程で、楯鱗は口の中に局在するようになり、体表の保護ではなくて、食べ物を捕食する役割を新たに得ました。(6928) 

口じゅうハだらけ ヤツメウナギ

口腔粘膜からも、皮膚と同じように突起物が形成されます。口腔粘膜の突起物で、角質から出来るものには、ヒゲ鯨のひげや、お玉じゃくし、カモノハシなどやヤツメウナギのモドキのハがあります。

ヤツメウナギには唇も口腔も舌にもハがついています。唇にはとがった単純なものが同心円的に何列か、口腔には上下2枚の板に、舌には小さく舌そのものの上に位置します。これらは上皮から出来た突起物です。(6928)

定義 歯とは何ぞや          

口腔粘膜の真皮と上皮からなる突起物が本当の歯といえます。つまり歯は必ず2つの胚葉から発生するのです。中胚葉では外側から内側へ、外胚葉では内側から外側へと成長します。

つまり、歯とは、極度に硬い器官であり、真皮と上皮に起源を持ち、消化管の入口に位置し、食物をつかみ、固定し、引き裂き、或いは砕くための器官です。(6928) 

歯はどこにあるのか

 

歯は消化管の入口に集中していますが、魚類から爬虫類、哺乳類へと進むにしたがって、歯の分布範囲は限られてきます。魚類の口の中は、骨のある部分には歯があり得ます。

爬虫類では、ニシキヘビなどは、下顎に1列、上顎に2列の歯列弓があります。トカゲやワニでは上顎も1列となり、哺乳類もそうです。こうして歯は進化につれて口の周りに局在してきます。(6928) 

歯を数えると

魚類、爬虫類は多くの歯を持っています。一般に下等な脊椎動物より哺乳類のほうが少なくなっています。歯が局在するのと、顎が短くなったせいです。

多歯性哺乳類は、イルカの200歯、ネズミイルカの100歯など。貧歯性は、魚類ではフグ、爬虫類では毒蛇の類。チョウザメは子魚期に歯がありますが、成魚になると歯無しです。(6928)

もう一度生え換わればいいのに

生歯の回数は、魚類では100回近く、爬虫類、たとえばワニは約25回、ヘビもその程度。哺乳類へと進化するにつれて、歯の交換は少なくなり、哺乳類の基本は2回の生歯です。

歯の生えかわりが無いアリクイ、ナマケモノなどの貧歯類、鯨類のハクジラ、長鼻類のゾウなどの場合も、乳歯系または永久歯系のどちらかが、一方的に発達して、他の系が消失したものといわれます。(6928)

なぜ何度も生えてはこないのか

歯の交換様式も、次に代わる歯が今の歯の内側に並んでいるという側方交換様式から、乳歯の下から永久歯が生えてくるという垂直交換の方式になりました。これなら1回の交換ですむわけです。

 

数が多くて場所を取り、形も単純でただ掴むだけの役目の歯である、多生歯から、垂直交換の二生歯へと、体の発育に歯を対応させ、機能も充実した仕組みとなりました。効率化とでもいいましょうか。6928)

ハ、メ、そして…

ヒトの体には、中年を過ぎると各臓器の萎縮を伴った機能の衰えが見えてきます。俗にハメマラといいますが、老年期に見える老化現象も、たとえば老眼も、目の調節力の低下は、少年期から始まり、絶え間なく進んでいます。

本来の老化現象は生涯を通じての連続的な機序であり、決して老年者にのみ見られるものではありません。生理的老化は、生物すべての恒常的、普遍的な年齢変化です。(7941) 

いたずらに馬齢を重ね

硬い歯ですが、使っているうちに磨り減ってきます。の切歯は、硬い草をかみ切るために複雑な断面をしていて、真中にくぼんだ黒窩があり、エナメル質が取り巻いています。

黒窩があれば5歳まで、エナメル輪のみは6,7歳、歯髄腔の星が出て8,9歳、エナメル質反転が消えて15歳ごろ、歯の星が円から楕円になると18歳以上の老馬だそうです。(1159)

歯でわかるあなたのお歳

人間の歯から、その年齢を推定する方法は、たとえば、歯冠の咬耗、歯髄腔の第二象牙質、歯槽骨の吸収、セメント質量、象牙質透明化、歯根の吸収の各項目の変化の度合いを見ます。

各項目を0〜3ポイントに評価し、その合計ポイントで判定します。たとえば、0ポイントが12歳、10ポイントで50歳半ばといった具合です。(3323) 

齢はHistory

齢は、よわいと読みます。植物は年輪で知ることが出来ます。一般にけもの類は、歯のセメント質に灰化の年周期である年輪を持っています。さて、私達は、容易に知ることが出来ます。…戸籍謄本で。

どこの誰か分らぬ歯だけから、その咬耗の程度で年齢を推定する方法もあります。よわいは、正しくはヨハヒです。世と延(はひ)で、この世でおまんまを頂いたヒストリーです。(3323) 

ついでに、歯でわかるあなたの性別

 

歯の幅、歯冠近遠心径を使った性別判定法です。大腿骨を使った判定は96%の的中率ですが、骨は破損しやすく計測できないことがあります。的中率77%の歯による性別判別方程式は次ぎの如し。

=1.493X1-0.940X2+1.374X3-0.545X4-0.986 +0.601X6-13.935(X1〜4はそれぞれ上顎犬歯から第二大臼歯までX5〜6は下顎第二小臼歯、第一大臼歯の幅)。 Yがマイナスのとき女性です。(6523) 

ついでに、ヒトとウマの顔

頭は、頭蓋骨(脳頭蓋)と顔面骨(顔面頭蓋)とに分けられますが、ヒトでは脳がよく発達しているため、ヒトの脳頭蓋は顔面頭蓋に対して4倍の大きさがあります。

これが類人猿ではほぼ同じ大きさ、ウマでは、なんと5分の1程度です。そしてヒトは、頭の横幅が広くなっており、口蓋の幅も広がり,歯弓も広がって半円形で、舌の運動範囲が広いのです。(6334) 

脳と顔と顎のソウカン関係

一般に脳と顔面の大きさは反比例して進化するといいます。チンパンジーは、脳の大きさに比べて巨大な顔面構造を持ち、とくに顎が著しく大きいのです。

ヒトの顔の縮小変化は、主として顎の退化によって引き起こされたようです。顎の機能量は火の使用と共に低下します。肉食の導入、火の使用、道具の発達が、食生活を向上しました。(1551) 

食物の変化と歯の退化

の退化と顎の退化とは、同時に進行するものではありません。歯の退化が先ず起こり、これが顎の退化を促し、咀嚼筋群を退化するという考えがあります。

又、食物が変わると、咀嚼機能の量が減少するので、筋群や顎の縮小が起こり、退化として定着し、一方で歯は完成すると機能的な影響を受けないので、後で退化するとも考えられます。(1551) 

八重歯がふえてきた

顎の縮小は、歴史時代にも続くが、化石時代に小さくなった歯は、この時代にはむしろ大きくなり始め、この結果、歯と顎の大きさの不調和は、歴史時代を通じて増大します。

これは、食生態の変化の影響が、単に顎の機能量の低下だけでなく、栄養の向上による歯の大型化にもつながるという考えもあります。だが、これは歯列弓長の増大でカバーされています。(1551) 

宇宙人の顔か 原人の顔か

食文化の展開によって起こった、歯と顎の不調和と歯の汚れは、近い未来の咬合の崩壊を予測させます。すでに一人歩きしつつある文化の流れを変えることは困難です。

宇宙食のような新しい食文化の成立を図るか、ヒトの顔の美に関しての社会的淘汰の点も考慮しながら、食生活のもう一歩進めた変容がいま必要とされます。(1551)

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