明治大正時代の月斗句 01

 

はじめに                

 

今井柏浦が、子規没後より大正末に及ぶ日本派の俳句の「時代的変遷及びその進境を示す」目的で、長期間継続的に主要なる新聞雑誌等に発表された多くの句を渉猟し、そのらの句の中から選び出した類題句集のシリーズでは、月斗(当時は月兎)の句は、『明治一万句』(明34.3から38.4)より50句を検する。以下『新撰一万句』『最新二万句』『最近新二万句集』『大正一万句』『大正新一万句』『大正新俳句』『新俳句選集』『昭和一万句』より集め、月斗()句の計1091句を得た。

子規没前のものは特にまとめたものは無いが、亀田小蛄の記した様々な文中より、松本島春が孫引きして拾集したものを、次に示して置く。

 

 

 

月兎時代の句抄

 

 

青木月兎の句(その01)

  

青木月兎の句

 

明治三十年

(麟作東上)美しき術を学びに初の旅

三十年の東下りや錦織

 

 

明治三十一年

「文庫」虚子選

恥しの花の御宴に召されけり

花満開ボートレイスに勝ちにけり

石の上に松の落葉の散乱す(護郎丸)

夏草の中に咲きけり小さき花()

五月雨や五位鳴く沢の水明り()

有明の水際寒し燕子花

神前の灯をつつむ若葉かな

雲の峰屠牛ひかるる町の坂

ピンをもて薔薇とめたる帽子かな

怪鳥の声けたたまし木下闇

石うてば若葉のそよぐ谷間かな

 

「新声」碧梧桐選

対岸の家おぼろなり舟下る()

三周りの桜ちらほらちりかかる()

 

「よしあし艸」

霞む日を佐世保へ渡る汽船かな

馬子衆の歌霞みけり山鹿道

衣更へて乳母がり訪ひぬ近き村

後ろ影の妹美しき更衣

 

「ホトトギス」鳴雪

駕舁の足に飛びつくきりぎりす

 

 

明治三十二年

太郎冠者次郎冠者と御慶かな(史郎丸)

三尺の庭に初日を拝しけり()

法の杖高野の花につきにけり(無名)

衣更へて乳母がり訪ひぬ小さき村()

後かげの妹うつくしき更衣()

 

「ホトトギス」鳴・虚・露・碧・四

老の身の泣く事多し冬籠

門つけの三味線冴る夜半哉

川添の白壁冴る月夜かな

夜起きて厠に寒き手燭かな

白足袋の若衆下戸なり花の宴

せぐまって日南の接穂余念なき

傾城を連歌の友や春の雨

物干に鉢のさうびを並べけり

芒野に今宵の月の出にけり

山裾に小さき庵や梅もどき

朝寒の近き山見る二階かな

(座摩祭)甘酒は子供の物に今年酒

宝物の黄金仏や水仙花

 

「ホトトギス」課題 子規選

来て見れば乳母健にして木の芽和

嫁入の隣騒ぐや宵の春

朝霜や遊里に近き流行神

 

「日本」子規選

日あたりの座敷に老の二日灸

病癒えず人の勧むる二日灸

出代の荷物を載する車かな

休日の二日つづきて花盛

絵踏して事無く帰る女かな

待つ程に番の来れる絵踏かな

おそろしき心に絵踏終りけり

役人の眼するどき絵踏かな

籠にもりて林檎捧げん枕元

神の子の夢にいちごを捧ぐらむ

厄月を庭の牡丹に雨多し

 

 

「日本」

元日を姉の帯借る妹かな

元日を朝から泣て居る子かな

元日の薬を飲むや起き直り

元日の新聞を一寸見たりけり

元日の雪降りそうな曇かな

歌がるた煙草のむ間もなかりけり

たけなはや手をかきむしる歌かるた

十の手の一度に出るや歌がるた

膳棚の横手に貼りぬ初暦

初暦時計の下に貼られけり

初暦はがきの裏に貼りにけり

台所や朝日のあたる初暦

絵草紙にぶらさげてあり初暦

 

「日本」子規選

つつじ咲いて園遊会を催しぬ

鉢植のつつじ咲きけり散る桜

柳垂れて静けき門や五月雨

新らしき下駄はいて出る五月雨

酸漿の青きを売るや夏祭

花提げて我門通る袷かな

家もちて庭木うれしや蝉しぐれ

蛍見の舟にとび来る蛍かな

夏草に両掛おろし休みけり

針医者の門に番待つ日傘かな

 

 

明治三十三年

「子規庵賀帖」

元日に鶯鳴や根岸庵

 

「日本」子規選

鶯の首傾けて初音かな

鶯や日南の籠に谷渡り

鶯やよき鶯の側に置く

鶯の啼くや梅ある田舎寺

人の来て柴折りくべる余寒かな

一夜寝る木幡の宿や茶摘唄

雲雀落ちて畑の窪みを走りけり

雲雀鳴く籠の夜明や餌に乏し

燕の見送り顔や鳥帰る

花二つ一つ咲かざる椿かな

畑中の電信棒や畑打

風吹いていぶる薪や薪能

藤垂れてうれしき茶屋の床几かな

寝ころびし床几の上や藤の花

対岸の家朧なり舟下る

若草や森遠くして紙鳶

野の池の氷も解けて草若し

椿咲いて家のまわりの草若し

紅梅の梢や少し咲きにけり

蜆売の話してゐる柳かな

父病んで市に蜆を売る子かな

片隅に赤い椿や茶の木原

初雷や雨雲せまる梨の花

折からの初雷や梅の茶屋

どろどろと初雷や八下り

雉子鳴いて向ふの山へ飛びにけり

追ひつめて雉子とる寺の畑かな

銃音に雉立つ山の日午なり

よき衣に彼岸詣の埃かな

彼岸会の寺の裏手や糸桜

咲きのこる紅梅薄き彼岸かな

此ほとり芹を養ふ春の水

火事跡の紙鳶あげ場所となりにけり

吊したる紙鳶いろいろの紙鳶屋かな

年古りし鍼医が家や燕

橋詰の大きな家や燕

 

「ホトトギス」課題句

三戸前の土蔵の煤を払ひけり

煤掃や水戸街道の一軒家

煤掃の畳をたたく浜辺かな

 

 

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

 

『春星』ホームページ