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第12回(平成10年 8月10日)
POGバブルにおける須田鷹雄の位置づけは?
 8/10 1998.

シーキングザパールが勝っためでたい日だというのにまたまた心躍らんコラムを書く。競馬王9月号における藤代三郎・亀和田武・かなざわいっせい各氏の座談会(P28−29)読んだ感想だ。ま、さらっと読めばどういうことのないものでもあるのだが、自分としては引っかかるものがあったのでコラムとして書いておく。

座談会自体は種牡馬に関するものだったのだが、終盤にPOGの話となり、いつもの通りにかなざわ氏がPOG嫌いの発言をした。馬主ヅラして馬の使い方に口を出すヤツが許せない、というまあ言ってみればいつものパターンである。
 で、非常に引っかかるのがそれを受けての亀和田氏の発言だ。
「やっぱ大学の競馬サークルとかああいう連中が中心になってやってるんだろうな。レーシングプログラムを何十冊も持っていくやつらだからさ。でも本屋に行くとPOGのコーナーがあって、いまや須田鷹雄はPOG成金(笑)」(以下略)
 ま、善意に考えて亀和田さんに悪気はなかったとしましょう。「(笑)」もついてるし。しかし、やたら妬み嫉みの多いこの世界で、冗談でもこういう表現をしてもらっちゃ困るのである。また、POGブームの経緯を知っている人ならば、私がPOGを利用して上手い金儲けをしている(「成金」という言葉の意味ってそういうことでしょ?)というようなことを言いはしないだろう。

かつて、POGは競馬雑誌の世界では冷遇されていたネタであった。それでも私がPOGにこだわってきたのは、「POGは競馬ファン(特に初心者)が競馬に対して総合的に理解を深める上で役立つ」という信念を持っていたからであり、それについては今も変わらない(これについては光文社本の前書きにも書いた)。だからこそ、POGバブルともいえる今の状況においても、私はそれに踊ることのない本づくりを心がけた(そして来年も)つもりである。
 一方、競馬雑誌系のPOG特集はどうか。とにかくカメラマンに3歳馬の写真撮らせてくる、コメントつける、牧場なりテキのコメントあればなおよし、ハイ出来上がり。そんなのばっかりではないか。全ての雑誌を一緒くたにして論じるのは乱暴な話だが、申し訳ないけど「編集」というクリエイティビティが作用した結果の出版物とは思えない(ま、POGに限らず関係者全面依存のページは多いんだけどね)。もちろん、カタログタイプの雑誌がすべからく駄目だとは言うわけではない。どんな馬を指名したのか見ておきたい読者は多いだろうし、カタログタイプにもレベルというものはある。要はどんな水準かということ、あと出版点数が多すぎということだ。
 なにしろ、雑誌によってはブームに対し露骨にただ乗りしてきたところもあるわけだ。ダビスタも騎手もグッズも一段落していまはPOGくらいしか草刈り場が無い、という態度がミエミエだ。断言してもいいが、その手の雑誌はPOGブームが一段落したらいつの間にか姿を消しているはずだし、もっとひどい場合にはPOGバッシングに回っているかもしれない。
 ま、POGバブル批判はさておいて自分の話だが、そういう時期だからこそ、私は(悪い意味での)ミーハーPOGファン、とにかく写真さえ載っていればいいというようなファンには不親切な本を作ろうと考えた。カラー写真は少ないし(4色ページは当初予定の半分にした)、藤澤師・森師のところまでインタビューに行きながら即効性の情報はほとんどない(これは取材者である平松・石田両氏にお願いしてそうした)。ノースヒルズだって生産理念の方に重点がいっているし、合田さんインタビューにしても単に「どの馬がいいですか」だけの話にはなっていないはずである。しかし、もちろん単に不親切にしただけではなく、内容は一定以上の水準を保っている、そういう本を作ったはずである。
 そこまで手間暇かけてしかも頑固に本を作ったにもかかわらず、「成金」呼ばわりされるのは非常に不本意なのである。亀和田さんに悪意はなかったにしても、活字になるというのはまた別の効果があるわけだし。予備知識のない読者は字面通りに受け止めてしまうのだろう。字面としては「須田はマナーの悪い若いファン相手に上手い商売やってる」と読めるよなあ。「(笑)」がついたとしても(ついたからこそなおさらか?)。そんなこと言われるなら、せめて金欲しいよ。ワニ時代はボランティアに毛が生えた程度のもんだったし、今年の刷りだって3万5000だ。経費や外注の取り分を考えたら私の手元にいくら残るか、出版業界の人だったら分かるだろう。ダビスタとはゼロがひとつもふたつも違うよ。

一方、もはや定番となったかなざわ氏のPOG批判(今回は藤代氏も含めて)にも触れておこう。かなざわさんがPOGを嫌いだというのは別にいい。しかし、好き嫌いと善悪をごっちゃにされては困る。「俺の馬」呼ばわりするヤツがいるとか、馬の使い方をとやかく言うヤツがムカつくとか、そんなのそばにいるなら殴りゃ済むことではないか。公共の誌面でPOGの原罪とすり替えて書くことか。
 もちろん、POGファンにもマナーのよくない者はいる。残念なことだが、いわゆる「関係者問い合わせ」をしてしまう者や、最近はネットでデマを流す者も現れた。しかし、それをPOGファンの平均像ということにするのは乱暴な論法ではないか。それは、経済破綻者を指さして「競馬をやるとこういうことになる」と主張する婦人団体と同レベルなのではないだろうか。悪質ファンを駆逐するための方策を考えようというのなら協力できるが、我々を悪質ファンと同一視したいというのなら話にならない。
 今回の座談会では藤代氏が「POGファンは馬券をあまり買わない=競馬経済に貢献していない」という論点を提示したため、かなざわ氏もそれに沿った「意見」を述べているのだが、これがまた、別冊宝島のエースとは思えないほどひどい。上記藤代氏の意見に対して、
「POGの会費を出すために馬券代減ってるんだもん。絶対そうですよ。なぜ日本の映画が滅んだかというと、映画館に見にいかずビデオ見ちゃうからだもん。それと同じですよ」
 どこか同じなんだ。今年の売り上げは前年の4兆から7%程度、2000−3000億円のダウンと見込まれるが、POGは2000億円産業なのか。それこそ「(笑)」をつけなきゃ収まりが悪い話ではないか。そんなデカい話になってるなら、ホントに俺は成金になれるよ。比較的購買力の無い若年層がPOGをやっているというのは確かだが、それと売り上げダウンは別問題だ。ビデオうんぬんの例えはノミ行為とPOGを同格に扱うものだ。本気で言ってるのだろうか。

かなざわ氏はPOG嫌いの人だから、昨今のPOGバブルに対して苛立ちを覚えるのだろう。その心境は理解できる。しかし、POGを嫌いであるなら、嫌いであるからこそ慎重な書き方をする必要があるのではないか。とりあえず、POGファンにも色々な人間がいるし、POG本の作り手にも色々いるというところから勉強してほしい。かなざわ氏がイメージしているほどPOG界は単純で罪深いものではない。

あと、「成金」っていう表現にとことんこだわっておくが、ゼニ儲けだけが目的だったらこんな風にPOG擁護なんかしないで、裏でそーっと金稼いでるよ。


本当はPOGバブルとその反動に対する懸念についてまで書きたかったのだが、今回は長くなりすぎたのでまた回を改めることとする。



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(有)ドラゴンプレス